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01_召喚と失意_2

 意識を取り戻した俺は冷たい石畳を踏みしめながら、長い廊下を歩いていた。壁には荘厳な絵画が並び、天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がっている。確信はないが、この場所が権力の集まる場所なのだろうと推測する。俺の前を歩くローブ姿の男たちが無言で進む中、俺は不安と緊張を抑えきれずにいた。


 やがて、大きな扉の前で立ち止まる。扉は重厚で、見るからに簡単に開けられるものではなさそうだ。だが、ローブの男たちが何かを呟くと、扉が静かに開いた。中からは暖かい光が漏れ出し、厳かな雰囲気が漂っている。


「入れ」


 俺は促されるまま、その広間に足を踏み入れた。目の前には、豪華な王座に座る一人の男がいた。その姿は威厳に満ちており、周囲には豪奢な装飾が施された家具や調度品が並んでいる。彼こそが、この世界で、すべてを統べる者なのだろう。


「これが、召喚された者か」


 男の声は低く、だが力強く響いた。彼は俺をじっと見つめ、何かを考えているようだった。俺はその視線に耐えきれず、思わず目を伏せた。俺が何者なのか、何のためにここにいるのか、自分でもよく分かっていない。


「結果を報告せよ」


 男が冷静に命じると、一人のローブの男が俺の横に進み出た。彼は手に持っていた巻物を開き、淡々と報告を始める。


「陛下、この者の、魔力は微弱で、かすかな再生の力しか持ち合わせておりません」


 その言葉が俺の耳に届いた瞬間、胸の奥に冷たいものが広がった。再生の力?それが、俺の持つ力?


 男はしばらく黙っていたが、やがて深くため息をついた。その瞳には期待外れの色が見え隠れしていた。


「再生の力……それが全てか」


 その言葉は、俺にとって決して喜ばしいものではなかった。男が何を期待していたのかは知らないが、俺がその期待に応えられなかったことだけは確かだ。この場所に召喚され、与えられた力がわずかな再生の力だという事実に、俺は戸惑いと失望を覚えていた。


 男の表情は、静かに変わっていく。何も言わないが、その沈黙がかえって俺の心に重くのしかかった。期待されていたものが、実際には何の役にも立たないと知った時の失望。その感情が、男の瞳の奥に僅かに見えた気がした。


 彼は、しばらくの間、俺を見つめたまま何も言わなかった。その時間が永遠に続くかのように感じられ、俺の心臓は高鳴り続けていた。


 そして、男はゆっくりと視線を外し、目の前に立つローブの男に向き直った。


「客人として、扱え」


 その一言が広間に響いた。王の声は静かでありながら、その言葉には確固たる命令が込められていた。俺は、その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。理解できたとき、命がつながったと感じた。初めてまともに息ができた気持ちになった。


 ローブの男は黙って深く頭を下げ、俺に目を向けた。その目には、男の命令に従う覚悟が読み取れたが、それ以上の感情を読み取ることはできなかった。


「こちらへ」


 ローブの男はそう言って、俺を再び広間の外へと導いた。俺は男に一礼をして、その場を後にする。何が起こるのか、何が待ち受けているのか、まったく分からないまま、ただその場に従うしかなかった。


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