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01_召喚と失意_3

 ローブの男に導かれて広間を後にすると、俺はまた長い廊下を歩くことになった。どこか重々しい空気が漂う中、俺は黙ってその後をついていく。頭の中では、先ほどのやり取りがぐるぐると渦を巻いていた。自分がどこにいて、何が起きているのか、未だにまったく理解できていない。


 やがて、俺は扉の前に立たされた。ローブの男が扉を押し開けると、中には広々とした部屋が広がっていた。豪華な装飾を施された家具が並び、暖かみのある光が部屋全体を包んでいる。先ほどまでの冷たい空気とは対照的に、この部屋にはどこか落ち着いた雰囲気があった。


「ここにいろ。後ほど、使用人が来る」


 そう言って、ローブの男は、静かに部屋を後にした。俺はその場に立ち尽くしながら、再び目の前の現実を受け止めようとしていた。俺が今いるのは、まさに異世界。これまでの生活とはまるで違う場所だということを、改めて実感させられる。


 やがて、ノックの音が部屋に響いた。俺が応答すると、扉が静かに開き、品の良さそうな使用人の女性が一歩部屋に入ってきた。


 使用人は一礼すると、柔らかい声で話し始めた。


「お疲れさまでした。ナギ様」


 その言葉に違和感を覚える、ナギ様?


「俺の名前はナギなのか?」


 口にしながら意味の分からない言葉であるとも思う。


「はい、そう聞いております。召喚時にそう名乗っていたと。……もしかすると召喚時の記憶がないのでは?」


 そうだ、と答える。気づけば薄暗い倉庫のような場所にいた。


「そうですか、であればいくつかお話しておくべきことがありますね」


 使用人の女性が扉を閉め、部屋の中へと入ってくる。


「ナギ様、まずはこの世界についてお話させていただきます。ここはレグラスト王国、異世界からの客人を召喚し、その力を用いて王国を繁栄させる古い伝統を持つ国です」


 俺はその言葉を聞きながら、少しずつ自分の置かれた状況を理解していった。この世界は俺のいた場所とはまったく異なるものだということ、そして俺はこの場所に、何か特別な役割を果たすために呼ばれたのだということが分かってきた。


「先ほどの謁見なされた方は、レグラスト王国の王、バルドリック陛下です。陛下は、異世界からの客人に特別な期待を寄せていらっしゃいます」


 王。やはり、あの男がこの国を統べる王だったのか。俺はその事実を飲み込みながら、さらにいくつかの疑問がぶつける。


 魔力とは。「魔力とは、この世界における特別な力であり、王国の力を支える重要な要素です。お客様も魔力を持っていらっしゃいますが、それは『再生の力』と呼ばれるものです」


 再生の力。俺に与えられた力がそれだと聞いて、俺はその言葉の意味を考えた。想像通り何かを再生させる力なのか、それとも別の何かを指しているのか。


「では……その『再生の力』とは、一体どういうものなんです?」


 俺の問いかけに、使用人は少し考え込むような素振りを見せた後、慎重に答えた。


「再生の力とは、物を修復し、元の状態に戻すことができる力です。ただし、その力には限界があります」


 俺はその言葉を聞いて、再び頭の中で状況を整理した。再生の力。それが俺の持つ力。だが、それがどれほどの意味を持つのかはまだ分からない。


「……その『再生の力』って、具体的にどんなものなんですか?もっと詳しく教えていただけないですか」


 俺の声には、不安と疑念が混ざっていた。再生の力という言葉が、あまりにも漠然としていて、どれほどの意味を持つのかがまったく掴めなかったからだ。


 使用人は一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに穏やかな表情を取り戻し、再びこちらに向き直った。


「……再生の力とは、お客様の体力や精神力を使って、物を修復する力です。ただ……先ほども申し上げた通りその力には限界があります」


 使用人は慎重に言葉を選びながら続けた。


「例えば……、そうですね……、この椅子のような単純な構造のものは、比較的簡単に再生できるでしょう。しかし、時計のように複雑な機械や構造物は……再生することが難しいか、ほとんど不可能です」


 その言葉を聞いて、俺は少し肩を落とした。椅子が再生できる?それが俺の力だというのか。だが、それだけでは納得できない。


「それに、再生の力を使うたびに、お客様の体力が消耗します。無理をすれば、身体に大きな負担がかかることになりますので、十分に注意が必要です」


 使用人は微笑みを浮かべながらも、どこか気を遣うように答えた。その言葉の奥には、俺がこの力を過信しないようにという警告が込められているのを感じた。


「……そうですか。じゃあ、この力は、あまり役に立たないんでしょうか?」


 俺の問いに、使用人は一瞬言葉を詰まらせた。彼女の表情が少し曇ったように見えたが、すぐに取り繕うように続けた。


「いえ、お客様の力も、きっと適切に使えば有用です。ただ、他の魔法に比べると……あまり目立つものではないかもしれません」


 その答えは、明らかに気を使ったものだった。俺はその言葉から、再生の力がこの世界であまり重要視されていないことを悟った。自分が与えられたこの力が、果たしてどれだけの意味を持つのか。俺の胸の中には、再び不安と疑問が渦巻いた。


 使用人が一通りの説明を終え、部屋を出ようとしたとき、俺は思わず声をかけた。

 

「これから……俺はどうなるんです?」


 俺の問いに、使用人は穏やかな微笑みを浮かべた。


「お客様はしばらくこの王国に滞在し、力を磨くことになるでしょう。陛下はお客様の力がどのように役立つかを見極めようとしていらっしゃいます。安心してお過ごしください」


 使用人の言葉には安心感があったが、それでも俺の胸に残る不安は消えなかった。これから何が待ち受けているのか、俺はまだその全貌を知ることはできない。


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