第二十二話 ロックスター
第二十二話 ロックスター
謎の機械をスピーカーから取り出し、三日が経った。
テマリの様子は不安定ながらも落ち着いてきていた。
「やはり電磁波にはアルミホイールじゃわい♪」
宮下の古典的な方法が良かったのであろうか、機械はアルミホイールで包み、その上で冷凍庫に入れるということをしていた。
「凍らす意味は?」 オリガミ不思議そうにしていた。
「寒くて動きが鈍くなる」
「虫かよ……」 宮下の発想に、理解に苦しむオリガミであった。
「オリガミ、ありがとう」 テマリは笑顔だった。
オリガミは、種売りを始めた。
本来は種売りが目的で、この神社の一角を貸してもらっていた。
ただ、宮下が変わった仕事を持ってくるせいで出来なかったのだ。
そして、久しぶりに種屋の露店を出していたが……
「暇だな……」
すると、オリガミの手から数粒の種が出てきた。
オリガミは、手から出た種を持ったまま電柱の上のスピーカーを見る。
(よし……)
オリガミの服は巫女の衣装ではなく 私服であったため、動きやすい。
そして電柱に再度、登り始めた。
安全の為、やってほしくない行動である。
そして、電柱の上にあるスピーカーの中に種を忍ばせた。
(空が澄んできて、遠くまで見える……) 嬉しくなったオリガミである。
「ねぇ……君、危ないよ」 そこに、オリガミに声を掛けてきた男がいる。
その男は金髪のロングヘアで、いかにもミュージシャンの恰好をしている。
「―ひゃい、すみましぇん」 オリガミは急いで電柱を降りた。
「大丈夫ですか? 本当に危ないですよ」
「しゅみません……あのスピーカーが気になってましゅて……」
人見知りのオリガミは、たどたどしく謝っていた。
「いえ、俺に謝られても……無事ならいいっす」 ロングヘアの男性は笑顔で応える。
(悪い人じゃないかな……) オリガミも安心したようだ。
「いつの間にかスピーカーが取り付けてあって……でも、区のアナウンスが入らないんですよ~」
「それは変ですね……じゃ、俺たちの音楽でも流したいっすね」
ロングヘアの男性は無邪気に言っていた。
「音楽? あぁ、バンドを組んでいるんですかね?」
「そうなんすけど……」
「けど?」
「今は活動休止なんす……」
「そうなんですね……どうして?」
少し慣れてきたオリガミは、普通に話せるようになっていた。
「メンバーが体調不良になって、再会のメドが立たないんですよ」
ロングヘアの男性は、寂しそうな顔で話してくれた。
「病院通いとか? しっかり食べてないとかかな?」
「なんか鬱っぽいみたいで……」
「そう……お大事にね。 それなら、お参りしていけば?」
「いいっすね♪」
こうして二人は、バンド再開の祈願としてお参りをしていた。
「俺、ケンって言います。 バンドでの名前ですけど」
「そうなのね。 私は九条 オリガミって名前です。 ここの巫女もやっています」
お互いに自己紹介をし、ここで別れた。
そして数日後
「こんにちは。 またお参りに来ました」
バンドマンであるケンが、仲間と神社に来ていた。
「はーい」 社務所からテマリが顔を出す。
「あ、ども……九条さんですよね? お参りに来ました」
ケンは照れくさそうに挨拶をした。
「はい……?」 テマリはキョトンとしていた。
「あの、仲間を連れてきまして……あの体調不良の……」
「はい……?」
「あれ?」 ケンも話しが嚙み合っていない異変に気付く。
「あっ! もしかしてオリガミですか?」
「そうです」
「もうすぐ来ますよ」
すると、オリガミが神社にやってきた。
「あら? ケン君?」 オリガミは小さく手を振る。
「こんにちは。 あれ? オリガミさんが二人?」
ケンは、顔は覚えていたが髪色が違うだけの二人を見間違えていた。
「妹のテマリです。 よろしくね、ケン君」 改めてテマリも挨拶をする。
「美人姉妹っすね~♪」 ケンのテンションが上がっていた。
「ところでケン君……体調不良の仲間って人?」 オリガミはケンの隣で立っている男性を見る。
「リュウって言うんですが、まったく声が出なくなったんですよ……それから引きこもってしまったりで……」
「なるほど……」
「それで、お参りに来たら少しは変わるかと思って来ました」
「うん。 お参りしましょう」
そうして、四人で境内に向かったが
「オリガミ……彼の喉を見た?」 テマリが小さい声でリュウの事を話す。
リュウの喉は腫れあがり、黒ずんでいた。
「ケン君……リュウ君の喉の腫れなんだけど、いつ頃から?」
「えっ? 腫れてます?」 ケンは不思議そうな顔をしてリュウの喉を見ている。
(気づかない? こんなに腫れているのに?)
