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第一話  謎の種

第一話    なぞたね



深夜0時、ピクッと反応したオリガミは裸のままベッドから起きた。


就寝しゅうしんには、何故か全裸ぜんらで寝ているのだ。




「またお前か……」 オリガミは同じベッドで寝ている男性にりついているものにらみ、 



「ふう……りないな……おりゃぁぁぁぁ!」


オリガミのてのひらから光を出し、物の怪に命中させた。



すると 『シュウゥゥゥ』 と音と共に青い炎に包まれ、物の怪は消えていった。


メッセージだ!」 そう言って、オリガミはベッドの中に戻っていく。



彼女の名前は 九条くじょうオリガミ。 同棲中どうせいちゅうの彼にりついている、物の怪を消すのが役目である。


グレーの長い髪は背中まであり、クールで端正たんせいな顔立ちの女の子だ。



そんな彼女は少し前に彼と出会い、同棲を始めている。


出会いはこうだ。




四月の新宿、オフィス街に囲まれた中の一角の居酒屋で新入社員の歓迎かんげいかいが行われていた。



「よっ、足立君。 飲んで、飲んで。」と言ってビールをすすめている人は佐藤課長という。


 そして、ビールを飲まされているのは足立あだち まもる二十二歳。

決してイケメンとは言えないが、真面目そうな感じである。

大学から新卒で入社した新人だ。



今日は足立の新入社員の歓迎会であった。

足立は小さな会社に入社。 三週間の研修を先輩と過ごした。



そして研修が修了し、晴れて独り立ちの “お疲れ様会 ” もねた、飲み会がもよおされていた。



「足立~、期待しているぞ~♪」

など声を掛けられ、先輩や上司との関係も良好である。



そうして二時間ほどのうたげも終わり、それぞれ二次回に行く人や帰宅する人に分かれていく。 



足立は二次回に誘われていた。



「足立君、コッチ コッチ♪」 女性の先輩社員が足立を手招てまねく。


(俺、あんまり酒は飲めないし……人づきあいも得意じゃないんだよな……)


と、護は思っていたが最初の飲み会だし、あきらめて付き合うことにした。



二次回はカラオケ店で過ごし、だんだん夜も遅くなっていき




「楽しかったね~ また行こうね~ おやすみ~」

などと数名の声が店の外で飛び交った。



こうして足立 護の新入社員の歓迎会が終わる。




「まだ四月だもんな……夜は冷えるな……」

護はスーツの上からコートを着て、帰宅しようと駅まで歩いていた。



護が駅まで歩いていると、小さな露店ろてんが護の視界に入る。

(こんな露店、あったかな? いままで気づかなかったな……)


気にしながらも露店に立ち寄ることはしなかった。




そのまま駅まで歩いていたが、やっぱり先程の露店が気になっていた。



(まだ終電にもならない時間だし、見るだけ見てみようか……)


護は歩いてきた道を引き返し、露店まで向かった。




露店に着くと、店主は寒そうに下を向いて身体をこすっていた。

その女性はグレーの髪色で長く、あおひとみで顔も綺麗であった。



「あの~ すみません。 ここは何を売っているのでしょうか?」

護は女性店主に笑顔でたずねる。



女性は顔を上げ、ハッとした顔で

「――あわわわわっ。 ―すみません。 ―営業許可とか知らなくて……」


女性店主はあわてて弁解べんかいを始めた。



護はキョトンとしていた。

(おまわりさんと間違えているのかな? スーツ姿だから?)



護は女性店主を安心させるため

「あの……客で来まして、お巡りさんじゃないです……」

と事情を話すと、



「―あっ、そうですか…… 私ったら、そそっかしくて すみません」

と、女性店主は何度も護にペコペコと頭を下げた。



「いえいえ。 ところでこの店は何を売っているのですか?」

護は女性店主に聞いた。



店には椅子いすとテーブルが ひとつずつあって、テーブルの上には折り紙で作られたつるが二つ置かれていた。



「折り紙屋さんですか?」

護は、不思議そうな顔をして女性店主に聞くと



「あっ、いえ……私は売っていません!」

女性店主は不機嫌ふきげんな顔になる。


「???」 護は店主が不機嫌になった理由が理解できなかった。



「ウチは植物の種を売っているんです」

女性店主がテーブルの下にあった箱を持ち上げ、護に見せてきた。



「今の時期ですと、夏に咲く花がおすすめです。 ミニ向日葵ひまわりとか朝顔とか……」




(ホームセンターに売っているのと同じ感じか……)



