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第二十七話  君がいるから

第二十七話    君がいるから



 年末、尊神社では大掃除と新年の準備に大忙しである。



 「しっかり頼むぞ」 宮下は張り切っていた。

 大掃除の為に、宮下やオリガミ、テマリ、護の分の作業着を用意していた。



 「かなり本格的じゃない♪ 護の分まで ありがとう……」

 オリガミは作業着に着替え、護とお揃いの服に喜んでいた。



 「まずは境内じゃ! テマリ、用意はいいか?」


 「OK! じいじ」  宮下と暮らし始めて半年近く、息もピッタリのようである。


床や柱など細部まで綺麗にしていく。


そして、高い場所の掃除は彼らの出番だった。



「オリガミ~♪」 式神である。


「高い場所は任せたからね」

「わかった~♪」 小さな子供のような式神たちは、自由に空を飛べるのである。



「ゴシゴシ♪  ゴシゴシ♪」 可愛い声で一生懸命、拭き掃除をしていた。


「護、コッチいいか?」 宮下に連れられ、護は初詣の用意を始める。



そして、数時間後


「今日は、この辺にしよう……」


「やった~♪」 すすだらけになった四人は、次々とシャワーを浴びに行った。




そして、 「乾杯~」 と、疲れた体を癒す。


「ここ数十年、初詣の看板なんぞ出してなかった……本当に神社らしくなって、本当に感謝してる」


宮下は目に涙を浮かべ、感謝を口にしていた。



「でもさ……なんで何もしなかったのさ……?」 オリガミが聞きだした。



「それは、ワシが宮司になる前の話しじゃ……前の宮司は金儲け主義の人じゃったが、イマイチ折が合わなくてのう。 それが嫌で、初詣や祭りを嫌ってしまったんじゃ……」



(なるほど…… “この人にも歴史あり! ” ってとこか……)

