04_エシェ_2
数日が過ぎ、エシェの手当てのおかげで俺の傷はほとんど癒えていた。彼女が「生命の鼓動」と呼ぶ力は驚くほど効果的で、今では痛みもほとんど感じなくなった。俺は体を動かしながら、自分がどれだけ回復しているかを確かめていた。
「もう、だいぶ良くなったみたいね」
エシェが静かに話しかけてきた。彼女の栗色の髪が光に揺れ、瞳には少しの警戒心が残りつつも、何か決心したような光が宿っていた。
「ありがとう。君のおかげで本当に助かった」
俺は感謝の言葉を繰り返したが、エシェは微かに微笑むだけで、少し距離を置くように立ち上がった。
「傷が治ったなら、選んでもらわないといけないわ」
彼女の声は少し緊張しているようだった。俺はその言葉に少し戸惑いながら、次の言葉を待った。
「ここに残ってゴミ拾いを手伝うか、出ていくか……どちらかを選んでほしいの」
エシェの言葉ははっきりとしていた。彼女の表情からは、俺が出ていく選択肢を選ぶことを予期しているような、そんな気配を感じた。
しかし、ここから出て一人で生きていけるだろうか。少なくとも、エシェはこの世界で出会った中では一番信頼できそうだ。共に過ごすことにデメリットがあるようには思えなかった。
俺は深く息を吸い込んでから、静かに答えた。
「ここに残ってもいいか?君と一緒にゴミ拾いを手伝う」
エシェの瞳に一瞬、驚きの色が浮かんだが、すぐにそれは消え、いつもの冷静な表情に戻った。
「そう……それなら、これからはしっかり働いてもらうわよ」
エシェの言葉に少し安心したものを感じつつ、俺は彼女と共にゴミ拾いをする生活を始めることにした。
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夕暮れが近づき、空がオレンジ色に染まる中、俺たちはゴミ捨て場から戻ってきた。初めてのゴミ拾いは想像以上に難しく、役に立ちそうなものを探し出すのに四苦八苦した結果、収穫はほとんどなかった。俺が手に持っているのは、古びた金属片や割れた陶器のかけらばかりだ。
「今日はこれくらいで十分よ。初めてのゴミ拾いで、よく頑張ったと思うわ」
エシェは俺の顔を覗き込み、柔らかな声で慰めてくれた。彼女の瞳には、優しさと労いの色が浮かんでいて、その視線に俺は少し救われた気持ちになった。
「でも、これじゃあ大して役に立たないよな……」
俺は手に持ったかけらを見つめながら、思わずため息をついた。エシェはふっと微笑んで首を振った。
「そんなことないわ。最初は誰だって同じようなものよ。ゴミ拾いにもコツがあるし」
エシェの言葉に、胸がじんわりと温かくなった。彼女の無邪気でまっすぐな笑顔に、俺もつい微笑みを返してしまう。
隠れ家に戻り、俺たちは簡素な夕食を囲んだ。食卓に並んだのは、乾燥パンと少しの野菜、そしてエシェが育てた植物の葉だけだった。豪華なものではないが、どこか心が落ち着くような味わいだった。
「ゴミ拾いのコツって、具体的にはどんなことがあるんだ?」
パンをかじりながら、俺はエシェに尋ねた。エシェは楽しそうに目を輝かせながら、頬に笑みを浮かべて答えた。
「まずは、軽くて持ち運びやすいものを探すこと。それに、まだ使えそうな形のものを見極めることも大事ね。あとは……運が良ければ、素敵なお宝が見つかることもあるわ」
エシェは、まるで宝物探しのように楽しそうに話していた。その無邪気な姿に、俺もつられて笑顔がこぼれた。
「君と一緒なら、きっといいものが見つかる気がするよ」
冗談半分に言ってみると、エシェは照れくさそうに顔を赤らめながら、小さく笑った。
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食事を終えた後、俺たちは寝床に向かった。俺がこれまで治療のために使っていたベッドは、エシェが使うようだった。
「俺は、このあたりで寝ようかな」
壁のそばの床に座ると、エシェは不思議そうに首をかしげた。
「なんで?ここで寝てたでしょ? もう傷も治ったんだから、私たち一緒に寝ればいいじゃない」
彼女の言葉に、俺の顔が一気に熱くなった。状況を理解すると、慌てて言葉を返した。
「いや、俺は床で寝るよ。エシェがベッドで寝て」
俺が床に寝ようとすると、エシェはふっと困ったような表情を浮かべ、そっとベッドの隅をぽんぽんと叩いた。
「どうして? 一緒に寝たほうがあったかいし。床は冷たいよ?」
エシェが無邪気にベッドの隅を叩いて俺を誘う。彼女の言葉は純粋で、悪気がないのは分かっているが、その無防備さに俺はさらに動揺してしまう。
「いや、それはちょっと……」
俺が言葉を詰まらせると、エシェはようやく何が起きているのか理解したようで、顔が真っ赤になった。
「えっ……あ、そ、そういうこと……」
エシェは目を大きく見開き、急いで視線をそらした。彼女は両手で顔を覆いながら、声を震わせて弁解を始めた。
「ご、ごめんなさい! 私、そんなつもりじゃなくて……ただ、いつも一人で寝てたから、誰かと一緒にいると安心するかなって……」
エシェの言い訳を聞いて、俺は思わず苦笑してしまった。彼女の純朴さと無邪気さが、どこか愛おしく感じられた。
「やっぱり、今日は床で寝るよ」
俺が改めて床に寝ようとすると、エシェはしばらく悩んだ後、無言で毛布を手渡してくれた。彼女の顔にはまだ恥ずかしさが残っていたが、真剣な眼差しで俺を見つめていた。
「これ……使って。寒くないように……」
エシェの気遣いに心が温かくなり、俺はありがたく毛布を受け取り、床に横たわった。
「ありがとう。これで大丈夫だ」
俺は優しく微笑んで彼女に礼を言い、目を閉じた。
夜が深まり、静寂が訪れた。俺たちはそれぞれの寝床で横になっていたが、なかなか眠りにつけない様子だった。エシェも、さっきのやり取りを思い返しているのか、何度も寝返りを打つ音が聞こえた。
静かな夜の中、俺は天井を見つめながら、エシェの無邪気さとその純粋な気持ちに、改めて心が温かくなるのを感じた。彼女の無防備な優しさが、俺を包み込んでくれるような気がして、自然と笑みがこぼれた。
「おやすみ、エシェ」
小さな声でそう呟くと、エシェも同じように小さな声で「おやすみ」と返してくれた。その声には、どこか安心感が滲んでいて、俺の心もまた穏やかに包まれていった。
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