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第二十四話  禁断の護符

第二十四話   禁断の護符ごふ



十二月、世間は慌ただしくなってきていた。


「寒い……中に入ろう! 落ち葉は、風が吹けばなくなるよ」

そう言って、オリガミは社務所の中に避難していた。




「オリガミ~ もう少しだからさ……境内の裏の掃除だけ手伝って~」

テマリのお願いを無下にできないオリガミは境内の裏手に来ていた。



「そういえば境内の裏って、初めて来たかも……」

オリガミは境内の裏をキョロキョロとしていた。



「ここの木とかを整理したくてさ……」

テマリはしゃがみ込み、境内裏の下のゴミ掃除をしようとしていた。



「よっ!」 テマリは境内下に潜り、懐中電灯を点けた。

(日中でも暗いし、気味が悪い……)



そこから木の残骸ざんがいなど、不要な物を次々とオリガミが待つ方へ押し出していく。



「あれ? これ何かな……?」 テマリは懐中電灯を照らす。


「何かあった~?」 呑気のんきに外で声を出すオリガミに


「ちょっと来てよ~」 テマリが声を出す。



「何よ、も~」 オリガミもかがんで、境内の下へ潜り込んだ。



「これ、何だと思う?」 テマリが懐中電灯で照らしている物をオリガミに見せる。



そこは神様を祀っている真下。

その床の裏側には、難しい言葉の書いてある札が貼ってあった。



「まぁ……お札だよね。 しかも半分、がれているわね」


「貼り直そうか?」 テマリの言葉にオリガミが頷く。



「よっこらせ……っと」 テマリが態勢を直して外に出ようとした瞬間、背中が札に当たり、剥がれてしまった。



「ありゃ、剥がれたわよ! 何か付くもの……接着剤とかが良いかも」

オリガミが札をヒラヒラさせながらテマリに言うと



「わかった~」 そう言って、テマリは境内下から出て行った。



(何の札だろ……) オリガミは札を見ていた時、境内に床が明るくなった。



「えっ?」 オリガミは頭上にある床が明るくなったことに驚く。


すると、明るさから光に変わり、眩しさからオリガミは目を細めた。



「……」 オリガミは声が出なかった。



段々と光が薄くなり、見えるようになってきた。


「誰?」 オリガミが声を掛ける。

ハッキリと見えるようになると、そこには人らしき姿が見えたのだ。



「あ、ども……」 光から出てきた人は、凄く軽い言葉を発した。


「あっ? えっ? ども……」 つられる様に、オリガミも軽く返してしまった。



すると、外からテマリの声がする。

「オリガミ~、持ってきたよ~」 外からテマリが床下を覗きこんだ。



すると、光から出てきた人がテマリと反対方向に移動してしまった。


「ちょ、待って!」 オリガミの制止を無視し、光の人は外に出ていってしまった。



「オリガミ? 何かあったの?」 テマリが床下まで来ると、


「光が出て、そこから人が出てきた……」 オリガミが呟く。



「光から人? 夢でも見てるの?」 


テマリは信じていなかった。




床下から出てきた二人は、まだ光から出てきた人の議論をしていた。



「だったら、NASAに連絡よ!」


テマリの反応は、信じていないか宇宙人扱いなんだな……とオリガミは思っていた。



そして社務所に行き、宮下に札の話しをすると


「なに? 札じゃと?」 宮下はテマリの話しを聞き、札を見る。



「これが床下に貼ってあったんじゃな?」


オリガミとテマリは頷いた。



「これは護符と言うやつじゃ……床下に貼ってあったのじゃから、神様が外に行かないようにしたのじゃろう……」


宮下は落ち着いていた。



「マスター、やけに落ち着いてない?」


「まぁ、護符と言っても貼り直せば良いしな……」



そして、オリガミが宮下を床下まで案内をする。

「ここじゃな?」 オリガミが頷く。



宮下は護符の裏に接着剤を塗り、床裏に貼り付けたが


「―なんと……?」 貼り付けた護符がジリジリと焦げてしまった。



「いや~火事にならなくて良かった……」 オリガミはホッとしていた。


「お前の考えは、イマイチ分からん……火は使っておらんじゃろ!」

宮下の言葉で、オリガミはショボンとしてしまった。



「この護符は意味があるんじゃな……」



宮下とオリガミは床下から出て、社務所に向かった。


そして、神社の歴史の本を読み始める。



「あった……」 テマリが読んでいた本は、神社の記録であった。

記録は昭和十八年と書かれている。


そして神社の歴史が書いてあるものを読むと



「そうだったのか……」 宮下は肩を落とした。


「なんて書いてあったの?」 オリガミが聞くと、


「これは神様封印の護符じゃ……どうも、ここの神様はフラフラと出掛けてしまうようじゃ……それで、神様が留守にならぬように封印した護符と書いてある」



「マスターみたいじゃん……」 オリガミが、つい言葉を漏らした。


