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第三十話  九条の島

第三十話    九条の島



「旅行?」 オリガミが目を丸くする。


「そうじゃ、せっかくじゃから温泉でも……」 宮下がご機嫌で話していた。




「あの……私たち、温泉に入れませんが……」 オリガミは真面目な顔で答えた。


でたホウレンソウみたくなるわよ……」 テマリが会話に入ると、

「いやいや、ブロッコリーかな」 「いやいや、ワラビとか……」



「あ~ ウルサイ!」 宮下が止めた。

「ホウレンソウでも小松菜でも……どうでもいい」 



“しーん…… ”

無言になってしまった。



「とにかく慰安いあん旅行りょこうじゃ!」 宮下は、どうしても行きたいようだ。



「困ったな……」 テマリは悩んでいた。

宮下が旅行をしたいのは解るが、神社を空けるのは気が引けていた。




「どうする?」 テマリはオリガミに相談していた。


「マスター、どんなのが好きか聞いてみよう」 オリガミは宮下の所に行った。



「マスター、どんな所に旅行に行きたいの?」 オリガミが宮下に訊ねると、



「幻想的で、生涯に一度しか見れない場所がいいのう……」


「……」 オリガミは呆れていた。 

そんな時間や金が ある訳ない……とさえ思っていた。




“ピーン ” オリガミの頭に、ある提案が走った。



「テマリ……九条くじょうしまはどう?」

「九条……の?」 テマリの目が点になった。



「なんで九条の島を知っているの?」 テマリは慌てたように、オリガミに聞くと



「あれ? 何で言ったんだろう……? 九条の島って、何だろう?」

オリガミは、自分の発言に驚いていた。



「……」 テマリは言葉が出なかった。

(そろそろか……) テマリは、オリガミが自分を知っていくのに時間は掛からないと覚悟をしていた。



そこに、歌声が聴こえてきた。

「つま先たてて 海へ~ モンローウォークして行く~♪」



「あのモンローウォークは……」 オリガミとテマリはビクッとした。


そう、トウジである。

「ジャマイカ辺りのステップで~♪」 「邪魔するよ」


入ってきたトウジに、オリガミが声を掛ける。


「なんで、モンローウォークなのよ? ジャマイカンな恰好は解るけど……」


呆れるオリガミに、トウジが

「お前、九条の島って言わなかった?」 と、言い出したのである。



(地獄耳かよ……)


「ところで、九条の島って何?」 オリガミは興味で、トウジに聞いていた。


「そりゃ、九条の島って言えば お前の……」 トウジが言いかけた瞬間に



「テマリ キーック!」 が、さく裂した。



“ゴロゴロ、ドン ” トウジは転がり、壁にぶち当たってしまった。


「何すんだ、この野郎!」 トウジは怒って、テマリに怒鳴っている。



(この二人が本当の親子みたい……) オリガミは、呆然と二人を見ていた。



「黙ってて下さいよ……」 テマリは、小さな声でトウジに話す。

 

「何? 知らないの? 言ってないの?」 トウジは驚いていた。


「はい、すみません……ヒサメ様にも同じ事を……」 テマリは申し訳なさそうにしていた。



「しょうがないな……」 トウジは諦めたように声を漏らす。



「いつか、自分で知っていけたら……と、思いまして……」


「お前が困るからだろ?」 トウジは、下を向くテマリに言った。



「なんでそれを……?」 テマリは驚いていた。


テマリはオリガミに内緒にしている事がある。

それは、オリガミとテマリの関係である。



「俺、妻から聞いてるから……」 トウジはニヤリとする。



「でも、九条の島には行けないぜ……」 続けてトウジは言う。



「三種の神器ですよね?」 テマリが言うと、トウジは頷いた。



日本の三種の神器とは、『八咫やたのかがみ草薙くさなぎのつるぎ八尺瓊やさかにの勾玉まがたま』 であるが、

九条の神器とは異なる。



「そうだ、あと一つだな……」 トウジは言った。



「ほう……面白そうな話しじゃな」 宮下が聞いていたらしく、会話に入ってきた。



「オリガミ、ちと買い物をしてきてくれ……」 宮下は、オリガミにメモを渡した。



「行ってきます……」 オリガミが買い物に向かうと、話の続きをした。



「九条の……三種の神器とは、何じゃ?」 宮下は興味津々のようだ。



「九条の三種の神器とは、鏡、腕輪、そして弓だ。 それがないと九条の島には行けないぜ……」 トウジは説明した。



「そうなのか? テマリ」 宮下はテマリを見た。



「はい……鏡は境内にある式神が彫ってある鏡、式神しきがみのかがみです。 腕輪は、オリガミが身つけているヤツ……天龍てんりゅうの腕輪うでわ。 そして、地空絶ちくうぜつゆみが何処にあるか不明なのです」

