第二十九話 牛車
第二十九話 牛車
「護―ッ」 オリガミは急いでいた。
(早く助けないと……) そして、急いでいるオリガミの足を引っ張る者がいた。
ヒサメである。
「ぜぇ ぜぇ……足が痛い……」 ヒサメは泣きそうな顔をしている。
「あの……なんでヒールを履いてきたのですか?」 テマリが苦笑いで話しかけると、
「……ちっ」 オリガミは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「なんだい? その顔は……?」 ヒサメはオリガミの態度に腹をたてる。
「足が痛いなら、お帰りください」 オリガミは急いでいるのに、ヒサメの行動にウンザリしていた。
「そんな態度なら、分かったよ……」 ヒサメがオリガミを睨む。
「―うっ」 オリガミとテマリは身構えた。
すると、ヒサメはクルリと回転し、
「ヘイ、タクシー」 と、親指を出していた。
「これなら文句ないだろ?」 ヒサメはドヤ顔をしている。
(この令和の時代に、「ヘイ、タクシー」って、停め方するんだ……)
テマリは吹き出す寸前で我慢できた。
そしてオリガミは、タクシーの運転手に場所を説明して移動したのである。
「護―っ」 タクシーが到着して、オリガミは飛び出した。
「おい、オリガミー、お金……」 ヒサメは、飛び出して行ったオリガミを捕まえられず、渋々と料金を払っていた。
オリガミが護を見つけると涙が溢れていた。
「護……って、何をしているのよ?」 オリガミは驚いていた。
「何って、この衣装を着ろと……」 護はケロッとしていた。
護の衣装は、平安時代の公家が着ていた服のようであった。
「誰? そんな事を言ったのは……?」
「テマリちゃんだけど……」 護は、普通に言ってのけた。
「テマリ?」 オリガミが、テマリをみると
「私、知らないよ」 テマリは否定した。
「ここに一緒に来たじゃない」 護はテマリに言ったが、テマリは首を傾げた。
「テマリは私と一緒に居たわよ」 オリガミの言葉で全員が混乱し始めたとき
「いや~ 済まない……私なんだわ……」 秋草が頭に手を置き、現れた。
「なんで? 護に何か用だったの?」 オリガミは秋草を睨む。
「どうしても、護に手伝って欲しかったの……」
(ははん……アレか) ヒサメはニヤリとした。
「ピリピリしてるとこ、ゴメンなさいね~」 ヒサメが会話に割り込んできた。
「何よ、アンタ……って ヒサメ? なんでココに……?」
「そりゃ、私の娘だもの……まだ九条に因縁をつけるつもり?」
ヒサメは、秋草との距離を縮める。
「斉田の家のことは知っちゃことない……しかし、九条に因縁を吹っ掛けるなら相手をしようじゃないか……」
ヒサメは秋草を睨みながらタバコに火をつけた。
「ヒサメ……いつも いつも斉田の邪魔しやがって……」
秋草が掌から波動を出し、ヒサメを狙ったが
「―危ない」 オリガミがヒサメを抱えて回避する。
「お母さん、大丈夫?」 オリガミがヒサメを抱えながら確認すると
「お前に言われるほど老いてないわっ!」
「なんなの? 心配して言っているのに」 助けたのに、口喧嘩が始まってしまった。
……ぽつん…… 秋草は取り残されていた。
「いつも いつも邪魔するし、今度は無視するし……許しません」
秋草が合図をすると、無数の物の怪を召喚させる。
「あらあら……」 ヒサメは困った顔をしていた。
「お母さん……アイツ、妖術を使えないんじゃなかったの?」
オリガミはヒサメに聞くと
「アンタと顔を多く合わせたから封印が解けたのかしら……」
「私? 私が鍵だったの?」 オリガミはうろたえた。
「とりあえず、やっつけましょう」 テマリが声を掛けると、三人で身構えた。
……ぽつん……
今度は護が孤独になっていた。
護を除く、全員が戦闘態勢に入っていたが、護は何も見えていない。
(何が起きているんだ……?)
