第二話 会いたくて
第二話 会いたくて
それから護は何度も夜の新宿を歩いていた。
あらゆる露店を覗き込み、オリガミの姿を探し歩いる。
しかし、オリガミを見つけることはできなかった。
「はぁ……何処にいるんだ……」
護は帰宅してからもオリガミのことを考えていた。
そして植木鉢を眺めていると、種から出た芽は綺麗な緑色をしている。
その芽が元気に育ってきている頃、護は仕事をしても元気が無く単純なミスばかりしていた。
「足立君、最近変だぞ? こんなミスばかりで……」
佐藤課長からも心配されていた。
同僚からも心配される。
「足立~ お前、大丈夫か? 心配になるぞ」
誰が見ても護の様子が変だと気付いていた。
(みんなが五月病を心配しているのかな? ただオリガミさんに会いたく…… と言っても笑われるだけだしな……気持ちを戻さないと!)
しかし、ひとめ惚れの恋は簡単に入れ替えなど出来ることはなかった。
五月の終わり、護は夜の新宿を歩いている。
もちろん仕事帰りであるが、仕事に慣れてきた護は率先して残業もしていた。
そのため、夜遅くに帰る事も多くなっていたのだ。
(ここで、オリガミさんに会ったんだよな……)
護は、オリガミに初めて会った場所に来ていた。
“もう何回目になるだろうか…… ” ここに来てはオリガミを探していた。
しかし、この場所には占いの露店しかなかった。
「またお兄ちゃんかぁ? いつも何をしているんだ? ここは前から、この店だけだよ!」
露店の男性は、気の毒そうに話しかけてきた。
「えぇ、何度もすみません。 ただ、どうしても……」
護は歯切れかった。
露店の男性は、息をこぼして護を見つめていた。
(気の毒に、記憶喪失とかかな……) そんな目で護を見つめていた。
「よし、君の探し人が見つかるか占ってあげるよ♪」
占いの男性は、護の気休めになればと思っていた。
「はぁ、そうですね…… お願いします」
護は占いを信じるタイプではないが、そっと占いの男性に掌を《てのひら》出してみせた。
「ふむふむ……」 占いの男性は静かに掌を見つめる。
しばらく護の掌を見つめた占いの男性は顔を上げた。
「君は人を探しているんだよな?」
手を掴んだまま、護を見つめる。
「はい。 そうです……」 護は真剣な顔で言った。
「会えそうだな! そのうち、ひょっこり現れるんじゃないかな? 君の運命的なものが出ているよ!」
そう言って、占いの男性がニッコリと笑った。
「ありがとうございました……」 護はお礼を言って、露店を後にした。
(まぁ、気休めでも会えると言ってくれて良かった♪)
護は、この露店が良い思い出の場所としての記念になったと、小さな満足を得ていた。
そして帰宅した護は、自宅の植木鉢を見る。
「あれ? どんどん大きくなるな……って、この実……?」
発芽から少し経ち、芽を見ると小さな実がなっているのに気づく。
「いいね~ どんな花が咲くか楽しみだ♪」
護はオリガミとの出会いを思い出し、大切に育ててきた芽の成長を喜んだ。
※ ※ ※
六月に入り、蒸し暑さも出てきた。
仕事帰り また露店の前を歩き、護はキョロキョロとしている。
「まだ会えてないかい?」 露店の男性が来て、護に声を掛けると
「はい……」 護は頭をかきながら答える。
悲しく答えれば、占いの男性の占いが外れて否定してしまうことになるからだ。
「そうか。 僕も楽しみにしているんだけどな~」
「ありがとうございます。 会えたら報告にきますね」
そう言って、露店から立ち去る。
護は帰宅し、夕飯の準備をしていた。
キッチンから料理の匂いが立ち込めていて、食欲がわき立ってくる。
護は大学時代から自炊をしていて、家事はお手の物であった。
「よし、食べるか♪」 護は夕食をテーブルに並べ、食事を始める。
護が夕飯を食べていた横で植物は静かに揺れていたが、護は気づかなかった。
そして夕飯が終わった頃、また植物の実は大きくなっていく。
翌朝、護が植物に水やりをしながら話しかけていた。
「オリガミさん、おはよう♪」 護は、植物の名前をオリガミにしていた。
護は一目惚れを そのまま継続させていた。
そして陽の当たる場所まで植物を移動させていく。
そして七月になり、護は変わらない生活をしている。
いつも通り会社に行き、“帰りに新宿を歩いてオリガミを探す ”そういう毎日である。
そして、今日もオリガミは見つからなく
翌朝、植物の手入れをしていたが、実が育ち少し変わった形になってきていた。
「随分と実が大きくなってきたな……どんな花が咲くのだろう……」
期待が膨らみ、さらに実を見つめていると、
「あれ? なんか鶴の形っぽくなってきていないか?」
護は何回も目をこすった。
そして、陽の当たる方へ植木鉢を移動させようと持ってみたが、
「なんだ? やたら重いぞ……」 護は植木鉢の重さに驚く。
(仕方ない……) 移動は諦め、会社に向かう。
「足立、今日は金曜だし飲みに行かないか?」 同僚が飲み会に誘ってきた。
