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第二十六話  なごり雪

第二十六話   なごり雪



 無事に帰ったテマリは、静かに社務所の戸を開けた。


 「コソ~」 実際に声に出しながら、コソーっと社務所に入ると


 「何時だと思ってるんだ? この不良娘!」 そこにはオリガミが立っていた。




 「―ひっ」 驚くテマリに、ニヤニヤしながら結果報告を楽しみにしていたオリガミである。



 「そ~れ~で~?」 迫りくるオリガミの顔に、テマリはたじろいでいた。



 「それで、その……かくかく しかじかで……」

 「まるまる うまうま……なるほど」




 そして翌日、テマリは木原の自宅に向かった。


 (アプリに連絡しても返事ないし……) テマリは約束の日までの数日を、木原と過ごそうと思っていた。



 “ピンポーン ” テマリは木原の自宅のチャイムを鳴らした。



 「はーい」 玄関の奥から女性の声がする。



 (えっ? 女の人の声? どういうこと?)

すると、玄関が開いた。 そこには、見た目で四十歳後半くらいの女性が出てきた。



「あの……雄一さんの友達で……」 テマリには、 “友達 ”としか言えなかった。



「そうですか……どうぞ」 女性は、テマリを居間に案内した。



「あの……お母さまですか?」 テマリが女性に聞くと

「はい……」


何故か、浮かない表情をしていた木原の母であった。



「あの……聞いていいですか?」 テマリは、木原の母親に言い出した。


木原の母親は、小さく頷いた。


「あの……雄一さんは事故で亡くなったと聞きましたが、何処の場所ですか?」


すると、木原の母親が 「家の前です……実は、私が雄一をいてしまったのです……」



「えっ?」 テマリは仰天した。


その後、木原の母親の言葉が耳に入らなかった。



「今回、雄一さんからメッセージをもらいました。 もうすぐ、クリスマスですよね……それで、コレを渡したくて……」


テマリは紙袋を仏壇の前に置いた。


「それは?」 木原の母親が驚いている。



「クリスマスプレゼントです。 私、この日は恋人として来ます。 そして、この袋から出して渡したくて……」



この言葉に、木原の母親が泣きだしてしまった。



「お母さまも一緒に、楽しいクリスマスを送りませんか?」

テマリの提案に、木原の母親は身を震わせ、そして大声で泣き出してしまった。



そして、クリスマスの当日。



「ごめんください……」 テマリの声で、木原の母親が玄関を開けた。



(どうしたんだろう? お母さま、やけに落ち着かない表情だけど……)



すると、家の奥から冷たい空気が外に向けて流れてきた。

「これは……?」 テマリと一緒に来ていたオリガミが気づく。




 「―失礼します」 オリガミとテマリは、言葉を出して木原の家の居間に向かった。



 「これは……?」


 オリガミとテマリが見た光景は、木原の家の居間が雪化粧になっていた。



 「綺麗……」 つい、声を出してしまったテマリ。



 「テマリさん……本当にありがとう。 まさか、雄一が雪まで降らすなんてね……」


 木原の母親は、涙を拭きながら話していた。



 「まさに “なごり雪ね…… ”」 オリガミが呟いた。

 先日にテマリが置いた種は、木原の想いを増幅させる種だったのだ。


 そして、テマリは仏壇の前に向かい正座をする。


 「雄一さん……メリークリスマス」 そう言って、紙袋に入っていたマフラーを取り出した。


 「これ、雄一さんに……」 テマリは仏壇にある雄一の位牌いはいをマフラーで包んだ。



 「雄一……よかったね……そして、ごめんなさい……」 


 木原の母親は、大粒の涙でいっぱいになっていた。





 そして、無言のまま数分の時が経った。


 「お母さま、ご一緒に……」


 オリガミが木原の母親に渡した物は、クラッカーだった。


 木原の母親は、涙をぬぐい頷いた。



 「メリークリスマス」  “パンッ  パンッ ”

 掛け声と、クラッカーの音が居間に響き渡っていた。



 (幸せだね、雄一さん……テマリに愛されて)

