第十一話 仕掛け
第十一話 仕掛け
宮下からスマホを与えてもらい、オリガミの行動に変化が出てきた。
自宅では料理のサイトを見つけ、護に食事を作ってあげれるようになっていたのだ。
「おっ! 美味い♡」 と、喜ぶ 護にオリガミはご機嫌だ。
「また練習して作るからね♪」 オリガミは、料理ができる喜びを感じていた。
むしろ、料理を喜んで食べる護の笑顔にオリガミは幸せだった。
護の休暇が終わり、会社に通うようになったある日のこと
「はぁ? 飲み会?」 オリガミが凍り付くような目を向ける。
「たまには……週末だし……」 焦って弁解している護にオリガミの更に冷たい目が突き刺さった。
「はぁ……まぁいいわ。 いってらっしゃい……」 肩で息を落とし、護を会社に見送った。
そしてオリガミは神社に向かっている最中も、飲みにいく護のことをブツブツと言っていた。
「まぁ会社員だし、付き合いもあるだろうけどもさ……前みたく、女の子と歩いている姿とかを想像するとな……」
オリガミは嫉妬深かった。
そんな中、テマリはマイペースであった。
「じいじ、お茶……」 立派にお爺ちゃん子になっていたテマリは、宮下に懐いていた。
オリガミが神社に着くと 「おはようオリガミ~♪」
と明るく声を掛けてくる。
「おはようテマリ♪」 オリガミは手を挙げ応えた。
こんな風にオリガミとテマリは仲が良いが、彼氏となる者と暮らしているか否かで環境は違った。
「オリガミ、今日の依頼だ」
宮下は住所と名前の書いてある紙をオリガミに渡した。
「これは?」 オリガミが紙を見ながら宮下に聞くと
「今日はオリガミとテマリで行ってくれ。 ワシは用事があって行けない」
そう言って宮下は立ち上がり、着替えにいった。
オリガミとテマリは、紙に書いてある住所に向かった。
そして玄関前に来たが、玄関のドアは少し開いていたので、中に人が居るか確認をした。
「こんにちは。 誰かいますか?」 オリガミは声を掛け、中の人を呼んだ。
「はい……」 暗い雰囲気の中年男性が家の中からやってきた。
「あの……神社の宮下の使いで来た者ですが……」
オリガミが玄関を開けた男性に名乗ると、
「女の子なんだ……どうぞ……」 男性は家の中に招き入れる。
「失礼します」とオリガミとテマリは、言葉を掛けて家の中に入った。
そして玄関から上がり、数歩 歩いたところでオリガミとテマリは背筋がゾクッとする。
(この冷たく、嫌な空気は……?)
そんな事を感じながら家のリビングに入っていった。
オリガミとテマリはリビングのソファーに腰かけ、要件を聞いた。
中年男性の名前は権田 聡、50歳くらいであった。
数年前に妻を亡くし、現在は一人暮らしだそうだ。
「それで、今回のご依頼は?」 オリガミは真剣な眼差を権田に向ける。
「あの……恐らくですが、妻の呪いじゃないかと思いまして相談を……」
権田は力の無い口調で話す。
「呪いですか?」
「はい。 ここ1年くらいでしょうか? 家の中が荒らされていたり、私の行動を邪魔したりする事があるのです……」
権田は説明するが、オリガミたちは理解に苦しんでいた。
「家の中を荒らされているのは……空き巣とかでは?」
テマリは自宅が物色されているのなら、警察に相談ではないかと思っていた。
「私は自宅で仕事をしていますので……誰か来たら分かるのですが、誰か来た様子もないので……」
権田は説明すると、テマリは言葉に詰まってしまった。
「わかりました! 詳しく見ていきましょう……」
オリガミは双方が納得いく形を選び、権田の了承を得た。
オリガミとテマリは権田の家の中の様子を見て回ったが、荒らされた様子が無く綺麗に整頓されている。
(どういうこと?) オリガミは不思議に思い、権田の方を向いた。
「あの……権田さん……」 オリガミが権田に話しかけると、権田は床を気にしていた。
(何を見ているのだろう……?)
