第二十一話 ノイズ
第二十一話 ノイズ
「おはよう♪」
日曜日、オリガミは護と一緒に神社に来ていた。
「今日は一緒なんだね~ 護は何をしてくれるのかな?」 護が来ると、神社の雰囲気は明るくなる。
テマリも楽しそうにしている。
「久しぶりに……」 オリガミが用意したのは、種売りの道具であった。
テーブルや看板を出し、準備を整える。
「オリガミ、最近は忙しかったものね……」
小さい声で言ったつもりのテマリの言葉は、護にも聞こえていた。
(忙しかったんだ……それなのに家の事もしっかりと……)
護は、改めてオリガミの大切さを身に染みていた。
「よし、頑張って売るぞ~」
護は気合を入れて椅子に座り、客待ちを始める。
「オリガミ、大丈夫? 休んでていいよ」 テマリが気遣っている。
「大丈夫よ。 ありがとう」
「―うっ」 テマリが頭を押さえ、苦しそうにしていた。
「テマリ? どうしたの?」 慌ててオリガミがテマリを社務所まで連れて行く。
少しの時間、テマリは目を閉じていたが ようやく目を開けた。
「テマリ?」 心配そうにオリガミが顔を覗き込む。
「なんか、嫌な音がして……」
「音?」
「なんか、「ザザー」って音がしたのよ。 そこから気分が悪くなって……」
テマリは説明したが、同じ時のオリガミには聞こえない音であった。
「ノイズ音みたいなやつ?」 後ろから護が言い出す。
「わっ!」 オリガミとテマリは驚いた。
「なんで来たのよ! ビックリするな~」
社務所はパニックになっていた。
「さっき聞いたからさ……テマリちゃんが言ってた音」
「ノイズ音?」
「ちょっと待ってて」 護は社務所にあるラジオの電源を付けた。
“ ~♪ ” 音楽が流れ始めた。
「これが正常のラジオね。 これでチャンネルを変えると……」
“ザザー ”
「この音だ……」 テマリは驚いていた。
「テマリ……貴女は、どこの局の人なの?」
オリガミの言葉に、 “ガクッ ”と崩れる。
「別に、テマリちゃんが局を持っている訳じゃないから……」
“どこまで本気で言っているのか分からないんだよな~ ” と、護は苦笑いするだけであった。
「ちょっと調べてみるね」 護がスマホで調べ始める。
「自律神経の乱れや……」
(私たちに自律神経があるのかしら……?)
いくらか出てきたが、オリガミとテマリに該当するかと言えば、難しい内容であった。
「とにかく原因を探さないとね」 オリガミは気合が入っていた。
「まず、休ませてみない?」 護の言葉に、オリガミが絶句する。
「そ、そうよね……それが良いかもね」 オリガミは慌てて同調する。
(危ない……原因としても、一番最初にソレを見逃すとこだったわ)
この日、テマリは完全休養日と決め、オリガミと護で神社の仕事を行う事にした。
午後、仮眠をしたテマリはスッキリした顔で目覚めた。
「ありがとう♪ 疲れが取れてきたよ~」
「そら、良かったです……」
そこにはグッタリしたオリガミと護がいた。
(テマリ……こんなに仕事をやっていたのか……そりゃ疲れるよ……)
オリガミはテマリの凄さに感嘆としていた。
それから数日が経っても、テマリのノイズ音は消えなかった。
しかし、体調を崩す事はない、ただノイズ音だけが消えなかった。
それを見ていて、オリガミのストレスが増えていく。
ある日、
「うん? また、この音……」 テマリは我慢をして、音の聞こえる方へ歩き出す。
テマリが鳥居付近まで来ると顔を歪める。
“ザザー ”
繰り返すノイズ音に、テマリは嫌がり社務所に戻っていった。
そして、テマリが宮下に相談をする。
「何? ノイズ音じゃと?」 宮下の顔が険しくなった。
この日、テマリは社務所で完全休養となった。
朝、オリガミが神社へ来ると
「オリガミ……ノイズ音を解決するぞ」
宮下からは並々ならぬ決意が感じられた。
「テマリは、鳥居付近で顔を歪めている。 この付近を探すのじゃ」
宮下の言葉に従い、オリガミは式神を使った。
「オリガミ~♪」
「お願い、この付近でノイズ音の原因を探して」
そうして式神も加わり、ノイズ音の原因を探した。
式神たちは鳥居を叩いて調べる。
「ここは違うか……」
そして時間が経ち、問題となるものは見つからなかった。
「どうして……?」 オリガミが苛立ち始める。
そして宮下は、『家庭の医学』の本を読んでいた。
「マスター、何してるの?」 オリガミが冷めた声で宮下に言葉を掛ける。
「いや……何か分かるかと思って」
「私たちに? 人間の医学で?」
そんなオリガミの言葉に、宮下は黙り込んでしまった。
「い、いや……マスターが悪いとかじゃなくて……」
オリガミは、宮下をなだめるのに必死になってしまった。
“キンコンカンコン……こちらは防災、新宿区です…… ”
区のアナウンスが聞こえてきた。
(あの、始まりの音……って、あれ?)