「うん、マフラーをしているくらいだけど……」
「えー? 普通の首にしか見えないですよ?」
テマリはスマホを持ち、リュウの喉の写真を撮った。
そして、その写真を覗き込んだが
「あれ? 普通の首だな……じゃ、これは何?」 オリガミとテマリは、恐る恐るリュウを見つめた。
そしてリュウは、無表情のまま一点だけを見ていた。
「ケン君、ちょっといいかしら……」 テマリがケンを呼び寄せる。
「呪い?」 ケンは動揺していた。
「そこまでとは言えないけど……あまり、よろしくないかな……」
こういう現象は、 “信じる、信じない ” がハッキリ出る為、出来るだけ柔らかく話しをした。
「あの……オリガミさんなら、どう思いますか?」 ケンは判断に困っていた。
「それは……」 オリガミも返事に困ってしまった。
「まさか……除霊とか言って、凄い金額を請求するやつですか? あの、霊感商法ですよね?」
ケンは強い口調になり、拒絶するような態度になっていった。
「それは違います……確かな事を言ったまでです」 オリガミは困っていた。
今までは、悩みから宮下に相談を受けての仕事であった。
だが、今回の場合はオリガミたちが先に気づいてしまい、これを営業という形になってしまうことで人間関係に響いてしまう難しい内容であった。
「難しいよね……見えない物を信じるって……」 テマリは中立の立場を貫いていた。
「じゃ……除霊代は、いくらしますか?」 ケンが小さな声で聞くと
「ふふふ……高いわよ」 テマリは強気な言葉で言った。
「ゴクリ」
「ここからの値段交渉は、私がするわ」 オリガミが間に入る。
「オリガミさん……」 ケンは覚悟を決めたような目をしていた。
「値段は……本気でプロを目指し、プロになれたらCDをください。 サイン付きで! あと、ライブのチケットをください! これでどう?」
「本当にそれでいいんですか?」 ケンは驚いていた。
「もっと高い方がいい?」
「いえ、宗教の勧誘とか凄い金額とかかと思って……」 ケンは腰が抜けたかのような声で話していた。
「んじゃ、やりますか……」 テマリは、ケンを境内の外で待たせた。
そして時間が経ち、リュウが境内から出てきた。
「リュウ……」 ケンが、声を掛けると
「ケン、声が出るわ」 リュウに涙が溢れていく。
そして境内の中では、リュウに憑りついていた物の怪が彷徨っていた。
「うりゃあ……」 オリガミの掌から波動を出し、憑き物は消えていった。
「未来のロックスターの為の ”滅セージだ “」
オリガミは、久しぶりに決め台詞を出した。
「久しぶりに出したね~♪」 オリガミはご機嫌であった。
その数日後、ケンとリュウが神社にお礼に来ていた。
「あの……お礼がしたくて来ました。 今度、小さなライブハウスですが来てくれませんか?」 ケンが二枚のチケットを取り出す。
「まぁ! 私たちに?」 テマリは喜んでチケットを受け取った。
その夜、オリガミは護にライブの話しをしていた。
「あれ? そのバンド、知ってるよ。 アマの中では有名なんだよ」
「そうなの?」
「俺も自分でチケットを買うから、一緒に行こう」 護もノリノリになっていた。
そして数日後、ライブ当日。
「ケン君! リュウ君!」 凄い熱量の観客が大勢いるライブ。
手を振るオリガミとテマリに ボーカルのリュウが挨拶をした。
そしてギターのケンも一緒に、ステージでファンに挨拶をしている。
「今回、リュウの不調でライブを延期させて申し訳ありません……そして、リュウを……俺たちをステージに戻してくれたオリガミさん、テマリさん、本当にありがとー」 ケンの挨拶の後、大きな声援が飛び交った。
「良かったね~♪」 オリガミとテマリは、顔を見合わせて喜んだ。
爆音とも言える演奏が始まった。
(耳や頭が痛い……)
オリガミとテマリには、ロックの道は険しそうである。
そして数年後、ケンやリュウのバンドがプロで活躍していくのは、また別の話し。




