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第十九話  木枯らしの中で

第十九話   木枯らしの中で



十月、少しの寒さを感じだす時期になってきた。

まだ木の葉は青く、落ちるには早い。



「朝晩は冷えてきたけど、日中は暑く感じるわね」

テマリは、オリガミと話しながら神社で掃き掃除をしていた。



「オリガミさ~ん」 遠くで呼んでいる声が聞こえ、オリガミが振り返る。



「奈菜ちゃん……」 

オリガミは、軽く手を振った。


「こんにちは」 奈菜はご機嫌のようで、声色も良かった。


「今日はどうしたの?」


「そろそろ進路の相談をしようと思って、オリガミさんに……」


(いや、先生に相談しろよ……私、学校とか行ってないから分からないんだから……)


奈菜の相談に、オリガミは困った顔をしていた。



「どれ、おじちゃんが相談に乗ろうか~?」

そこに、ヒョコッと顔を出してきたのがトウジであった。



「えっ?」 「お父さん? なんで此処に?」

全員がトウジの急な登場に驚いた。


「ところで、お嬢ちゃん……いくつかな? おじさんが色々と教えてあげるよ~♪」

トウジは奈菜の肩に手を掛け、口説こうとしていた。



「―何、やってんだ!」 “ゴツンッ ” と、鈍い音がした。


オリガミは、チャラい父親の頭にゲンコツを落としていたのだ。



「何、高校生を口説いているのよ! そんな馬鹿な父親をもって、私は悲しいわ……」 オリガミが肩を落とすと


「オリガミさんのお父さん……」 奈菜がトウジの顔を見る。



「そっか……高校生はイカンな……それじゃ」 トウジは残念そうに振り向き、帰ろうとしたが


「お父さん……何か私に用事があったんじゃないの?」

トウジを引き止め、聞くと



「あっ、そうだった! そう、トウジ……用事があったんだ……」


(つまんな……トウジにヨウジって……) オリガミとテマリは、目が点になっていた。


「それで、何の用?」


「今日、じじい……いるの?」 トウジが神社の敷地を見回す。


「じじい……じゃない! じいじだ!」 テマリもトウジに冷たかった。



「まぁ、居ないんでも構わないが、ちっと厄介やっかいな事を頼まれてさ~」

トウジは頭を掻きながら話し出した。


「厄介なこと? お父さん以上に厄介って……」

「こら、娘! 父親をいたわれ!」



「それで何よ!」 

「それがな……」 トウジは話し出してから、チラッと奈菜を見る。



(部外者には聞かれたくないか……じゃ) 