オリガミは権田が気にしている床を目で追った。
すると、何も変わった様子がなかった床が、一瞬だけ黒い影が湧き出てきた。
「―うわ~っ、もう止めてくれ~」
権田が声をあげて床から後ずさりをしていた。
オリガミは一瞬であったが黒い影のようなものが見えた。
「テマリ、ちょっと来て!」 オリガミは別室にいたテマリを呼び寄せた。
「どうしたの?」 テマリは慌ててオリガミの所に歩いてきた。
「この床、一瞬だけど黒い影が出てきたの! 何か居そう……」
オリガミの目が険しくなり、床に視線を送った。
「権田さん、いつもこの場所から黒い影が出てきますか?」
オリガミが床を指さしながら権田に聞くと
「いいえ。 特になにも……」 先程まで怯えるように声を出していた権田が、普通の顔に戻っていた。
「……? 何も?」 オリガミは首を傾げる。
「はい! 何もありません」 権田の雰囲気が別人のようになっていった。
「では、私たちは何故ここに来たのでしょうか?」
オリガミは権田の顔を覗きこむ。
「何で でしょう……」
権田は依頼をしておいて、それが分からなくなっていた。
(何かあるな……) オリガミはテマリと目配せをして頷きあった。
「そうですよね……最後に軽く点検だけして帰りますね」
オリガミは権田に伝え、部屋の中を点検して回った。
オリガミとテマリは室内を歩き、時折 屈んだりしている。
「これで点検が終わりました。 それでは……」
オリガミとテマリは挨拶をして権田の家を後にした。
「さぁ、どうなるかしらね~」
テマリは身体を伸ばしながら、遠目に権田の家をチラッと見た。
「とりあえず、マスターと相談ね……」 オリガミは不本意そうに話す。
オリガミとテマリは神社に戻り、宮下に権田の件の説明をしていた。
「なるほどな……」 宮下はため息をついて話す。
「実はな、依頼は権田の家族からなんじゃよ……権田に会って、変と思わなかったか?」
そう話し、宮下は麦茶を一気に飲み干す。
「なんか変でした! 途中で依頼を中止されるし……」
オリガミは釈然としなかった。
「だから詳しく調べようと思って、種を置いてきたわ」
テマリが最後に権田の家に種を置いてきたことを報告すると、
「種? なんじゃ それは?」
「私たちは、身体から小さな種を出すことが出来るのです。 その種は……害となすものを検知すると、そこに根を張っていくのです……」
オリガミは真顔で話す。
オリガミたちは、権田に点検と言って家の隅々で屈んでは種を置いていったのだ。
「それで、どうなるのじゃ?」 宮下は食い気味に顔を前に出した。
「その根から芽を出せば物の怪の正体が分かりますし、私たちの協力をしてくれるのです……」
宮下には信じがたい話しだが、オリガミとテマリは淡々《たんたん》と話していた。
※ ※ ※
「ただいま~」 オリガミは疲れた表情で帰宅する。
遅く帰ってきた為、護の方が早い帰宅となっていた。
「おかえり! 遅かったね」
護は声を掛け、テーブルにオリガミが飲む水を置いた。
「ありがとう。 それとね、しばらく仕事になりそうなんだけど……」
オリガミが困った顔で護に話すと
「あぁ……悪霊退治?」 護はケロッとした顔でオリガミの顔を見る。
「悪霊って……」 (ちょっと語弊があるなぁ……)と、オリガミは思っていた。
翌日、オリガミは早めに神社に向かい、仕事の準備をしていた。
「今日はワシも行こう!」 宮下が社務所の奥から出てきた。
「野次馬? それとも、いいとこ取り?」
オリガミが宮下にチャチャを入れていた。
「早く行くぞ!」 宮下はオリガミの言葉を無視し、権田の家に向かった。
「ごめんください……」 オリガミはチャイムを鳴らし、権田を呼んだ。
その時、近所の人が散歩で家の前を通った時に、テマリが近所の人に声を掛けた。
「―すみません、ちょっといいですか?」
(前は人見知りだったのに……)
オリガミは、テマリの行動力に感心していた。
オリガミはチャイムを鳴らしながら権田が出てくるのを待っていた。
テマリが近所の人と話し終え、オリガミの元へ戻ってくると
