第十六話 秋まつり(下)
第十六話 秋まつり(下)
秋祭り、二日目
土日を使い、秋まつりを楽しむ人が増えていく。
「今日は何もないといいけど……」 護は昨日の出来事から不安を引きずっていた。
「今日は護と一緒に、ゆっくりしたいな~」
オリガミは元気になり、境内横の広場で露店を眺めていた。
護も神社の衣装を着て、すっかり職員のようになっていた。
そこに、若い女の子が来て 護の衣装が珍しいのか、一緒に写真を撮ろうと言われていた。
「はい。 チーズ」 昔から変わらない掛け声で写真を撮り、護も笑顔になっていた。
「……」 オリガミは、護を睨みつけた。
「い、いや……記念だろうから……」 一生懸命に言い訳をしている護に、冷ややかな目をするオリガミ……
そんな祭りも楽しいイベントであった。
「……そういえば、お父さん来てないね……」
露店の場所は何もなく、空きスペースになっていた。
「そろそろ始めるぞ」
宮下の言葉に、護は急いで神楽殿に向かった。
オリガミとテマリは社務所に戻って化粧を始める。
「今日な何事も起こらなければ良いが……」
宮下は観客の一人ひとりに目を配り、斉田が来ていないかを確かめていた。
そして神楽殿に来たオリガミたちは音楽が掛かるまでの準備をしていた。
そこに 「オリガミさん、テマリさん……頑張って!」
奈菜が来ていた。
「うん♪」 ニコッと笑顔をみせるオリガミであった。
そして音楽が掛かり、オリガミたちの舞が始まる。
『シャン シャン♪』 鈴の音色が高らかに鳴った。
「綺麗~」 奈菜も見惚れていた。
観客も舞台に釘付けになった。
音楽は進み、最高の舞台となったオリガミたちは拍手の嵐の中、神楽殿から降りた。
「素敵でした~」 奈菜はオリガミや、テマリに抱き着いていた。
盛り上がりを見せた 秋まつりの最中、誰かが境内に入っていた事を まだ誰も知らなかった。
「オリガミたちは化粧を落とし、鈴など神楽の道具を境内に運んできた時に気づいた。
「あれ? なんか、ここの配置が違う……」
異変に気付いたオリガミは宮下を呼んだ。
「―ない。 魔鏡が無い……」 宮下は動揺していた。
(盗まれた……? 誰に?) 護は急いで境内から出ていき、周辺を探しに出た。
オリガミとテマリも捜索の態勢に入った。
「出でよ 龍神!」 テマリは大きな口を開け、龍になる白い息を吐きだした。
白い息は龍の形になり、境内を出ていった。
オリガミは折り鶴を出し、息を吹きかけ上に放り投げる。
『ポン ポン……』 と音が鳴り、式神が現れた。
「オリガミ~♪」
「式神たち、お願い……魔鏡を持ち出した人を探して!」
オリガミが式神たちに説明すると、
「わかった~」 と、言って境内から飛び出していった。
テマリの龍神は、大きさを控えて周囲が騒がない大きさで捜索していた。
しばらくして、式神たちと龍神が戻ってきた。
「オリガミ~ 怪しい人、居なかったよ~」
式神の一人、白虎が話し出した。
その時、
“キィィーン ” と、耳鳴りのような音が聞こえてくる。
「うっ……」 と、全員が耳を塞いだ。
「あれよ!」 朱雀が声を上げた。
全員が境内の見上げると、天井の柱に魔鏡があった。
「式神たち、魔鏡を取ってきて」 オリガミが頼むと、
「わかった~」
式神たちは天井の魔鏡に向かっていった。
しかし
「あれれ……?」 式神たちは魔鏡の近くまで行くと、動きが止まってしまった。
「―どうしたの?」 オリガミは驚いている。
魔鏡の額に彫ってある式神の眼が赤く光り、式神たちは動けなくなってしまった。
そして、魔鏡の額に引き寄せられるように式神たちは入っていってしまった。
「―なんと……」 宮下は声を漏らした。
「そんな……」 オリガミは腰から崩れ落ちた。
テマリの龍神が徐々に身体を大きくし、魔鏡に向かっていったが……
簡単に弾き飛ばされ、白い煙になった。
「どうすれば……」 全員が口にしていた。
そこにトウジが境内に入ってきた。
まだ暑いというのに、毛糸の帽子で丸いサングラス……
ちょっと怪しい恰好で、トウジが魔鏡を見上げていた。
「これは、誘いだね……」 トウジが呟くように言う。
「誘い……?」
「そう……きっと誰かがオリガミを誘っているんだよ……でも、挑発に乗らないことだね」 トウジはオリガミに優しく微笑んだ。
「でも式神が……」
「あぁ……しばらく、式神なしで頑張るしかないかな……」
トウジは頭を掻いていた。
「そうだよ! 魔鏡の事を考えなくて済むし、今まで通り 普通に暮らそうよ」
ここまでの嫌な空気を払拭するように、護は元気に振舞った。
