第二十三話 一人神楽
第二十三話 一人神楽
十一月も終わりの頃、神社は落ち葉に悩まされていた。
「掃いても、掃いてもキリが無いわね……」
朝からホウキで掃いているテマリが悩んでいた。
「おはよう……って、どうしたの?」 オリガミが出勤してきた。
「うん……落ち葉がキリなくて……」
オリガミは、悩んでいるテマリを見て
(すっかり神社の子になったんだな~) と嬉しく思っていた。
そこで、オリガミが何かを思いつく。
「―そうだっ! テマリの龍神を使えば良いんじゃない? 龍神にグルグル回ってもらって、一か所に落ち葉を集めるのよ♪」
「おぉ……ナイス♪」 テマリは親指を立て、サムアップポーズでオリガミの意見を讃えると
「お前ら……また騒ぎを起こすつもりじゃないだろうな……」
ここで宮下が出てきた。
(ちっ……勘が良い じじぃだ……)
「ここで龍神を走らすなんて問題じゃろ? それに、竜巻が凄すぎる……ダイ〇ンもビックリじゃわい」 ちょいちょい、“例えが最近 ”の宮下であった。
仕方なく、宮下を含む三人で落ち葉を掃いていく。
しばらくすると、境内には 若いカップルがお参りに来ていた。
「ご苦労様です……」 テマリが優しく挨拶をしていた。
(おぉ……すっかり神社の人じゃん♪ それにCMでも出せそうなワンシーンよ~) オリガミは薄っすら涙が出ていた。
すると、カップルがテマリに話しかける。
「ここに安産祈願のお守りはありますか?」
少し聞こえたオリガミが社務所に走っていく。
「どこだ? どこだ……?」 段ボール箱をひっくり返し、御守りを探した。
「これか? いや、違うな……」 オリガミは、掴んだ御守りを横に投げ
「あった♪」 そして社務所の販売コーナーに並べた。
「六百円をお納めください……」
そして、カップルが嬉しそうに帰っていくのを見送っている。
(いいなぁ……) オリガミは、護と一緒に同じ御守りを買えたら……などと思ったりしていた。
「欲しいの? ……子供」 テマリがオリガミの頭の上から顎を乗せてきた。
「そ、そんなんじゃないよ……」 慌てているオリガミが子供のようである。
そして毎日、尊神社には参拝者が増えていく。
「前みたいに、楽は出来ないね~」
そんな会話が当たり前のようになってきていた。
その中、カップルや新婚さんの参拝が増えてきた。
「ここって、そんなご利益あった?」 巫女としてオリガミやテマリが居る訳だが、知らぬ間に話題になっていた。
それは……
“美しき巫女が永遠の愛を祈願する ” と、いう内容であった。
「誰よ? こんなキャッチコピーを作ったのは……?」
もちろん、オリガミやテマリも知らない事であった。
それでも神社の為、二人は頑張っていった。
そして、オリガミは疲労を癒す為に、八王子の山奥の神社に来ていた。
それは、母親のヒサメに会う為である。
「ほう……用事も無いのに、私の所へ来るなんてね~」
ヒサメはタバコを吸いながら、正座をして待っていたオリガミの前に姿を出した。
「なんかモヤモヤしていまして……」
「モヤモヤ……?」
すると、オリガミは氷雨神社の境内で参拝する。
(まったく……) ヒサメは鼻で息を落とす。
オリガミは特にヒサメと話すこともなく、神社を後にした。
帰りの電車も人が多く、昼間となれば主婦の人が多い。
子供を連れて、楽しそうにしている姿が眩しく見えていた。
(はぁ……何をしているんだろう……)
そして電車が進み、オリガミは尊神社に帰ってきた。
「おかえり~」 テマリが声を掛けてきた。
「ただいま」
(そうだよな……この環境があるだけマシじゃないか。 何を望んでいるんだ) オリガミは気持ちをリセットしようとしていた。
「よいしょ……」
「オリガミ? こんな時間から種売り?」
「そう、少しでも売りたいから」
オリガミは鳥居横にチョコンと座り、客を待っていた。
すると、一組の客が来た。
「すみません……どんな種がありますか?」
「はい、ビオラや金魚草がおススメです」
その一組の客は、小さな子供と手をつないでいた。
そして用意していた折り鶴の中に種を入れた。
「はい、お待たせしました。 良い花が咲かせられますように……」
時間が経ち、種が売れたのは一組の客からだけであった。
(なんで、こんな気持ちになるんだろう……?)
オリガミは店じまいをし、社務所に向かったが
「なんか、気が晴れぬようじゃな?」 宮下が声を掛けてきた。
「いえ……」
(わかっている……これは嫉妬だ……自分には出来ないことが羨ましいんだ……)
「少しでいい……舞ってもらえぬか?」
宮下の言葉に数秒、黙ったままのオリガミであったが、
「いいですよ……私も、そんな気分でした……」
そう言って、オリガミと宮下は神楽殿を開けた。
巫女の衣装に着替えたオリガミは、CDを掛けた。
“シャン シャン…… ” と鈴を鳴らし、オリガミが舞い始める。
この日の舞は、オリガミ一人。
その姿は切なく、寂しさを払拭するようにも見えた。
宮下とテマリは神楽殿の正面から見ている。
すると宮下はテマリの頭を撫で、
「お前も恋をしたらええ……そうした時、オリガミのように舞ってみたらええ……」
「そんな男性、現れるかしら……」 テマリはオリガミの舞と、宮下の優しさに酔ったような感覚になっていく。
そして後半の舞は、より ダイナミックな舞となっていった。
それは情熱や、激しさを表す舞となり……
そして、それが愛情となり、光が空へ舞い上がるようであった。
舞が終わり、静止するオリガミに拍手が送られた。
「―えっ? えっ?」 オリガミが驚く。
最初はテマリと宮下の二人であったが、いつの間にか十数人の観客が拍手を送っていた。
「良かったよ、オリガミ……」 テマリの目には涙が溢れていた。
「最高の舞じゃった」 宮下も感動していた。
「えへへ……」 少し照れながらオリガミは社務所に戻っていった。
その中には、舞を見て泣いていた者までいた。
「グスッ……良かったぞ~」 トウジであった。
拍手で沸いた神社が、日暮れと共に静かになっていく……
オリガミはスマホを見ていた。
「これから護が神社に来るって」
それから一時間後、護が神社にオリガミを迎えに来た。
「さっき聞いたけど、一人で舞ったんだって? 凄く良かったって……」
護が残念そうに言うと、
「いつか見せてあげるよ~」 オリガミは可愛い声で応えた。
(これでいい……これ以上を望んだら罰が当たる……だから、このままで……)
オリガミは護と腕を組んでいたが、さらに強く腕を組んでいった。
そして夜更け……誰も居ない神楽殿の道具箱の中から鈴の音が三度鳴った。
“シャン……シャン……シャン…… ”