テマリは静かに説明をする。



「それで、テマリとオリガミの関係は?」 宮下は、深く聞いてきた。



「前に言った通りです。 オリガミは姫、私は血縁ですが従者じゅうじゃなんです……そして、三種の神器を探す手伝いをしているのです」



衝撃の発言であった。


宮下に言葉が出なかったのは、言うまでもない。



「つまり、オリガミは何処の姫なのだ?」 宮下は恐る恐る聞いた。



「知りたいですか? 聞いたら戻れませんよ」

テマリが厳しい表情かおになる。



「うっ……」 宮下は黙ってしまった。



「だから、今はこのままで……」 テマリは、会話を終わらせるように言った。



(しょうがないな……) トウジは、ため息をついていた。



「なら、爺さんの旅行は後の楽しみにして、弓を探すか? それで爺さんを九条の島の旅行にしてやんな」 トウジは、洒落た言葉を残して帰っていった。



「九条の島か……どんな所じゃ?」 宮下は、チラッとテマリを見た。



テマリは下を向き 「それは……八百万やおよろずの神々《かみがみ》が住む場所ですよ」 と、答えた。



「ほう……神職としては、有難い話しじゃな」 




そして、 「ただいまー」 と、オリガミが帰ってきた。


「おー 待っておった♪」 宮下はご機嫌になった。



「この時期に食べる羊羹ようかんと、お茶が合うんじゃ♪」


「……」 オリガミとテマリは言葉を失っていた。



そんな中、トウジは弓がある場所を探していた。

「アイツ(ヒサメ)に聞くかな……」



そして、トウジは八王子の氷雨神社に来ていた。


「ジャマイカ辺りのステップで~♪」 相変わらずのモンローウォークを唄いながら、氷雨神社の中へ入ると



「私は、「スローなブギにしてくれ」が好きだ」 ヒサメが立っていた。


「渋いな……」 トウジはニヤリとした。


勝手に『みなみ 佳孝よしたか』を出して申し訳ないと思いつつも、ファンである為、仕方ないと思ったトウジとヒサメである。



「弓、渡してやらないの?」 トウジが言うと

「なんで、渡さなくちゃならん?」 




 「娘が苦しんでるぜ……」 

 「テマリが苦しんでるだけだ……」 この二人は、一歩もゆずる気はないようだ。



 「まぁ、任せるよ……俺は、ただの人間だ」 そう言って、トウジは去っていった。



 「……」 ヒサメは何も言わなかった。



 そして夜……


 「護、今日は鍋だよ~♪」 オリガミは夕飯を作っていた。

 「美味そう♡ いただきます」



 「美味しかった♡ ありがとう、オリガミ……」 護は嬉しさから、オリガミにキスをしようと顔を近づけた瞬間



 「じぃぃぃ……」 っと、窓からヒサメが覗いていた。


 「うわっ」 「キャー」 護とオリガミは悲鳴をあげた。



 「なんで? ここ二階だよ?」 護の心臓はバクバクしていた。



「ベランダがあったから良かった」 ヒサメはクールに説明していたが、行動は立派な犯罪である。



「邪魔するよ」 ヒサメはベランダから部屋に入ってきた。


(玄関から入れよ……) オリガミは思った。




「タイミングが悪かったな……許してくれ」 ヒサメは謝るが、


(最悪すぎよ……一番、いいところだったのに……) オリガミは苦笑いだった。


「ところで、何の用?」 オリガミはヒサメに水を出す。



「お前、九条の島を知っているのかい?」 ヒサメはタバコに火をつけた。


(ここ、禁煙……) 護は顔をひきつらせる。


護も、オリガミもタバコは吸わない。 しかし、オリガミの母親である以上、何も言えなかった。



「知らない……なんか、知っても良くないかなぁ……って」 オリガミの言葉にホッとしたのか、ヒサメは



「じゃ、いいか……帰るわ」 そう言って、ヒサメはベランダに出て行った。



「玄関から帰りなさいよ!」 怒鳴るオリガミに、ヒサメはムッとした。



「随分と生意気になったものだね……」 ヒサメは肩を落として、玄関から帰って行った。



「九条の島って?」 護が聞くと、

「なんか、頭に浮かんだのよね……」 オリガミ自身も、不思議に思っていた。



そして翌日、オリガミは図書館に来ていた。



「えと……日本の地図は」 オリガミは地図を見て、九条の島を探していたが見つからなかった。



(何を探したら、九条の島は見つかるのだろう……なにか謎があるはず) 

諦めないオリガミは、モヤモヤを抱えたまま神社に来ていた。



 「おはよう」 オリガミが声を掛け、社務所に入る。


 「おはよう♪」 テマリの元気な声が返ってきた。


 (これでいい……この日常が好きなんだから) オリガミは、自分に言い聞かせていた。



 「仕事じゃ、行くぞ」 宮下がメモを持ってきた。


 

 「ここの角の家ね……」 テマリが道案内をして着いたのが



 「……随分と、古い神社ね……」 三人は口を開けたままであった。


 案内のメモに書いてあった住所に来てみると、古くちたような神社である。



 「ようこそ、おいでくださいました……」 背後から祟りが来そうな声で話し掛けてきた人が現れると




 「でたーーっ」 三人はパニックになり、腰を抜かしてしまった。




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