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第二十五話  マッチングアプリの怪

第二十五話   マッチングアプリの怪



「テマリ……聞いてるのか?」 朝、早くから宮下が大声を出していた。



「う~ん……」 覇気の無い声でテマリが返事をしている。


「なんじゃ? 寝不足か?」

そう言って、宮下は自分でお茶を淹れていた。



そして、時間が経ってもテマリはボーっとしている。



(どうなっているんじゃ?) 宮下が心配していると

「おはよう~♪」 ここでオリガミが出勤してきた。


「おはよう……って? えっ?」 オリガミがテマリの顔を覗き込むと、テマリの表情に驚く。



「何よ? その顔……」 


テマリの顔は覇気の無い顔をしており、目の下にはクマが出来ていた。



その後、テマリは時間が空くとスマホを見ている。


「何、見てるの?」 オリガミがヒョコッと顔をスマホに近づけると



「―な、なんでもないよ」 テマリは慌ててスマホを隠した。


「変なの……」


それからも、テマリはスマホと睨めっこをしていた。


 (気になる……) オリガミは、そーっとテマリのスマホを覗き込んだ。



 「それ、誰からのチャット?」 

 「な、なんでもないよ……」 必死に隠したがるテマリに、オリガミの好奇心は増すばかりであった。




 翌日、オリガミは奈菜が通っている学校へ向かった。



 「あ、オリガミさん……」 奈菜は笑顔だった。


 「学校、どう?」


「はい。 友達も出来たし、楽しいです♪」 


そんな会話から本題へと進み


「……テマリさんが?」


「そ~なのよ……スマホを隠すし、全然 教えてくれないのよ~」 

オリガミが説明すると、奈菜は暫く考え込んだ。



「もしかして、マッチングアプリとか?」


「マッチングアプリ?」 オリガミには初めて聞く言葉だった。


「マッチングアプリって、プロフィールなどを入力して……趣味とか、顔が好みな人を紹介して仲良くなるの……」


「なるほど……簡単に言うと、出会い系みたいなの?」


「そう! 今は多いみたいよ……」



(確かに、テマリがマッチングアプリをしていたらマスターも心配するし……私にも言わないだろうな)


オリガミは探偵のように推理をしていた。




「オリガミさん……私も神社に行っていいですか? テマリさんの事も心配になりますし……」


奈菜が言い出し、一緒に神社に向かった。



「―しっ、 あそこ……」 オリガミは、境内の横でスマホを覗き込んでいるテマリを指さした。



「なるほど……」 奈菜は、テマリの方へ歩き出した。


「ちょっと奈菜ちゃん……」 オリガミは、慌てて奈菜の後を追った。



すると、テマリは慌ててスマホを巫女の衣装のはかまの帯に隠した。



「見ちゃいましたよ~ テマリさんは、どのマッチングアプリをしているんですか?」 奈菜はニコニコしながら聞いていた。



 「奈菜ちゃん??」 テマリは驚いた表情をみせると

 (図星だったな……) オリガミと奈菜は確信した。



 「そっかぁ……テマリも恋に目覚めたか~」

 

 「ねぇ、じいじには言わないで……」 テマリは必死だった。


 「わかった」



 そして、ここから女子トークが始まる。


 「それで、どんな人?」 オリガミが切り出すと


 テマリがスマホを開き、チャットをしている男性のプロフィールを見せた。



 「お~♡」 何故か、オリガミと奈菜でハイタッチをしてしまう。


 「なかなかイケメンですね~」 奈菜にも高評価だった。



 「会うの?」 

 

 「どうだろう……」 テマリは下を向いた。


 オリガミは察した。 きっと会っても……この先に恋愛に発展しても自分の立ち位置が解るからだ。



 (私と護は例外……それに、私だって “いつ、護に棄てられるか分からない ” ……もし、ちゃんとした人間と恋愛をしたいと言い出すか……)

 

 オリガミもテマリの気持ちをんでいく。



 「会っちゃえばいいのに~」 奈菜が正面から切り込んできた。



 「な……なんで?」 テマリが動揺している。



 「もう、クリスマスも近いし……デートとかいいでしょ?」

 奈菜の言葉は尤もであった。



 「クリスマスかぁ……」 オリガミとテマリが想像している。


 (二人ともデートを想像しているんだろうな……) 奈菜は冷ややかに二人を見つめていた。



 「でも、神社の人がクリスマスってのもね~」

 奈菜は持ち上げといて、一気に落としてしまった……


 「ず~ん……」 現実に戻され、一気に二人は落ち込んでしまった。


 (いけない事を言ってしまった気がする……) 少し、反省した奈菜であった。




 その後、テマリがチャットを進めていくと

 「えっ?」 テマリがスマホを見て驚いていた。



 そこには “会いたい ” というチャットが送られてきたからである。


 「ど、どうしよう……」 テマリは不安になっていた。



 しばらく考えた後、テマリは出掛ける支度をしていた。



 「オリガミ……少し、留守をお願いしてもいい?」 


 テマリの言葉に、オリガミは察した。


 「もちろんよ~♡ 頑張ってね」 



 そしてテマリは、足早に神社を出発していった。



 

