第十五話 秋まつり(上)
第十五話 秋まつり(上)
朝、護とオリガミは早い時間に目を覚ました。
「おはようございます」
早々と神社に来たオリガミは、巫女の衣装に着替えていた。
「オリガミ……もう大丈夫?」 心配するテマリの表情は硬かった。
「大丈夫よ。 ありがとう……」
神社には露店を出す人たちが続々とやってきた。
「本日は、よろしくお願いします……」 そう言って露店の人たちは、店を組み立てていく。
「なんか嬉しいね~♪ こうやって祭りが出来るのって……」
「そうだね……きっと神様も喜んでるだろうね~」
そんな会話をしながらオリガミとテマリも祭りの準備をしていく。
そんな中、社務所では寄付をされる方が来ていた。
「ありがとうございます」
巫女の衣装を着たオリガミとテマリが挨拶をする。
記帳をし、丁寧に対応をしていた。
午後になり、露店の用意が進むにつれて香ばしい匂いが漂ってきて
「オリガミ~ いい匂いがするね♪ 私たちは食べれないけど、どんな味なんだろ~」
テマリも祭りの雰囲気を楽しんでいるようだ。
そこに露店の人にしては、遅くに来た人がいた。
その遅れてきた人は神社に賽銭を入れ、手を合わせていた。
(あれ? 昨日、遠くから覗いていた人……)
昨日、遠くから見ていた男の姿を、テマリが覚えていた。
「あの~ 露店の引換券、ありますか?」
テマリが男に声を掛ける。
「あぁ、コレ……」 男はズボンのポケットから引換券を取り出し、テマリに見せた。
「ありがとうございます……こちらです」
そう言って、露店の場所に案内していた。
「こんにちは……」 護が露店の男に挨拶をする。
「あれ? 足立君?」 露店の男は、護に気づいた。
護が挨拶した男は、新宿で占いをやっていた店主だった。
「今日は、この神社なんですね……」
「そうなんだよ! よろしくね」
そう言って、露店の店主は自身の持ち場に向かっていった。
尊神社は祭りの期間は特にすることがない。
宮下が神様に祝詞をすることくらいだ。
「オリガミ、テマリ……やるぞ」
宮下の言葉で境内に行き、神聖な時間を迎えることとなる。
護は、ドキドキしながらオリガミたちを見つめていた。
「凄い……」
そして儀式は終わり、重い空気から解き放たれた。
「凄いです……宮下さん、本物の宮司みたいでしたよ~」
護は感動して、宮下を讃えていたが
「儂は本物の宮司じゃ!」 護は一喝されてしまった。
オリガミとテマリは境内横の広間を見ると、露店に多くの人が集まっていた。
「この神社に沢山の人が居るよ~」 テマリは、感無量で泣き出しそうなほど喜んでいた。
「本当ね……良かった♪ テマリも頑張ったもんね」
「オリガミ……」
「ところでさ……この神社って、何の神様がいるの?」
護が改まって聞くと
「そりゃ……」 テマリは下を向いてしまった。
(わからないのか……) 護は思った。
そして休憩を挟み、夕方になった。
今回のメインは、オリガミとテマリの神楽である。
舞台の為、化粧をした二人を見て
「……」 護は絶句していた。
護の前を通り過ぎるオリガミは、一段と綺麗に見えていた。
神楽殿に上がり、宮下が合図をしてCDを掛ける。
音楽に合わせ、オリガミとテマリは踊り、鈴を鳴らす……
賑やかだった神社の客は静まり返り、舞台を見つめている。
『パチパチ……』 拍手が聞こえ、巫女による神楽が終わった。
「凄かったよ~」 そう言って、拍手をしながらオリガミとテマリに近寄ってきたのは斉田だった。
「ありがとうございます……」
「それでね……感動させてもらったから、やっぱりプレゼントするわ♪」
斉田が段ボールをオリガミに手渡す。
「はぁ……」 踊りに緊張もあってか、なんとなくオリガミは段ボールを受け取ってしまった。
「―オリガミ」 テマリは慌てた。
すると、オリガミの顔が変わってきた。
朝のオリガミの眼は蒼くなっており、元通りだったのが再び赤くなっていた。
「―オリガミ……」 テマリはオリガミの肩に手を掛けるも、オリガミは反応しなかった。
(マズい……)
「――じいじ!」 テマリは声を出し、宮下の元に向かった。
「なんじゃ?」
「オリガミが……」
宮下とテマリは、走ってオリガミの元へ向かう。
そして オリガミを見ると、怖い表情をしたまま斉田を睨んでいた。
(どうすればいいんじゃ……) 宮下の額から汗が流れる。
その時、占いの露店の店主が声を掛けてきた。
「もういいだろ……この娘、嫌がってるじゃないか……」
「……?」 宮下はポカンとしていた。
露店の店主と宮下は初対面であるが、オリガミの味方をしている店主の存在が気になっていた。
「何がですか? 彼女、嫌がっていないはずですよ……」 斉田は鼻で笑うような顔をする。
店主はニコッと笑い、 「ここじゃ何だから、君を占ってあげるよ……コッチに来てごらん……」
そう言って、斉田を自分の露店に連れていった。
宮下は我にかえり、オリガミから段ボールを取り上げ、
テマリがオリガミの肩を抱いて社務所まで誘導していった。
「少し休んで……」 オリガミはテマリの声に頷き、横になっていた。
※ ※ ※
「どういうつもりだ? 秋草……」
「どうもこうもないわよ! オリガミに鏡を返そうとしただけよ」
「本当にそれだけか? オリガミが具合悪くなってもか?」
占いの露店では、店主と斉田が話していた。
「……」
「もう此処には来るな」
店主が斉田に言うと、斉田は帰っていった。
社務所では、オリガミが横になっていた。
(どうして鏡が関係すると、オリガミは調子悪くなるんだろ……?)