オリガミが仏壇をチラッと見ると、マフラーが少し動いた。



「ほら、雄一さんも喜んでいるよ……」 オリガミの言葉で、木原の母親とテマリが仏壇を見る。



そこには、マフラーの端が上下している。


「雄一……」  


テマリはシャンパンを取り出し、栓を抜いた。 そして、小さなコップにシャンパンを淹れて仏壇に置いた。



「あとは、お母さんがお願いします……私たちは水しか飲めないので」

そう言って、テマリは勝手にグラスを持って来た。



そして、木原の家でのクリスマスは終わった。



「帰ろう……」 



木原の家を出ると、夕方になっていた。

「じいじ、待ってるかな?」


テマリは、クリスマスケーキを買って神社に戻った。。



「ただいま~♪」 「メリークリスマス♪」


社務所でのクリスマスも悪くなかった。



そして、護も社務所にやってきた。

「遅いぞ~」 宮下はご機嫌だった。



「すみません……あの、コレを……」

護は、大きな紙袋に小分けされたクリスマスプレゼントを取り出した。



そこには……テマリには月形のネックレス。 宮下には暖かそうな半纏はんてんを渡した。


「ありがとう♪」 「護、すまんな……ありがとう♪」


テマリと宮下は、ご機嫌であった。




「護、私のは……?」 オリガミは、尻尾を振って待っている犬のような姿だった。



「もちろん……メリークリスマス、オリガミ……」

護は、星型のネックレスをオリガミの首に掛けた。



「嬉しい……ありがとう、護……」


オリガミは涙を溜めていた。



そして、 「私も護に……」

オリガミは、護にネックレスを用意していた。



それが偶然なのか、同じ星型のネックレスであった。



「ほぅ……まさに以心伝心じゃのう……」 宮下は目を丸くしている。



「同じなんて凄いわね~」 テマリも笑っていた。


「それは同じじゃないんだよね~♪」 オリガミはニヤッとする。

「同じじゃない……?」 テマリが言うと、



「このネックレスは特別なの! なんと、GPS付きのネックレスよ♪」

ご機嫌で話すオリガミに、三人の空気は一気に引いていった。



「えっ? なんか変?」 オリガミがキョトンとしている。



「オリガミ……なぜにGPS?」 護は困惑していた。

「どこに居るか把握しようかと……」 ケロッとした顔で答えるオリガミ。




「と、とりあえず、シャンパンを冷やしましょう……」 焦る護は、冷凍庫から氷を取りに行った。



そして冷凍庫を開けると……


“ザッ ザザー ” という音が聞こえてきた。



「うっ……」 声と共に、テマリが頭を押さえた。


「テマリ?」 オリガミが慌ててテマリの肩を抱いた。



しかし、護と宮下には聞こえなかった。


「テマリ? テマリ?」 必死にテマリに声を掛けるオリガミに、黙って見ていた護に


「早く、冷凍庫を閉めて!」 オリガミの怒鳴るような声に、護は慌てて冷凍庫の扉を閉めた。



しばらくすると、テマリの様子は落ち着いてきた。



「オリガミ……」 横になっていたテマリが目を覚ます。


 「大丈夫?」 オリガミがテマリの顔を覗き込むと


 「オリガミは聞こえないの?」 テマリは不思議そうな顔をして聞いた。



 「実は、かすかに聞こえるんだけど……頭が痛くなったりとかは無いのよ……」

 

 「そうなんだね……」 



 そこに、テマリのスマホに着信音が鳴った。

 「誰だろう……?」


スマホを開いてみると、チャットだった。


送り主は、木原だった。


“メリークリスマス ” と書いてあるチャットを見て、テマリの目から涙が溢れていた。



(私だけ一人……なんて思っていたけど違う……みんな居るんだ。 私は一人じゃないんだ……)


テマリは、涙目で木原に返信をした。



「よし! 盛大なクリスマスにしようぜ~」 テマリは起き上がり、大声で言った。


「外、行くよ!」



すると、テマリは口から白い息を吐いた。



「まさか……」 宮下が動揺していた。


すると、白い息が龍となる。


「龍神! この曇り空から雪を降らせて」


 テマリが龍神に言うと、龍神は空高くに昇っていき



 「本当に雪だ……」 ついに雪を降らせた。



 「またニュースにならなきゃいいが……」 そんな心配をしていた宮下だが、今回は気象予報がハズレたと言う事だけで済んだ。


 「なら、みんなで楽しもう♪」

 オリガミは式神を呼んで、みんなで楽しんだクリスマスであった。



 (今回は、テマリが見事な滅セージを送ったわね~)




そして、翌日……


「早く起きなさいよ! 護~」 遅くまで飲んで、二日酔いになっていた護であった。



また、神社でも……


「じいじ……大丈夫?」 宮下も二日酔いであった。






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