「あのね、ここは前から空き家なんだって……」
テマリは近所の人から聞いた話をオリガミと宮下に話した。
(昨日は玄関が少し開いていて、そこから権田に声を掛けて家の中に入ったんだった……) オリガミは昨日の出来事を思い出していた。
(そういう事なら……)
オリガミは玄関のノブに手を掛け、ドアを開けてみた。
すると、『ガチャ』 っと、玄関のドアが開いた。
(空き家なのに、鍵が掛かってなかったんだ……)
オリガミは気持ちを落ち着かせ、玄関の中に入る。
「お邪魔します……」 オリガミは小さな声を出して家の中に入った。
宮下は初めて来た権田の家の中を見まわしていた。
リビングに入った三人は、部屋に置いていった種を確認する。
(やっぱり……)
オリガミとテマリが置いていった種から芽が出ていた。
そして、バタンと音がして玄関のドアが勢いよく閉まる。
「――っ」
三人は驚き、玄関に目を向けると権田が立っていた。
「もう……「何もありません!」 と言ったじゃありませんか?」
権田はニコニコして腕を組んでいた。
「しかし、オリガミとテマリが置いていった種から芽が出ていたからな~」
宮下は床を見渡しながら呟いた。
「もう、お帰りください!」 権田の口調が急に強くなる。
テマリは権田の話しを無視し、リビングのソファーに座った。
「座りなよ……」 テマリは権田を睨むように見つめて言う。
しかし権田はテマリの言葉に反応せず、その場に立ったままであった。
時間が経過し、長期戦の予感がしてきたところでテマリが仕掛ける。
「どうしたの? 座りなよ、亡霊さん♪」
テマリはニヤリとして権田を見たが、それでも権田は表情を変えずに立ったままである。
「それなら、コッチからいくよ!」
テマリは大きく息を吸いこみ、溜め込んでから一気に息を吐きだした。
すると吐き出した息が白くなり、そして龍の形に変えて権田に向かっていった。
龍は権田に襲い掛かり、身体に巻き付いた。
権田は苦しそうにして歯を食いしばり、耐えて小さくなっていった。
(ちぇ……今回はテマリが主役だな……)
少しジェラシーを感じているオリガミであった。
「くっ……」 龍に巻き付けられた権田が苦しそうにしている。
すると、権田の身体が急に大きくなり、巻き付いていた龍が切れてしまった。
「―えっ?」 テマリは驚いていた。
すると、切れた龍は破いた紙の様に、ヒラヒラと床に落ちて消えてしまった。
「―うそ?」 三人は驚いていたが、中でもテマリが一番驚いていた。
「テマリ……」 驚き、落ち込んでいるテマリにオリガミが近寄る。
「……」 テマリはオリガミを見て、大きく息を吸いこみ
「――い、いや、何でニヤニヤしているのよ? 私が負けて嬉しい訳?」
テマリは興奮してオリガミに詰め寄った。
「い、いや その……」 オリガミは『サッ』とテマリから視線を逸らした。
(そんな、ニヤニヤしていたかしら……?)
オリガミは、ほんの少しだけ反省した。
「さて、どうするかの……?」
宮下は権田を見つめ、攻略の糸口を探していた。
その後、三人と権田での膠着状態が続く。
「あっ!」 オリガミが声をあげる。
「どうした? なにか分かったか?」 宮下が驚いたようにオリガミを見ると、
「もう夕方になったので、帰ろうかと……」 オリガミは時計を指さした。
「はぁぁ?」 宮下とテマリは、オリガミに身を乗り出す。
「そんなの残業でしょうがっ!」 テマリの勢いに、オリガミはショボンとした。
(とほほ……テマリが負けたから私も勝つ自信ないし、帰りたかったのよね……) オリガミは憂鬱な気分になっていった。
そしてオリガミはスマホを取り出し、護に遅くなるとメッセージを入れていた。
(いい妻かよ……) それを見ていたテマリと宮下は、心で思っていた。
※ ※ ※
「おっ? メッセージか。 なになに? 帰りが遅くなるのか……」
護はニヤリとした。
(むっ……嫌な予感……) オリガミの背中が『ゾクッ』とした。
そして膠着状態も夜に突入してしまった。
「もう、帰りたいよ~」 と、泣き叫ぶオリガミであった。