テマリは、鏡とオリガミの関係について調べようと思っていた。
そこに護が、神楽殿の片付けを終えて社務所に戻ってきた。
「オリガミ……?」
「今、休んだとこだから……」 テマリは護に『静かにしろ』の合図をしていた。
そして、オリガミが目を覚ます。
「うぅぅん……」
「オリガミ、起きた?」
「護、オリガミをお願い。 私は神社の仕事があるから……」
テマリは、オリガミを護に任せて社務所を出ていった。
そして、テマリは境内に来ていた。
「じいじ、鏡はどうするの?」
「しばらく、オリガミの眼に入らぬ場所に保管をしとく……これは危険じゃ」
「ちょっと貸して」 テマリは魔鏡を箱から出し、マジマジと見つめた。
(オリガミが調子悪くなる原因は何なの? ……よく探すんだ……)
テマリは数分間、鏡を細かく見ていた。
「―テマリ、離れろ」 宮下はテマリから鏡を引き離した。
「……」 テマリが一点だけを見つめていた。
「テマリ……」 宮下が心配そうに声を掛け、テマリは宮下を見た。
「―うっ」 宮下は驚いた。
テマリの眼が、オリガミと同じように赤くなっていたのだ。
「―遅かったか……」 占いの店主が境内に入ってきた。
「どれ、顔を見せてみろ」
占いに店主はテマリの顔を見ていた。
「アンタは誰じゃ?」 宮下は警戒しながら占いの店主に聞いた。
「後で話す。 待っていろ」 と、占いの店主は掌をテマリの額に当てた。
「……」 テマリの額に手を当て、待つこと数分……
テマリの眼は元に戻った。
「あれ? どうかしてた?」 テマリはキョトンとしている。
「おぉ……戻ったんじゃな?」 宮下も安堵していた。
そして
「なんで来ているの? お父さん……」 境内にはオリガミと護が立っていた。
「おとうさん?」
隣に居た護の心臓はバクバクしていた。
(あの占いの店主が、お父さん……?)
「足立君、黙ってて申し訳なかった……オリガミを ありがとう……」
そう言って、占いの店主は護に頭をさげた。
「いいえ……オリガミって……」
「オリガミは私の娘だよ……」
(そりゃ、そうだろう……オリガミが「お父さん」って言ってるんだから……)
護は心で占いの店主にツッコミを入れた。
「それで……どうして鏡を見るとオリガミやテマリが調子悪くなるのじゃ?」
宮下が、どうしても聞きたかったことだ。
「この鏡は……」
「ゴクッ……」 全員が息を飲んだ。
「……よく知らん……」
『―ズコッ……』 全員が倒れた。
「―貴様……」 宮下が占いの店主の胸ぐらを掴んだ。
「ま、まぁ待て!」 占いの店主は、必死に弁解をしようとしていた。
「オリガミのお父さん……お茶目ね……」
「す、すみません……」 オリガミと護は、外野席からの会話をしていた。
なんとなく雰囲気が落ち着いてきた頃、改めて話しをすることになった。
「これでよし……」 占いの店主は、オリガミの眼を元に戻していた。
「それでアンタは……」 気を取り戻した宮下が聞くと
「私は、九条 トウジと申します。 オリガミの父です」
占いの店主は、勿論だが九条である。
「名前がトウジなので、トウちゃんとでも呼んでもらえれば……」
(まさか……オリガミの父ちゃんだから、トウちゃん……?)
「―貴様、おちょくってるのかー?」 またしても宮下はトウジの胸ぐらを掴んだ。
「―まてまて……この爺さん、気が短いな……」
どうやらオリガミの父はお茶目なようだ。
「それならさ……私も、九条 テマリなんだけど……お父さんなの?」
テマリはモジモジしながらトウジに聞いた。
「お前……テマリ……?」
「ゴクッ……」
「知らん……」 トウジは考えたが、知らないようだ。
『―ズコッ……』 またも、全員が倒れた。
「なんなのよ! お父さん!」 オリガミの怒鳴り声に反応したトウジは、露店に逃げて行った。
「とにかく、少しでも鏡の情報を集めよう……」
宮下が、少し不安を覚えた秋祭りの初日であった。