『ゴツン』 当然ながら、宮下にゲンコツを落とされたオリガミであった。



「ところで、この神社って、誰をまつっているの?」 

オリガミの素朴な疑問だったが、



「巫女をやってるのじゃから、知っておけ! ここは尊(命)なら、誰でも祀る……」


「軽いな……誰でもいいのかよ」 オリガミとテマリは苦笑いをした。



「一応、ここは 大国おおくにぬしのみことじゃ」



「オオクニヌシノミコト……それは、どんな神様?」


「国土を増やしたり、作物を豊かにしたり……恋愛成就な神様でもあるのう」


「素晴らしいじゃない♪」


「そうじゃ、奥さんも沢山いたそうじゃ……」


「ダメじゃん……」


そんな会話をしていた社務所の外では、光の男が聞いていた。



「だって、奥さんを余所よそに作るとか 無いわよ!」 何故か、神様の話しで興奮するオリガミがいた。


「ワシに言われても知らんわい……」


「もし、神様に会えたら説教ものよね~」 オリガミの声が社務所の外まで聞こえた瞬間、光の男はビクっとしていた。



「んっ? なんか気配がする……」 テマリが社務所の外に出ると、



「アンタ誰?」 テマリの言葉で、オリガミが社務所の外に出てきた。



「どうした? 誰かいたのか?」 宮下も社務所の外に出てきたが、オリガミとテマリ以外は見えなかった。



「この人……盗み聞きしてた。 じいじ、見えない?」 

テマリは男性の腕を持っているが、宮下には見えないようだ。



「んっ? 誰じゃ?」 宮下は混乱してきていた。



(マスターには見えないのか……)

オリガミは “宮下とは違うんだ “ と認識する。



「あれ? よく見るとオッキーじゃん♪」 テマリが声をあげる。



「オッキー?」 宮下とオリガミは声をあげる。

(誰じゃ? 見えんし、名前を呼んでるし……) 少し、テマリの脳を疑い始めた宮下であった。


(オッキー? 沖田総司? そんな可愛い呼び方するっけ?) オリガミも別の方面ではあるが、見事なまでの勘違いをしていた。



「ほら、神様の人で……さっき言ってた、オオクニヌシノミコトだよ! だからオッキー♪」 テマリが呼んだ名前の軽さに、宮下の意識が ぶっ飛んだ。



フラフラしている宮下を、オリガミが肩を抱き抱えた。



「知り合い? テマリ……」 オリガミは恐る恐る、テマリに聞くと


「うん♪ ねっ、オッキー♪」 テマリが言うと、オッキーは頷いた。




「―げっ! マスターが泡、吹いてる~」


そして宮下を社務所に連れていき、布団を敷き横にした。




しばらくして、宮下が目を覚ます。

布団の横には、オリガミ、テマリ、そしてオッキーが正座していた。



「テマリ……ワシは、もうダメかもしれん……」


「おとっつぁん……」 つい、時代劇風に反応してしまったオリガミは反省していた。



「しかし、オオクニヌシノミコトが居るなんて、夢のようじゃ……」

宮下は幸福そうな顔をしていたが、



(祀ってるんだから、居るだろうよ……) オリガミとテマリは、そう思っていたが言えなかった。


そして、オッキーも思っていた。



その後、誰が思うだろうか……オリガミとテマリ、そしてオオクニヌシノミコトとの座談会が行われた。


そして、その真ん中には布団で横になっている宮下がいた。



「それで、なんで出てきたのよ? オッキー」 テマリが口火を切る。



「なんて?」 聞こえない宮下は、オリガミを副音声にして実況させていた。



「やっぱり、護符が剥がれたから……って言ってる」 通訳のオリガミは大変である。



そして会話が進み、


「だから~ フラフラと外に出たらダメでしょうが~」 テマリはお母さんのようにオオクニヌシノミコトを叱っていた。


「あわわ……」 宮下は震えていた。


「フラフラしているから、次の女 次の女になったんでしょ?」 テマリは、

少し前の会話で、宮下が神様の説明をしていた事を出して説教している。



「テマリや……神様だから、怒らないようにな……」 宮下の声が震えていく。



「そうよ! 他に女を作るなんて許せない!」 オリガミは完全に、現実として混同させていた。 



「オリガミまで……もうやめて……」 宮下は泣きそうになっていた。



 そして、賑やかな社務所でのトークは、宮下が痙攣を起こしたことにより終了となった。



 「もう、帰ろっか……」 オリガミの言葉で、オッキーは境内に戻っていった。



 (神様って、こうやって神社の中に行くんだ……)

 オリガミは、オッキーを境内にある鏡の中まで見送った。



こうして尊神社に平和が戻った訳だが、護符が剥がれたままである。




 翌日、オリガミは秋草の会社に電話をして護符を持ってこさせていた。



 「これでよし……」 テマリは境内の床下の護符を貼った。



 その後、宮下は いつも以上に信仰が増したのは 言うまでもない。











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