オリガミが電柱の上を見上げる。
「変じゃの……ここに、スピーカーなんぞあったかな?」
神社の前には電柱があり、その上にはスピーカーがある。
しかし、そのスピーカーからは区の知らせが聞こえていなかった。
(おかしい……) オリガミの直感が働いていた。
「おかしいの……区に連絡してみるわい」 宮下は区に連絡しようと、社務所に向かった。
しばらく時間が経ち、宮下が鳥居まで戻ってきた。
「―おぬし、何をしているのじゃ」 宮下が叫ぶ。
オリガミは電柱に上っていた。
「危ないから、降りろ!」
しかし、オリガミは電柱の上にあるスピーカーの所まで登ってしまった。
「これかな?」 オリガミはスピーカーの部分に取り付けられていた、小さな器具を見つけた。
その部品は、小さな赤いランプが点滅していた。
「よし」 オリガミは声を出し、赤いランプが点いている部品を取りに掛かったが……
「―あっ」
オリガミは態勢を崩し、電柱の上から宙に投げ出された。
(ヤバっ)
「オリガミ―」 宮下の声が響く。
その瞬間の出来事である。
偶然にもオリガミの袖から折り鶴が飛び出た。
『ポン ポン……』 と音が鳴り、式神が現れた。
「オリガミ~♪ ―って大変」
式神たちは、オリガミの服を引っ張り上げた。
「うんしょ うんしょ……」
式神たちは声を出し、必死にオリガミを落とさないようにしていた。
そして、ゆっくりと地面まで降ろしていった。
「ふぅ……」 オリガミは息を漏らした。
「「ふぅ……」 じゃないわい! 残りの寿命が五年縮んだわい!」
「じゃ、あと二年ちょい……」
「そんな短かったの? わしの寿命……」
「そんな事より……なんで危ない真似をするんじゃ?」
余程、肝が冷えたのか……宮下は怒っていた。
「でも、取れたわよ」 オリガミは、スピーカーに付けられていた小さな器具を手に取って見せた。
「これは……なんじゃろうか……?」
オリガミと宮下は小さな部品を眺めていたが、もちろん初めて見る器具に戸惑っている。
「電気屋さんに聞いてみようか?」
そして電気屋が神社に来て、器具を見ていた。
「これは……特殊な機械になりますね」
「特殊?」
「はい。 一般には売られていませんね……」
「なんと……」 宮下は不思議でならなかった。
(ただの神社に? 何故じゃ?)
「普通に売っていないので、ただただ不思議な機械としか……」
電気屋も、見た事のない代物に興奮していた。
そして宮下が礼を言い、電気屋は帰っていった。
「これから どうするかの……」 宮下は肩を落としていた。
「どうするって?」 オリガミが宮下を見る。
「誰かに恨まれたり、目を付けられている神社など……」
「まだ恨まれたという訳じゃ…… ―まさかっ?」
「まさか?」 宮下がオリガミに顔を近づけると。
「マスターが、飲み屋のツケを払っていないとか……」
「―そんな事で電波障害を使うかっ」
「こういう物に詳しい人……いないよね……」
オリガミは肩を落とした。
「ただ持っていても解決にはならん! 探すぞ」 宮下の鼻息は荒く、滅多に見れない感情的な部分が出た時でもあった。
「まずは、この機械が本当にテマリを苦しめている物かを確かめて……」
オリガミが小さな機械をテマリに近づける。
「……」 テマリの反応は無かったが、数秒後
「―うっ」 苦悶の表情になった。
(やはりコレか……)
その後、宮下は電気部品に詳しい人を探すため、あらゆる人に電話をかけていた。
宮下は、何もできないと言うもどかしさを感じながら、オリガミが持っている機械に目を向ける。
「―おぬし、何をしている?」 宮下はオリガミの行動に驚いていた。
オリガミはタッパーに小麦粉を入れ、機械を小麦粉に埋めていた。
そして、その振動で電磁波が出るタイミングを見ていた。
(やはり揺れているな……)
そしてコップに水を入れて、その中に入れてみた。
すると、同じように水も揺れていた。
(防水なのね……)
「何か分かりそうか?」 宮下は機械を見て話すが、オリガミは首を横に振った。
「でも、このままじゃ終われない……解決しないと」
オリガミは拳を強く握った。