「うりゃ!」 オリガミの掌から波動を出すと、一体の物の怪は消えた。
「滅セージ……」 オリガミが口にすると、
「アンタ、全部にソレをやるつもり? 無駄に尺を使うんじゃないわよ!」
テマリは、『滅セージを滅セージ』させた。
そしてヒサメは、物の怪を蹴ろうとしたが
“グキッ ”っと音がした。
「いたた……」
どうやらヒールが高く、蹴ろうとした時に足首を捻ったようだ。
(使えん……) オリガミとテマリは、心底思った。
オリガミは折り鶴を投げ、式神を呼ぶ。
“ポン ポン ”
「オリガミ~♪」
「式神たち、この物の怪を退治して!」
「わかった~」
そう言って、式神たちは物の怪に突進していった。
すると、テマリも龍神を呼び寄せ
「龍神、あの物の怪を全滅するのよ」
すると、龍神も物の怪に向かって行った。
(ヤバい……押されてる……逃げるか) 秋草が焦り、逃げようとした時
「何処に行く? 秋草よ……」 ヒサメが立ちはだかった。
「ぐぬぬ……邪魔しおって」 秋草は、さらなる物の怪を呼び出し
「あの、足首ポキ子を ヤッておしまい!」 秋草は叫ぶと
「誰が、足首ポキ子じゃー」 ヒサメはキレた。
すると、空から無数の氷柱が落ちてきて、物の怪は一瞬のうちに消えた。
「ソーセージ……」 ヒサメはオリガミを真似たようだが、少し違った。
「かっこ悪いから、変に間違った事を言うのヤメテー」 戦いの最中であるが、オリガミにも聞こえていたらしい。
そして、物の怪は全滅した。
「さて、秋草……説明してもらおうか」
オリガミは睨んでいた。
「わかったよ……」 秋草は諦めたところで、
「オリガミ……お前が姫……」
「テマリ、キッ~~ク!」 秋草が言いかけた瞬間に、渾身のドロップキックがさく裂した。
「只今の記録……四メートル五十」 物の怪が見えなかった護だが、秋草が吹っ飛んだのは見えていた。
「さて、帰ろう……」 オリガミはニコッと微笑んだ。
「いいのかい?」 ヒサメはオリガミを見つめていた。
「何が起きたか分からないのですが……お母さま、ありがとうございました」
護は礼儀正しく、ヒサメに頭を下げた。
(ちょっと……なかなか、いい男じゃないか……) ヒサメは頬を赤らめると
「ぽっ……じゃないのよ! お母さん、いい歳してヤメテよね~」
果敢にオリガミがツッコんだ。
「してないわよ……」 そして親子喧嘩が数分間、続いた。
「ところで、秋草は護に何をさせたかったのかしら……」 オリガミが話しの核心を突いてくる。
「これさ……」 ヒサメが指さした。
そこには牛車があった。
「これは?」 護が聞くと
「牛車よ……牛で引く車」 テマリが説明する。
「これに俺が? どうして?」 ただ、アタフタしている護。
「知らない……護と牛車でイチャイチャしたかったんじゃない?」
テマリが余計な事を言ったばかりにオリガミが反応してしまった。
「うりゃー 秋草―っ! 勝負しろー」 完全にキレてしまった。
秋草が消えていたのにホッとした三人であった。
そして何故か全員で尊神社に来て、宮下に謝罪をしていた。
(なんで私まで……) ヒサメは頭を下げながらイライラしていた。
「とにかく、全員で働きましょ!」 オリガミが言うと、ヒサメも渋々と御守りの売り子を始めた。
「はい、七百円です~♪」 ヒサメは強引に笑顔で接客をしていたが
「おばさん……六百円ですよ」 奈菜が注意すると
「オバサン……? ナメてるのか、このガキが!」 社務所でキレてしまう始末。
「ゴメンね~ 奈菜ちゃん……」 オリガミが奈菜に謝り、宮下からは追放されたヒサメである。
しかし、護とオリガミは牛車の事は解決しておらず、とりあえず心に封印したのであった。
そして、二日、三日と働き続けた護とオリガミはダウンした。
テマリは元気であったが、後に疲労から寝込む始末。
宮下もバテバテになっていた。
「もう、三が日は出来たから良いじゃろ……」
初めての初詣としては良かったが、毎年と考えると困ってしまう宮下であった。
そして、護とオリガミは
「護……何、食べる?」 完全な疲れからなのか、気の緩みなのか……
布団から出てきたオリガミは、全裸でキッチンに立っていた。
「まず、服が先じゃない……?」 大声で叫ぶ元気もない護は、小声でツッコんでいた。
そして四日、元気を取り戻しつつオリガミは神社に来ていた。
「おはよ♪ 護は?」 テマリは回復したようであった。
「明日から会社だし、今日は休ませた」 オリガミは、完全に主婦になっていた。
そして宮下が声を掛けてきた。
「おはよう…新年は大変じゃったな。 それでなんじゃが、次の依頼じゃ」
宮下は紙をヒラヒラさせていた。
(私に休みを……) 空を見上げ、涙をこぼすオリガミであった。