「奈菜ちゃん、テマリと境内の掃除を手伝ってくれないかな……?」

オリガミがお願いのポーズをすると、奈菜は笑顔で境内の方へ歩いていった。



「はい、どうぞ……」 オリガミがトウジに話しを振ると


「あの娘……どこの?」 

「矢沢 奈菜ちゃん……前に憑かれてて、助けたのよ……」


「そうか……ならいいが、あまり普通の人に式神を見せるなよ」

「大丈夫よ」 そんな親子の会話を済ませ、


「だから厄介な事って何よ……」 オリガミは早く済ませて欲しいようで、トウジにせかしていた。



「そのブレスレットさ……使い道を知ってるの?」


「知らない……いつの間にか手首に付いていたし、取れないのよね~」

オリガミは手首を回してみるが、ピッタリ付いているため外れないのだ。



「そうか……じゃ、いいや……」 そう言って、トウジは帰っていった。



(何しにきたんだ? 厄介な事とか言ってたくせに……) オリガミは首を傾げた。


「オリガミさん、お話しは終わった?」 奈菜が境内から出てきた。


「うん、終わった」 


そして、奈菜は進路についてオリガミたちに話した。



「私、神社で仕事がしたいの……オリガミさんや、テマリさんのように神社で困っている人を助けたいの……」


すこし変わった発想だが、オリガミに憧れたというのは嘘ではない。

奈菜なりに考えた進路なんだろうと、オリガミは思った。



「良いと思うわ」 オリガミも共感していた。


「その為の必要な事って、ありますか?」


「ない……かな……」

オリガミやテマリは、最初から特殊能力を持っている。

普通の人に求めても無駄なことだとオリガミやテマリは理解していた。



「そろそろ冬支度かぁ……」

テマリが話した時、落ち葉が舞い上がった。


「わっ! ――えっ?」

舞い上がった葉の後ろに斉田 秋草が立っていた。



 「久しぶり……」


 (そんな、久しぶりでもないような……) オリガミやテマリは作り笑いをしていた。



「今日は相談があって来たのよ……」 秋草が深刻そうな顔をしていると


「そう……奈菜ちゃん、聞いてあげてね」 と、オリガミはスタスタと歩いていった。



「なんなのよ~ せっかく来たのに冷たいわね!」

雑な扱いに、秋草は怒り始めた。



「だから奈菜ちゃんが聞くって……」

「高校生じゃんか!」



「あんたね……過剰かじょう請求せいきゅうしといて、よく言えるわよね~」

オリガミは、とことん秋草に冷たかった。



「そんな事を言って、払ってね~じゃん」 秋草が頬をふくらます。


「もう……何なの? 早く言いなさいよ!」 


「さぁ奈菜ちゃん、みにくい女の争いは見ちゃダメよ! 行こ」

テマリは奈菜を社務所に連れて行った。


(私も醜い?) オリガミは苦笑いだった。


「私さ……狙われているかもしれないのよ……」

秋草は真顔で言い出したが


「撃たれたらいい……それじゃ」 オリガミは、スタスタと歩きだした。



そんなオリガミの肩を掴み、

「それでも友達? 冷たくない?」


「―誰が友達よ!」 オリガミは、慌てて言い返す。


「お願いよ~」 秋草は半泣きになっていた。

「わかったわよ……んで、何?」



「最近、会社に嫌がらせの電話や手紙が来るのよ……」

「そりゃ、あくどい事をしているからだろ?」



「もっと聞いてあげてもいいけど、交換条件をだすわ」

「交換条件?」


「このブレスレットと鏡の関係を全て話しなさい」


「うぐっ……」 斉田は渋々、オリガミの要求を飲んだ。


そして斉田の話しが始まる。

「……なるほど」 


斉田の家は、元々がお金持ちだったらしい。 そして、お家復興の為に先代から頑張っている……それを邪魔をする者がいて、それを調べて欲しい……とかである。



「お願いね……」


「出来る限りはやるけどさ……それで、私の方は?」


「それね……斉田って家は、九条家とライバルだったらしいのよ……」

そこから斉田家の話しを延々と聞かされた。



「……それで、ブレスレットと鏡の関係は?」

「それが、よく知らないのよ……ずっと昔の話しだからね~」


なんとも、オリガミの聞き損である。

「わかった。 とりあえず調べておくよ……」

オリガミは元気なく応えていたが、


「よろしくね~」 秋草は元気よく帰っていった。




翌日、オリガミは一人で秋草の会社に来ていた。


(テマリは行かなくていい……なんて言ってたけど、頼まれたら仕方ない)



「しかし、ボロいビルだな……」

秋草の会社の名前は『斉田コーポレーション』 そんな名前に相応しくないほど、ボロボロのビルの一室を借りていた。



「ごめんください……」 オリガミは秋草の会社のドアを開けた。


そこには十畳ほどの部屋に、デスクが四つという倒産寸前の会社のようであった。



「オリガミ、来てくれたんだ♪ コッチ来て」

秋草は嬉しそうにしていた。



「ちょっと……アンタの会社、大丈夫なの?」


大丈だいじょうばない……」 秋草がショボンとした。



「それで、何をしたらいいわけ?」

「この紙を見て」 秋草は、デスクの上にあったチラシをオリガミに手渡した。



「どれどれ……」

その内容は、『この会社は呪われている。 おはらいをするから百万円を振り込め』 と、言う内容であった。



(コイツ……詐欺の広告に、見事なまでに引っ掛かってる……)

オリガミがニヤニヤする。


「どうしよう……呪われてるんだ……」 秋草は涙目で話した。



(高齢者かよ……こんな事を真に受けるなんて……ちょっと面白いけど)

オリガミは、少し悪い顔になっていた。



狼狽うろたえるな、秋草よ……このオリガミ様が、半ベソで不細工な顔になって、私に泣きついてきたお前を救ってやらんでもないぞ……」


オリガミは、これ以上なくらいに悪い顔をしていた。



「ありがとう……でも、その顔を見ているとオリガミが送ってきたんじゃないかと思っちゃう……」



そこに、秋草の会社のドアの外から歌が聴こえてきた。


「ジャマイカあたりのステップで~♪」


『バンッ』  「邪魔するよ~」 トウジが秋草の会社にやってきた。


「お父さん……何故にモンローウォークを唄いながら?」


「あの時のイケメン……?」 秋草が見惚れている。



(うげ~ 趣味悪いな……) オリガミは引いていた。


「お父さん、何しに来たのよ!?」


「ん~? このチラシかぁ……まんざら嘘広告でもないぞ」

トウジがチラシを持ってヒラヒラさせる。



「どう見ても詐欺広告じゃない……」



「秋草よ~ お前、妖術を封印されてるんだろ?」



トウジの唐突な言葉に、オリガミと秋草は固まった。



「妖術? 秋草が?」

オリガミは、トウジと秋草の顔を繰り返し見た。



「……」 秋草は下を向いてしまった。


「どういうこと?」 


「つまり、妖術を使えない斉田の当主は “ただの人 ” だ。 そんな力を持たないハリボテ娘を失脚しっきゃくさせたいんだろうな……」 トウジはため息をつきながら説明した。



「じゃ、この広告の神社に行ってみるか?」

トウジの言葉にオリガミと秋草は電車に乗り、八王子の山奥の神社まで来た。



「なんか寒いわね……」 オリガミは身もだえしている。


「この神社、見覚えが……」 秋草が口にした瞬間に突風が吹き、枯れ葉が宙を舞った。



「待っていたよ。 斉田の娘……」 そこには中年の女性が立っていた。


中年の女性は黒髪で長く、オリガミの顔を細くしたシュッとした女性であった。



「貴女は誰ですか? どうして、このチラシを……?」

秋草は泣きそうな声で、訴えたが



「チラシ……まさか、このチラシで二匹の魚が釣れるとはな……」

女性がニヤリとする。



“コソ~ ” っと足音を立てずに逃げようとしたトウジに、女性が声を出す。


「お前……逃げるんじゃない!」


「はい……」 トウジは金縛りにあったかのように固まった。



そして、女性は斉田を見て


「私は九条 ヒサメ……オリガミの母であり、そこのクズの妻だ……」



「えーーーっ?」




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