オリガミは神妙な顔つきになっていった。



「しかし、お前らに出会ってから考えが変わった。 金儲け主義は嫌じゃが、それで救われたり喜んでくれるなら初詣や祭りも悪くないとな……」




「じいじ、カッコイイよ……」

テマリは、後ろから宮下を抱きしめた。



「よせ! 照れるわい……」 宮下の顔が赤くなっていく。



そして大晦日。


「ねぇ 護……私もマスターみたいに人が喜ぶことをしたい」

アパートで護が朝食を食べ、テーブルの向かい側に座っていたオリガミが話し出した。



「いいことだね! それで、どんなこと?」


「何でもいい……」 オリガミには具体的な案は持っていなかった。




そして、朝食を済ませた護とオリガミは神社に向かう支度をしていた。

「俺は、十分に笑顔にさせて貰ってるよ……」

護は玄関を開けると、オリガミに気持ちを伝えた。



“ かぁー ” オリガミの顔は赤くなった。

「ちょ……急にズルいよ~」 オリガミは玄関の鍵を閉め、護の腕を掴み神社に向かった。




「おはよう♪ 寒いね~」 オリガミと護が神社に着いた。



「おはよう」 宮下が社務所から出てきた。

「今日も、よろしくお願いします」 護は元気よく挨拶をして、境内に今年のお礼と感謝の参拝をした。



「偉いな~ 護は……」 テマリは寒い中、手に息を吹きかけて温めていた。


「偉い? 護が? なんで?」

オリガミはキョトンとしていた。



「だって、会社がお休みでしょ……それでも恋人の為に、神社で働くんだもん……」


テマリが説明すると、オリガミの顔がニヤけていった。



「――まさか……いたした?」 驚いたように、テマリが言い出すと


「はぁ? な、何を言って……」 オリガミは激しく動揺していたが、実は何もなかった。



「偉いのは護が参拝していること。 ここに 来ると、必ず境内で参拝してから何かをするでしょ」



聞いて、オリガミは納得した。 護が神社に来ると、必ず境内で手を合わせてから始まっていることを思い出していた。



「しかも、手を合わせてる相手がオッキーなんてね」 テマリはニコニコしていた。



「……」 境内の中では、オオクニヌシノミコトがムッとしていたのをテマリは知らない。



「あと、コレ……」 オリガミが紙袋を宮下に手渡す。


「ん? なんじゃ?」 宮下は、紙袋を開けて中身を見た。 湿布が入っていて、それも大量であった。



「湿布? なぜ、こんなに?」 宮下は目を丸くしている。



「護がね、マスターが御朱印を書きすぎて腱鞘炎を心配してるのよ」



「護……」 宮下は目を潤ませ、護を遠くから見ていた。


「優しい……護は、やっぱりオリガミじゃなくて私の方が良いんじゃないかと思うの~」 テマリは強引に気を引こうとしていた。




「やめなさい!」 オリガミの怒号が響く。



そして大晦日の夜、大体の準備を終えて除夜の鐘を待つ。


その中で、数件の露店は営業を開始していた。



「むしゃり……もしゃり……」 護は、イカ焼きと たこ焼きを頬張っていた。



「ちょっと、口のまわりがベタベタよ」 オリガミはハンカチで護の口を拭いていた。




「相変わらず、仲が良いね~」 そこに斉田が来ていた。


「あら、秋草……来たんだ」 オリガミの声は、少し冷たかった。


「その冷めた口調、やめてくれない……?」 斉田はオリガミに注意すると



「アンタ、妖術を使うんでしょ? それで、お家復興いえふっこうに励みなさいな……困って私を頼らないで」 オリガミは、斉田からの面倒ごとを頼まれるのに疲れていた。



「だから、今は使えないんだって~」

「ふんっ」



(なんかオリガミ、機嫌悪いな……) 護は、斉田から厄介ごとを頼まれまくっているオリガミを知らなかった。



「その……また折り入って頼みがあるんだけどさ……」 斉田が手を合わせると、

「断る……」 オリガミは一言で片づけた。



「今回は、オリガミじゃなくて……お兄さんに……」


「へっ? 俺?」 護は驚いていた。 

「はぁ?」 オリガミは、もっと驚いていた。



「出来る訳ないでしょ! なんで護なのよ」 当然ながら、オリガミは怒っていた。



「そ、そうよね……」 斉田は大人しく引き下がった。



そして深夜0時、新年を迎えた。

神社には、沢山の人で溢れている。



神社の鐘が忙しそうに鳴っている。 ここには沢山の笑顔がある。


“それでいい……むしろ、それがいい…… ”

平和や、穏やかな日常が何よりも有難い。



「はい。 御守りですね」 テマリが社務所で販売、オリガミと宮下は境内で神様に新年の祈祷きとうをしていた。



そんな中、オリガミが横目でチラッと宮下を見る。

(ちゃんと神職してるじゃん♪) 



無事に新年を迎え、よい一年を送ろうと参拝者は増えていた中には問題を起こす者もいる……



酔っ払いである。

見知らぬ者に絡んだり、そこから喧嘩に発展したりと迷惑なやからもいる。



こんな時、護の出動である。


「まぁまぁ……」 そう、たしなめる者が絶対に必要になる。




そして、朝方には参拝客は少なくなり交代で休憩を取ることにした。

護が先陣を切って休憩に入る。



「ふぁ~ 疲れた~」 護は、あくびをしながら境内の方を散歩していた。

「護~っ、寝なくていいの~?」 御守りなどの売り子の番をしているテマリが声を掛けた。


護は軽く手を挙げ、境内の方へ行ってしまった。



そして、時間が経っても護が戻ってこないのにテマリが気づく。

テマリは、売り子のアルバイトが来たのと同時に護を探しに社務所を出た。



(どこに行ったのよ~) テマリは小走りで境内に向かったが、護は見つからなかった。



「まさか? オリガミとデート?」 そんな事を思ったりしていたが、オリガミは社務所で爆睡中だったのを思い出した。



「どうしよう……とにかく、じいじとオリガミに知らせないと……」 



そして社務所でテマリが叫んだ。


「大変! 護が失踪したーっ」



テマリの叫び声が響き、宮下とオリガミが目を覚ました。


アルバイトの子は肩をすくめる。




「なに? どういうことじゃ?」 宮下は、テマリの元に来た。

「ちょ……まって……」 オリガミは全裸で寝ていたため、慌てて服を着ていた。


そして、事の事態を聞いたオリガミは、当然ながら正気ではいられなかった。



「探す……」 オリガミの言葉は、失踪した護と、もしかしたら誘拐されたのでは……の、両面の怒りがにじみ出ていた。



「テマリ!」 オリガミがテマリを呼ぶと、

「―は、はいっ」 気迫に押されたテマリが反応する。



「龍神を飛ばして、護を探して!」 オリガミの言葉は、ニュースになろうと関係なく、無茶な要望を押し付けた。



「なんじゃ、元旦からニュースになるつもり……ひっ―」 宮下が止めようとしたが、オリガミの鋭い目に宮下は言葉を失った。



テマリは龍神を飛ばし、護を探していた。



(まだなの……?) オリガミは、貧乏ゆすりをしながらテマリの報告を待っていた。



しばらくすると、テマリがオリガミの元にやってきた。


「居ないよ……どうしよう……」


テマリの報告で、オリガミの顔が一瞬だが鬼の形相になった。



(オリガミ……一瞬だったけど、その顔……まさか……?)

テマリの背中に冷たい何かを感じた。



オリガミは立ち上がり、巫女の衣装のまま社務所を出ていった。



鳥居をくぐり、道路を見渡すが護は見つからない。


(護、何処にいるの? 私は貴女が居ないと……)




そして、気落ちしているオリガミは社務所に戻ってきた。


そこに、テマリがムッとした顔で立っていた。


「どうしたの? なんかムッとしてない?」 オリガミは目を丸くする。



「古代人オリガミよ、よく聞きたまえ! そなたは神社から出て、護を探していたようだが……」 テマリが腕を組んで話し始める。



(古代人って……)



「そなたは、クリスマスプレゼントに何を渡したのじゃ?」

テマリは、かなりのドヤ顔でオリガミを見下す。



「プレゼント……?  ……あっ!」

オリガミは、護にGPS付きのネックレスを渡していたのを思い出した。



「正座しろ、オリガミ」 テマリは、かなり強気でオリガミに説教していた。




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