第三話 七夕の再会
第三話 七夕の再会
「あれ? 護さん?」 オリガミは護を見て口を開く。
「――そ、そうです。 やっぱりオリガミさんでしたね。 探していましたよ!」
「よかった……オリガミさんで……」
護は目に涙を浮かべ、オリガミが座っているベッドの隣に座った。
「会えなくなってから二か月以上経ったけど、オリガミさんはどうしてたの?」
護は探すのに苦労したこと、今まで何処に居たのかをオリガミに聞いていた。
「う~ん……」 オリガミは複雑な表情で返事に困っている。
(いきなり聞きすぎたかな?) 護も困った顔になってしまった。
「オリガミさん、コーヒー飲みますか? 淹れますよ♪」
護が言葉を掛け、キッチンに向かう。
すると 「ううん。 要らない。 さっきお水を飲ませて貰ったから……」
と、オリガミは言った。
「えっ? お水飲んだの? いつの間に?」
護は不思議そうな顔をしてオリガミを見つめる。
「さっきお水をくれたじゃない。 だから十分よ♪ コーヒーなんて飲めないし……」
「???」
オリガミの言葉に、護は更に頭が混乱してきていた。
「ど、どういうこと? オリガミさん、俺……」
頭が混乱している護に、オリガミは植木鉢を指さす。
「あれ、私……」
オリガミの言葉に、護の脳に更なる混乱が襲ってきていた。
「―ごめん……オリガミさんが言っていることが理解できなくて……」
護が申し訳なさそうにしていると
「私もごめんね。 説明しても理解されないと思うのだけど……聞く?」
「き、聞きたい……」
「じゃ、話すね……」 オリガミは、護に今回に経緯を話し始める。
話すこと三十分……
「と、言う訳なの……」 オリガミは事の経緯を伝え、心配そうに護を見つめた。
そして、オリガミの話しを聞いた護が確認する。
「じゃ、僕がオリガミさんから買った種からオリガミさんが生まれたってこと?」 実にザックリとまとめた護であった。
「す、すごく短くしたわね……」
三十分、話したことを一言にして片づけた護に、オリガミは複雑な顔をしていた。
「だから護さんは、この植物を大切にしないとダメです。 私が枯れてしまうからね……」 オリガミは護に念を押した。
「わかったよ……」 護は疑うことなくオリガミの言う事を信じる。
(そんな簡単に分かるもの……?) ますます単純な護に苦笑いをしていた。
「―それでね♪ オリガミさん、今日は俺の誕生日なんだ♪」
護が先程のオリガミの事を聞いてから、唐突に話しを切り出す。
「切り替え 早っ!」 オリガミは護の切り出しに驚いていた。
「あ、そう……おめでとう♪」
(あれだけ不思議と思うことを話したのに、軽く了解して疑問も持たずに自分の誕生日を話したの?) オリガミはトコトン単純な護に驚いていた。
ただ単純で……純粋にオリガミを探して、ずっと会いたがってくれていた護に好意を持っていく。
「じゃ、護の誕生日だからお出かけしようか?」
「おっ! 護って呼んだね。 “さん ” が抜けて嬉しいな♪」 護は純粋に喜んでいた。
「一緒に暮らしていくんだもん。 普通じゃない?」
オリガミはニカッと笑った。
「一緒に? って……」
オリガミはムッとして 「さっきの話し、聞いてなかったの?」
そしてオリガミは植木鉢を指さす。
「そうだったね……」 護は思い出して納得した。
そうして護は出掛ける準備をしていたが、
「―オリガミさん、どうしたの?」
オリガミはベッドに座ったまま、掛け布団を腰から下に掛けていた。
「……ないの……」 下を向いていたオリガミは何かを言うと
「うん?」 護はオリガミの言葉が聞き取れず、聞き直す。
「だから服が無いのっ! 下着も……」
オリガミは顔を真っ赤にして大声をだした。
今のオリガミは、護が貸してくれたパーカーに下は裸のままだった。
「そうだったね……裸だったもんね。 実の中には服とかは入ってなかったんだね……」
護がサラッと話したことに、オリガミはムッとした表情になっていく。
「植物の中に服とか、繊維ものが入っている訳ないでしょう?」
と常識的な話しをして ハッとして思いついた。
「まさか、護……それを併せて、“植物繊維 ”とか言わないわよね?」
と、オリガミが渾身のギャグを言ってみせると
「おぉ……上手い!」 護が拍手をしていた。
「そ、そんな事より服が欲しいよ。 護、買ってきて……」
オリガミは護にお願いをしたが
「う~ん……」 護は困っていた。
「どうしたの?」
「服は良いんだけど……下着とか……」
護が困っていたのは、オリガミの下着の件であった。
「そっか……さすがに男の子が、女の子の下着を買えないよね……」
オリガミも頭を抱えた。
「じゃ……」 オリガミは声を出すと、護の衣装ケースを漁りだした。
「何をっ? って下半身……」
オリガミは下半身が裸のまま、護のタンスを漁( )《あさ》りだす。
(なんか色々と大丈夫だろうか……)
護はオリガミの着替えから目を逸らし、五分ほど経つと
「どやっ?」 オリガミはポーズをとって護に見せる。
オリガミは夏というのに、護のパーカーとジャージの短パン姿に着替えていた。