「そうだね。 いいこと言うじゃん! 護~♪」 テマリも空気を変える為に話しを合わせる。
そして夕方になり、秋まつりが終わった。
「お疲れ様~♪」 片付けも終え、社務所に戻って乾杯をしていた。
宮下と護はビール、オリガミとテマリは水で乾杯をした。
「初回とはいえ、何事も無く開催できて嬉しかった~」
テマリは感無量であった。
「そうじゃの! 皆のおかげじゃよ……」
誰よりも嬉しかったのは宮下であった。
少し、顔を赤く染めた笑顔が物語っていた。
「ところで、オリガミとテマリ……鏡の件は、どうするんじゃ?」
宮下が切り出すと、全員が黙った。
(さっき、護が「普通の生活に戻す」と言ってたのに……)
テマリは少し腹が立っていた。
「ほ、ほら……オリガミのお父さんも挑発に乗らない方が……って言ってたし……」
護は、なんとか鏡から遠ざけようとしていた。
「別に……何を気にしているのか分からないけど、あの鏡のことなら大丈夫よ」
オリガミは、ケロッとしていた。
「えっ……?」 全員が目を丸くした。
「来て……」 オリガミが誘うと、全員で境内に来た。
まだ鏡は天井の柱にくっついていた。
「式神たち、鏡ごと降りてきて!」
オリガミの言葉に鏡が反応する。
鏡の額縁の式神の目が光り、ゆっくりと下に降りてきた。
オリガミは鏡を両手で掴み、護に見せた。
(夢でも見てるのか? オリガミは何者なんだ……?) 異様な光景を目にした護は、不思議そうにオリガミを見ていた。
「オリガミ……昔からイリュージョニストだったの……?」
「人を、“プリンセス○功 ” みたいに言わないで……油田、貰ってないから」
誰かがボケると、反応してしまうオリガミであった。
「それに、この鏡は何の為にあるかは知らないけど……きっと、私の所へ来たがっていたんでしょう……それでいい」
オリガミの表情が、聖母のような顔つきに見えていた。
「とりあえず、不釣り合いだが……神社に置いておくか?」
宮下が、神様の横を用意してくれた。
「式神たち、戻っておいで」
オリガミが折り鶴を出すと、静かに戻っていった。
「……」 テマリは言葉を出せずにいた。
そして夜、
「ごちそうさまでした」
秋まつりの打ち上げも終わり、護とオリガミは自宅に向けて歩いていた。
「色々あったね……」 護がニコッとする。
「あった……護、私のこと 嫌にならない?」
オリガミは寂しそうな目をしていた。
「なる訳ないよ……どうして?」
「私、色々あるみたいだし……普通の人からしたら、嫌じゃないかな……って」
オリガミは半分、覚悟をしていたが……
「なる訳ないよ。 こんな経験できるなんて夢のようだよ」
護の言葉は、想像以上にオリガミの心に刺さったようだ。
「泣くなってば……」 護は、オリガミの頭を撫でていた。
「いい感じじゃない……」 そんな言葉が聞こえてきた。
護とオリガミが振り返ると、斉田が立っていた。
「どうしてここに……」 オリガミが調子を崩したのは斉田のせいと思い込んでいた護は、斉田を睨んでいた。
「ちょっと……私はストーカーじゃないからね! 少しだけ後を付けていただけだから……」
(世間では、それをストーカーと言うんだ……) と、護は思った。
「それに感謝して欲しいくらいよ。 鏡を返してあげたんだから……」
斉田は鼻息荒く、ドヤ顔をしていた。
「そんな顔されても、オリガミが調子悪くなったのは貴女が鏡を持ってきてからで……」 護はオリガミを守る為に必死であった。
「しょうがないな……説明するわよ。 実は……」
”タッ タッ タッ…… “ 斉田が説明をしようと、話し始めると足音が聞こえてきた。
「んっ?」 全員が振り向いた瞬間
「テマリ キック~」
その声が聞こえた時、斉田が吹っ飛んでいった。
テマリの、見事なまでのドロップキックが斉田の背中に命中し、斉田は数メートル吹っ飛んだ。
「何すんのよ!」 斉田が激高する。
「コッチの台詞だわ……お前、二度とふざけた真似するなよ!」
テマリは、斉田の胸ぐらを掴んだ。
「ひぃぃ……」 斉田は走って逃げていった。
「どうして、テマリが……?」 オリガミは驚いていた。
「じいじがね、「今日はオリガミの家に泊まりなさい」って」
テマリの屈託の無い笑顔が、オリガミを笑顔にさせていった。
そして、三人が護のアパートに向かう。
「ふっ ふっ ふっ……覚えてなさいよ、あの女……」
その頃、会社では斉田が尊神社への請求書を倍に書き換えていた。
(寝苦しい……)
朝になり、護が目を覚ました。
「だから、どうして裸で俺の布団に入るんだよ~」
オリガミとテマリは、裸で護の布団で寝ていた……