「久しぶり行こうかな……明日は誕生日だから前祝ってことで♪」
護は、笑顔で同僚に誕生日のアピールをしていた。
そうして会社が終業し、飲み会に向かった。
「護、明日が誕生日なのか? 七夕が誕生日なんてカッコイイな♪」
同僚の安本が話してきた。
「そうなんだよ~ 全然、メルヘンな男じゃないけどな……」
護は酔ってきて、口調も軽やかになってきていた。
そうして飲み会も終わり、酔った護は駅まで歩いていく。
(誕生日と言っても予定も無いし、祝ってくれる人もいないしな……)
護は誕生日を前日に、下を向いて歩いていた。
そして駅に向かっている途中、占いの露店の前に来ていた。
「こんばんは……」 護は占いの男性に挨拶をすると、
暇そうに缶コーヒーを飲んでいた占いの男性は、護に気づく。
「おぉ、足立君だったよね? 明日は七夕だから、良い出会いがあるように♪」と、手を振ってくれた。
護は帰宅し、酔っていながらも植物に話しかけていた。
「ただいま、オリガミさん。 明日は俺の誕生日なんだ……」
などと他愛のない話しを植物に話しかけていた。
夜も遅くなり、護は寝る準備をする。
「おやすみなさい、オリガミさん……」 護は、優しい声で植物に声を掛ける。
電気を消し、寝静まった頃の時間は午前一時になっていた。
護は熟睡し、静かになった部屋が急に眩しく光った。
それは、電気を点けた程度では済まないほどの明るさになっているが
しかし、護が眼を覚ますことはなかった。
そして部屋が眩しくなってから一分ほどで、光は消えていく。
すると、 「うぅぅ……」 護の部屋から、小さく声が聞こえてきた。
それでも護が夜中に目を覚ますことはなく、朝になっていく。
「ふぁ……」 護は目覚め、大きなあくびをしてベッドから上半身を起こす。
そして、たまたま目に入った植物を見た護は目を丸くした。
「あれ? 実が破れている?」
花が咲くと思っていた実が破れていた事に驚き、植木鉢に行こうとしたが
『ボフッ……』
「―んっ? 何これ?」
ベッドの中で何かにぶつかった。
驚いた護は布団をひっくり返す。
「……??」
そこには裸の女性がスヤスヤと眠っていたのだ。
「――これは……?」 護は驚き、寝ていた女性に布団を掛けなおす。
そして寝ている女性が邪魔にならないように、そっとベッドを出る。
護はキッチンに行き、水を飲んで昨夜の事を思い出していた。
「あれは誰だ? それに、そんなに俺は酔っていなかったし、お持ち帰りなんてしていないぞ……」 昨夜からの事を何度も確認している。
「うん。 俺、モテないし、出来るはずもないんだけど……しかし、あの女性は?」 護はベッドに寝ている女性を気にし始める。
「しかし、誰だ? あと裸だったし……」
女性が裸であった為か、布団をひっくり返して確認することに躊躇していた。
その後、護は女性を起こさないように毎朝の行動をし始める。
騒がれたら大変なことになってしまうからだ。
「まず、鉢に水やりだな……」 護は現実から目を背けるように、植木鉢に向かう。
すると、手にかけた植木鉢は簡単に動いた。
(あれ? 昨日は重くて動かなかったのに??)
護は、植木鉢が軽くなっていたのに驚いている。
「この実が破けたから軽くなったのかな? しかし、この実は一体……」
しばらく植物を見ていた護は、部屋のカーテンを開ける。
護の部屋は、朝から陽の入る良いアパートであった。
そしてカーテンを開けた瞬間に、眩しい陽の光が護の部屋に注がれていく。
「う……うぅぅぅぅん……」 ベッドから女性が起きた声がした。
(―ヤバい、起こしたか……)
しばらく気にしてベッド見ていると、布団が動きだす。
「ふぁぁ……」 と、大きなあくびをして女性が布団から起き上がった。
「あわわ……」 護が声を出す。
裸の女性が布団から出てきた。
記憶にすら無い女性が、同じベッドから出てきたのであればビックリして当然である。
女性は、護に気付いて声を掛ける。
「おはよう……」
「―おはようございます」 と、護も返したが、
「誰だ? ――とにかく服を……」
護は衣装ケースからトレーナーを取り出し、女性に手渡し声を掛ける。
「―あ、あの服を着てください……」
「あ、ありがとう……」 女性は護から手渡されたトレーナーを着ていく。
その後。女性は部屋をキョロキョロしてから護の顔をジッと見つめていた。
護も女性をジッと女性を見つめ、少し間があいた。
(このグレーの髪に、蒼い瞳は……)
「あれ? もしかして……オリガミさん?」
護は、女性がオリガミだと気づいた。
「ん。 そうだけど……」
オリガミは寝起きのせいか、護にピンときていなかった。
「えっ? 覚えてない?」 護は “もしかしたら、人違いだったか…… ”
と、焦りだす。
護は “諦め半分! ” でオリガミの顔を覗きこんだ。
オリガミは護の顔を見たまま、動きが止まった。
「あら……やっぱり人違いだったか……」
護は、オリガミに落ち込んだ背を見せていた。