 「お待たせしました……」 テマリが待ち合わせの場所で、待っていた男性に声を掛けた。


 「ありがとう……」 男性は写真通りで、なかなかのイケメンであった。


 「とりあえず、お茶でも飲みましょうか?」 男性が誘った。


 テマリと会った男性は、木原きはら 雄一ゆういち。 二十五歳とプロフィールに書いてあった。



 「あの、木原さん……私、水しか飲めませんが大丈夫ですか?」

 オリガミとテマリの難問は、そこであった。 コーヒーや酒などは飲めず、水しか飲めない彼女に『つまらない女』と思われてしまう事を心配していた。




 「もちろん大丈夫ですよ……健康的ですね」 木原は微笑んだ。


 (よかった……) テマリはホッとした。



 そして、近くのファミレスに入って会話を楽しんだ。




 「良かったら、ウチに来ませんか?」 木原が家に誘いだした。


 「えっ? いきなりですか?」 テマリは焦りながらも様子を見る。




 「僕、実家なので恥ずかしいのですが……」 木原が照れくさそうに話す姿に、少し安心してしまったテマリは



 「少しならいいですよ……」 と、言ってしまった。



 

(わかってる……経験ないからでしょ。 でも経験しないと分からないし)

そんな思いで、テマリは受けてしまったのである。



そして、テマリは木原の後を歩いた。


(あれ?) テマリが不思議に思っていた。


そしてテマリは木原を見て、地面を見る。 そして空を見ていた。




「ここです……」 木原の自宅に着いた。


「お邪魔します……」 木原の案内で、テマリは木原の自宅に入った。



 木原の自宅は、中堅層が住んでいそうな普通の家である。

テマリは居間を通り、二階にある木原の部屋に行った。



(なんか落ち着かない……男性の部屋って言ったら、じいじだけだし……)

テマリは木原の部屋をキョロキョロと見まわしていた。



すると、木原が飲み物を持ってきた。

「テマリさん、水で良かったんですよね?」


「ありがとうございます」


「それで……どうして、私を誘ってくれたのですか?」

テマリは、真面目な顔で、真っすぐに木原の目を見る。




※ ※  ※

 「テマリ、上手くいってるかな?」 オリガミは社務所でサボっていた。


 そこに宮下が来て、 「テマリは知らんか? 買い物を頼みたいんじゃが……」



 「テマリは出掛けていますよ。 買い物なら私が……」

 

 オリガミは買い物リストを書いて神社を出る。



 (どこも、クリスマスに向けてなんだな~)

 街はクリスマス商戦もあり、活気づいていた。



 (テマリ……まだ会っているのかな? 楽しんでるならいいけど……)

 オリガミは、少しの不安と期待をしていた。




※  ※   ※

「あの……どうして私を誘ってくれたのですか?」 

テマリは二度、聞いていた。



 「君なら、僕を知ってくれそうだから……」 木原は微笑むと、手をテマリに差し出した。



 「何を……?」 テマリは息を飲んだ。


 「君なら僕の手を触れられる……」


 「どういうこと?」 テマリの声が震えだした。



 「君は僕の事、分かってくれそうだから……だから僕の手に触れてみて」


 テマリは無言のまま、木原の手に触れた。


 “キイィィン…… ” テマリの脳に突き刺さるような、甲高い金属音が響いた。



 「やっぱり……」 オリガミは木原を睨んだ。



 「君が僕を選んでくれたじゃないか……それなのに、どうして僕を そんな目で見るの?」 木原は出していた手を戻した。




 「貴方の家に来る前から変だとは思っていたわ。 貴方と歩いている時、貴方の影も出ていなかった……空を見ても、陽が出ているのに影が一切なかった……」


 テマリは身構える。



「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ……危害を加えるつもりもない」

 木原がテマリを落ち着かせるように言葉を出す。



 (ならば……)

 テマリがピクッと動き出した時、



「どうして僕を敵視するの? 僕が、この世の者ではないからかい?」


「……」 テマリは身構えたままである。

 


「なら、僕の話をしてあげる」 木原は居間の奥の仏壇を指さした。



(これって……)


「そう……二年前に僕は死んでいる。 でも、諦めきれないんだよ」

 木原は、この世の未練なのか全身を震わせていた。



 「何を諦めきれないの?」



 「僕には恋人が居たんだ……だけど、クリスマスの日に待ち合わせで向かっている途中に僕は誰かに刺され死んだ……」



 「……」 


 「どうしても、待ち合わせの場所に行きたくて……そして、もう一度……」

 木原は涙を流し始めた。



 「それ、私でいいの?」 テマリは落ち着いて話しをした。



 「マッチングアプリを見て、君が彼女に似ていたんだ……」



 「そう……」 そしてテマリは立ち上がった。


 「どこに行くの?」 木原は慌てだした。



 「これ、クリスマスの日の約束……」 テマリは仏壇に向かい、小さな種を撒いた。



 「クリスマスの日、必ず来るから」 テマリは、そう言い残して帰った。






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