護は謎っぽい露店に興味がいたが、案外と普通の種屋さんだった事に少し残念に思っていた。



「お客様は一人暮らしですか?」 女性店主が護の事を聞いてきた。



「―はい。 大学から一人暮らしをしています。 今回、新入社員の歓迎会があって その帰りなんです」


護はなんとなくだが、女性店主に自身の事を話していた。



「そうなのですね。 これからが楽しみですね♪」

女性店主がニコッと護に微笑んだ。



(―うっ、可愛い……) 護は女性店主の笑顔を見て、酔いが覚めていった。



「どれが合うかな……? あの、お名前を教えてくださいますか?」 と女性店主は聞いてきた。



「僕は足立 護と言います」 護は、メモ用紙に漢字で名前を書いてみせた。



「ありがとうございます。 私の名前は “九条 オリガミです ” 変わった名前でしょ?」 そう言って、照れくさそうにしていた。



「あっ! それで鶴の折り紙なのですね?」 護は何かを分かったような顔で鶴の折り紙と女性店主の顔を見比べていた。


 (それで「折り紙屋さん?」と聞いて、「私は売っていません!」と答えたのか……) 護は一人で解釈かいしゃくして納得なっとくをしてしまう。



「そうだ! 護さん、お花とかは好きですか? と、言っても種しか無いのですが……」 オリガミが話しを商売に戻してきた。



「まぁ 見ている分には好きですが、自分では育てたことはないんです……」


護が照れくさそうに答える。



「よかったら社会人になった記念に育ててみませんか?」


オリガミは、ビニール袋の中の数種類の種をテーブルの上に並べた。



「この種は何の花が咲くのですか?」

護は、せっかく来たのだから記念に買ってみようとオリガミに聞く。



その時、ピューっと冷たい風が露店に流れ込んできた。

「うぅぅぅぅ」 と、オリガミは身をよじって震えだした。



「寒いよね……少し待ってて!」


護は周辺を見渡し、歩いて露店を離れていった。



数分後、「お待たせ♪」 と言って、露店に戻って温かいコーヒーをテーブルの上に置いた。



「―これは?」 オリガミは、テーブルに置かれているコーヒーを見ながら護に聞いた。



「寒いでしょ? 良かったら飲んで♪」 護は笑顔で勧める。



「優しいですね。 護さん♪」 オリガミは嬉しそうにコーヒーの缶を両手で持って温めていた。



「さっきの種のお話しでしたね。 これはミニ向日葵。 これは朝顔。 これはナデシコ……」

オリガミが種の並んでいる順に説明していく。



「俺でも出来ます?」 護は心配そうにオリガミに聞くと



「愛情を持ってお世話をしたら、綺麗に咲かせられますよ♪」


オリガミがエヘン顔をしながら答えた。



「そっか……どれにしようかな?」 


「……」 オリガミは、護の真剣な表情を見つめていた。


(こんな真剣に、種を見つめる男性っていいな……)



オリガミがポーっと護を見つめていた時、

「あの……」 と護が声を掛けた。



「――ひゃいっ!?」 


オリガミはあせって返事をしてしまった。



「俺に似合いそうな花って、何ですかね?」 護は唐突とうとつに聞く。


「えっと……今日、初めて会ったので……」 



「そ、そうですよね……」 護もオリガミの返答に戸惑ってしまった。



「あの……護さんは優しくて素敵な方なので、どの花も上手に咲かせられそうですよ♪」 


オリガミのまぶしい笑顔は、護の買い物の後押しをしていく。



「ありがとうございます。 じゃ、オリガミさんが選んでくれた植物を育ててみたいと思います」


護は花の種類が分からないので、オリガミに選んでもらう事にしたのだ。



「ふふふ……なんか護さんぽい♡」


オリガミは、護の事を前から知っているかのような口ぶりになっていた。



「じゃ、私が選んだ種を育ててくれますか?」


オリガミは立ち上がり、まるで愛の告白でもするかのような顔で護を見つめた。



「うん。 せっかくの出会いだし、育てるよ!」


護も告白を受けたかのような態度でオリガミを見つめる。



「では、護さんには この種を差し上げます♪」


オリガミは、テーブルの上にあった 折り鶴を持った。



「んっ? 種? これは鶴なのでは?」 護は、複雑な顔になっていく。



「あっ、この中に種が入っています。 これを……」


オリガミは折り紙を持って、鶴のお腹に口を近づけた。



「ゴクッ……」 護は息を飲んだ。



「ふうぅ……」 とオリガミはツルに息を吹きかけた。

ツルのどうまわりが一瞬にしてふくらむ。



護は、オリガミが折り鶴に息を吹きかけた瞬間、その姿が透明に見えていた。


 「えっ? なんで?」


まるで “鶴に命を吹き込んでいる ” かのような錯覚さっかくを覚えた。



「はい。出来ました♡」 オリガミは笑顔で鶴を手渡す。



「ありがとうございます。 最後のは何を?」


「これはがんけです。 護さんが愛情を持って育ててくれるように……と」



「――もうすぐ終電になっちゃう! いくらですか?」


護はオリガミにお金を渡す。



「オリガミさん、いつも此処にいるの? また来ますね♪」


護はオリガミに手を振って露店を後にした。




翌日、護はホームセンターに寄って植木うえきばちと土を購入こうにゅうした。



「どんな花が咲くかな……」 護はオリガミの顔を思い出していた。



そして折り鶴を広げ、種を見つけた。



(見た事のない種だな……)

その種は図鑑を見ないと分からないような種であった。



護は植木鉢に土を入れ、種を植えた。



それから毎日、護は植木鉢の様子を観察していた。

土が乾いてきたら水やり、日光に当たる場所に置いて育てていく。



一週間ほどした頃、植木鉢から小さな芽が出てきた。



「おぉ……やった♪」 護は発芽はつがを喜んでいた。



「今日、オリガミさんは居るかな? 仕事帰りに寄っていこう」


護はオリガミに芽が出た事を報告したくて、仕事の帰りに露店に向かったが



「あれ?」


オリガミに会いに露店まで来たが、オリガミの露店とは違っていた。


 店では、中年の男性が椅子に座っていた。 その中年はジャマイカ風のレゲエファッションで背が高く、細身でカッコイイ風の男性であった。



「あの~、ここの店は……?」 男性店主に声を掛けた。


「ウチはうらないだよ……やっていくかい?」 男性の店は占いであった。



「―い、いえ……また今度」


護は間違えた恥ずかしい気持ちを隠し、足早に去っていった。










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