(とりあえずは分からないか……) 護は頷き、安心する。
二人で外を歩き、買い物に向かっている道中、
「やっぱり下着がないとスース―するわね……」
オリガミは苦笑いをして、お尻あたりを気にしながら歩いていた。
「さすがに俺でも、違和感あると思うな……」
護も同じような顔をしていた。
※ ※ ※
そして、護とオリガミは買い物を楽しんでいた。
「護~、この下着はどう?」
オリガミは下着を手に取って護に見せる。
「―ぐはっ! ちょっと下着はオリガミさんが選んでよ! 俺じゃ、その……キツイから……」 護は恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた。
「ぐひひ~♪ 護、想像しちゃった?」
オリガミはそう言って、可愛らしい笑顔をしていた。
「だ、誰が……」 護が顔を逸らす。
(しかし、美人だしスタイルも良いから想像しちゃうよな~)
護には刺激が強すぎたようだ。
全ての買い物を終えた二人は、沢山の荷物を抱えて帰宅した。
「マモル~、お風呂に入っておいで~」
オリガミは買い物の荷解きをしながら声を出す。
「オリガミさん、先に入っていいよ!」
護はオリガミを気遣い、先にお風呂を勧めたが、
「私、お湯は無理だからさ……」
オリガミは植物から生まれているため、お湯は無理なようだ。
「そうか……俺から入るね!」 護は風呂に入っていった。
(嬉しいな~♪) オリガミは護が受け入れてくれたことに、顔がほころんでいた。
「ルンルン♪」 護の入浴中、オリガミは鼻歌を歌いながら荷物の整理をしていた。
「上がったよ!」
護はお風呂から上がり、オリガミの荷ほどきの状態を見に声を掛けた。
「うわっ!」
護が驚き、声をあげると
「何よ? 騒がしいわね!」
オリガミは下着だけの恰好になっていた。
「なんちゅう恰好でしているの?」 護はため息をついた。
「あぁ……だって動いていたら、暑くなっちゃって……」
しばらくオリガミは下着姿で荷物を整理した。
「じゃあ、食事にしようか?」
護の言葉に、オリガミは軽く頷く。
(あれ……?)
「あの~ オリガミさん?」 護は目をパチクリさせた。
「なに?」
食卓に並んでいる料理は全て護の料理であり、オリガミの食事はコップ一杯の水だけであった。
「本当に水だけ?」 護はオリガミを心配していた。
「本当よ! 私、水だけで十分よ。」
「それと、植木鉢に肥料なんてあげないでね! 太るから……」
オリガミは護に注意を促す。
「そんなもんなんだ……しかし、作り過ぎたな……」
護はオリガミの言葉に頷いたが、どうしてもオリガミが植物と同体になっていることを不思議に思っていた。
「私、お風呂に入ってくるね♪」 オリガミは浴室に向かった。
護は給湯器のリモコンと見ると、お湯が出ている赤いランプが点いていないのが分かった。
(本当に水だけなんだ……まぁ夏だしね……) 護は無理に納得していた。
軽くシャワーだけしてきた オリガミが部屋に戻ってきた。
「いい水でした♡」 オリガミは満足そうにしていると
(普通、「いいお湯でした♡」なんだけど……) 護は苦笑いをしていた。
翌朝、護が目覚めるとオリガミは護のベッドの中でスヤスヤと眠っていた。
「ふわぁぁぁぁ」
あくびをした後、護は気づいた。
「んっ? また俺のベッドで寝たのか……」
「オリガミさん……」 護は優しく声を掛けた。
「んん……おはよう♪」 オリガミは護の声掛けに目が覚めた。
「なんで布団を買ったのに、俺のベッドで寝るのさ?」
護が、呆れた様に言うと
「だって、一緒に寝たかったんだもん……」 オリガミは寝起きの蒼い瞳を擦りながら言った。
(可愛いな……♡) 護はオリガミを見つめ、また会えた幸せを喜んでいた。
ただ、これだけが護は気になっていた。
「―だから、寝ている時は服を着ようよ……」
「だって邪魔なんだもん……むにゃむにゃ……」
「―寝るな~」
オリガミは、寝る時に全裸でいたいようだ。
そして朝、賑やかな目覚めで1日が始まる。
テーブルの上には二つのコップが並ぶ。
コーヒーと水、護はコーヒー、オリガミは水だ。
オリガミは いそいそと服を着てテーブルまで来て水を飲んだ。
「ぷはーっ」 オリガミは一気に水を飲み干し、ビールを飲んだかのような声をあげる。
「いい飲みっぷりだね、オリガミさん♪」 護は、この生活を気に入っていた。
「あのさ……護、私は本当に此処に住んでていいの?」 オリガミはモジモジして聞くと、
「良いに決まってるじゃん。 どうして?」
「そりゃ、何処の馬の骨……じゃない、何処の種から出てきた実をさ……」
「面白いことを言うな~」 護は笑っていた。
「ううん……早く食べな。 会社に遅れるよ!」 オリガミは時計を指さした。
護はパンを軽く食べて、会社に向かう準備をしていた。
オリガミも日中の服に着替え、護を見送ろうと玄関に向かう。
「いってらっしゃい♡」 オリガミは手を振った。
「おぉ、いってきます♡」 護はオリガミの姿に顔を赤くした。
(なんか、見送り姿っていいな~)
まるで新婚のような朝を迎え、一日が始まった。