表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/55

第二十三話  一人神楽

第二十三話   一人ひとり神楽かぐら



十一月も終わりの頃、神社は落ち葉に悩まされていた。



「掃いても、掃いてもキリが無いわね……」

朝からホウキで掃いているテマリが悩んでいた。



「おはよう……って、どうしたの?」 オリガミが出勤してきた。


「うん……落ち葉がキリなくて……」


オリガミは、悩んでいるテマリを見て

(すっかり神社の子になったんだな~) と嬉しく思っていた。



そこで、オリガミが何かを思いつく。


「―そうだっ! テマリの龍神を使えば良いんじゃない? 龍神にグルグル回ってもらって、一か所に落ち葉を集めるのよ♪」



「おぉ……ナイス♪」 テマリは親指を立て、サムアップポーズでオリガミの意見を讃えると




「お前ら……また騒ぎを起こすつもりじゃないだろうな……」

ここで宮下が出てきた。



(ちっ……勘が良い じじぃだ……)


「ここで龍神を走らすなんて問題じゃろ? それに、竜巻が凄すぎる……ダイ〇ンもビックリじゃわい」 ちょいちょい、“例えが最近 ”の宮下であった。



仕方なく、宮下を含む三人で落ち葉を掃いていく。



しばらくすると、境内には 若いカップルがお参りに来ていた。


「ご苦労様です……」 テマリが優しく挨拶をしていた。


(おぉ……すっかり神社の人じゃん♪ それにCMでも出せそうなワンシーンよ~) オリガミは薄っすら涙が出ていた。



すると、カップルがテマリに話しかける。

「ここに安産祈願のお守りはありますか?」 



少し聞こえたオリガミが社務所に走っていく。


「どこだ? どこだ……?」 段ボール箱をひっくり返し、御守りを探した。



「これか? いや、違うな……」 オリガミは、掴んだ御守りを横に投げ

「あった♪」 そして社務所の販売コーナーに並べた。



「六百円をお納めください……」 



そして、カップルが嬉しそうに帰っていくのを見送っている。



(いいなぁ……) オリガミは、護と一緒に同じ御守りを買えたら……などと思ったりしていた。


「欲しいの? ……子供」 テマリがオリガミの頭の上からあごを乗せてきた。



「そ、そんなんじゃないよ……」 慌てているオリガミが子供のようである。




そして毎日、尊神社には参拝者が増えていく。


「前みたいに、楽は出来ないね~」

そんな会話が当たり前のようになってきていた。



その中、カップルや新婚さんの参拝が増えてきた。


「ここって、そんなご利益あった?」 巫女としてオリガミやテマリが居る訳だが、知らぬ間に話題になっていた。



それは……


“美しき巫女が永遠の愛を祈願する ” と、いう内容であった。



「誰よ? こんなキャッチコピーを作ったのは……?」

もちろん、オリガミやテマリも知らない事であった。



それでも神社の為、二人は頑張っていった。



そして、オリガミは疲労を癒す為に、八王子の山奥の神社に来ていた。


それは、母親のヒサメに会う為である。



「ほう……用事も無いのに、私の所へ来るなんてね~」

ヒサメはタバコを吸いながら、正座をして待っていたオリガミの前に姿を出した。



「なんかモヤモヤしていまして……」 


「モヤモヤ……?」



すると、オリガミは氷雨神社の境内で参拝する。


(まったく……) ヒサメは鼻で息を落とす。




オリガミは特にヒサメと話すこともなく、神社を後にした。


帰りの電車も人が多く、昼間となれば主婦の人が多い。

子供を連れて、楽しそうにしている姿が眩しく見えていた。



(はぁ……何をしているんだろう……)



そして電車が進み、オリガミは尊神社に帰ってきた。



「おかえり~」 テマリが声を掛けてきた。

「ただいま」


(そうだよな……この環境があるだけマシじゃないか。 何を望んでいるんだ) オリガミは気持ちをリセットしようとしていた。



「よいしょ……」 

「オリガミ? こんな時間から種売り?」

「そう、少しでも売りたいから」



オリガミは鳥居横にチョコンと座り、客を待っていた。



すると、一組の客が来た。

「すみません……どんな種がありますか?」



「はい、ビオラや金魚草がおススメです」


その一組の客は、小さな子供と手をつないでいた。


そして用意していた折り鶴の中に種を入れた。

「はい、お待たせしました。 良い花が咲かせられますように……」



時間が経ち、種が売れたのは一組の客からだけであった。



(なんで、こんな気持ちになるんだろう……?)



オリガミは店じまいをし、社務所に向かったが

「なんか、気が晴れぬようじゃな?」 宮下が声を掛けてきた。



「いえ……」

(わかっている……これは嫉妬だ……自分には出来ないことが羨ましいんだ……)



「少しでいい……舞ってもらえぬか?」

宮下の言葉に数秒、黙ったままのオリガミであったが、


「いいですよ……私も、そんな気分でした……」



そう言って、オリガミと宮下は神楽殿を開けた。


巫女の衣装に着替えたオリガミは、CDを掛けた。



“シャン  シャン…… ” と鈴を鳴らし、オリガミが舞い始める。



この日の舞は、オリガミ一人。


その姿は切なく、寂しさを払拭するようにも見えた。




宮下とテマリは神楽殿の正面から見ている。


すると宮下はテマリの頭を撫で、

「お前も恋をしたらええ……そうした時、オリガミのように舞ってみたらええ……」



「そんな男性ひと、現れるかしら……」 テマリはオリガミの舞と、宮下の優しさに酔ったような感覚になっていく。



そして後半の舞は、より ダイナミックな舞となっていった。



それは情熱や、激しさを表す舞となり……

そして、それが愛情となり、光が空へ舞い上がるようであった。



舞が終わり、静止するオリガミに拍手が送られた。



「―えっ? えっ?」 オリガミが驚く。


最初はテマリと宮下の二人であったが、いつの間にか十数人の観客が拍手を送っていた。



「良かったよ、オリガミ……」 テマリの目には涙が溢れていた。


「最高の舞じゃった」 宮下も感動していた。




「えへへ……」 少し照れながらオリガミは社務所に戻っていった。



その中には、舞を見て泣いていた者までいた。


「グスッ……良かったぞ~」 トウジであった。




拍手で沸いた神社が、日暮れと共に静かになっていく……



オリガミはスマホを見ていた。

「これから護が神社に来るって」



それから一時間後、護が神社にオリガミを迎えに来た。


「さっき聞いたけど、一人で舞ったんだって? 凄く良かったって……」

護が残念そうに言うと、


「いつか見せてあげるよ~」 オリガミは可愛い声で応えた。



(これでいい……これ以上を望んだら罰が当たる……だから、このままで……) 



オリガミは護と腕を組んでいたが、さらに強く腕を組んでいった。




そして夜更け……誰も居ない神楽殿の道具箱の中から鈴のが三度鳴った。



“シャン……シャン……シャン…… ”




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