50 元がつく婚約者との圧迫面接
現在、アーリエアンナは目の前に座る男を見つめながら、盛大に顔を顰めている。彼女の母親に見られれば叱られるであろうレベルに、それはもうハッキリと、本来は態度を取り繕うべき相手の前で、顔面を不機嫌に歪めていた。
応募先は王妃陛下で、本来なら今この目の前の男と会う必要などないのに、「半年後まで会わないと誓うから、応募の際に1回だけ会って、条件を確認させてほしい」と頼まれたのだ。この男に。命令ではなく、お願いだそうだが、アーリエアンナが断りにくい相手である王妃陛下を通してのお願いなところが嫌らしいと、アーリエアンナは怒っている。
「リードル様。私と貴方は婚約を破棄した間柄です。私は、新たな殿方との見合いを望んでいるのです。……それにその顔……」
「アーリエアンナが、見合いの条件とやらを出し、応募を受け付けていると聞いた。……先ずは身長だ。身長195センチ以上。俺は195.5センチだ。問題ない!体重110kg以上とウエスト90センチ以上については、これから近づける予定だ。問題ない!握力100以上は、多分半年以内になんとかなる。問題ない!」
「……はぁ」
「短髪については、具体的な指示を出してくれれば、今日にでもその髪型にする。問題ない!顔面は十分強面だと思うのだが、ダメなのだろうか?今日は顔に傷を描いてもらったが、この方が良いなら、常に描くか、実際に傷をつけても良い」
「……態々怪我をしていただきたくありません」
「ならば、どんな顔つきになれば良いのか……。髭でも生やせば良いか?」
「食事の邪魔ですので、髭はちょっと……。」
「か、顔については後で考えることにする。上腕二頭筋の盛り上がりについては、半年後まで待ってほしい。今現在は、不可な細マッチョに近い自覚はあるが、時間をかければ大丈夫だ。笑顔重視……。こ、これでどうだ?」
アーリエアンナは、笑顔が可愛い男性が良いとか、いかにもな爽やか青年風笑顔を好んでいるわけではない。だが、緊張しながら、にっこり微笑んで見せるリードルのその印象は……
「怖っ!顔、怖っ!無理っ!」
「っ!!だ、大丈夫だ!半年後には、怖くない顔で笑ってみせる!問題ない!」
「無理では?」
「いや、可能だ!次だ、次。高圧的な性格不可と低会話能力不可についてだが……こ、これについても、なんとかする……アーリエアンナが逃げようとするから、つい高圧的になって、一方的に命令口調で話していただけだ……逃げないで側にいてくれるなら、俺だって……」
「は?私のせいだと?」
「いや、違う!これも、半年待ってくれ!今は、次の条件の確認だ。中毒患者不可と清潔感なし不可は、問題ないはずだ。食事に興味がない人不可についても、旨いものを食べ歩きたいなら、同行する。問題ない!」
「別に、無理して食べ歩きについてきていただかなくとも結構ですけど?」
「無理ではない!同行したいのだ!つ、次!次の条件のワンコ系歓迎がよくわからない。だが、どうすれば良いのか指示を出してくれればなんとかする。年齢は38歳以下だ。38歳の男の方が良いなら、もっと年上に見える様に努力する。問題ない!とにかく、今日は申し込みだけだ。俺は、応募する!そして、婚約と、結婚を望む。今、結論は出さないでくれ!」
「リードル様は、以前から武術の訓練はされていますけど、身体が大きくなるというより、締まっていく、細マッチョ系ですよね?今までと同じ方法で、身体を大きくしながら、筋肉を育てるのは無理だと思います。半年を無駄にしないために、申し込むのをやめませんか?」
半年間も「リードルが婚約者になってしまう可能性を残したまま」過ごしたくないアーリエアンナも必死だ。今ここで諦めてもらおうと、説得する。
「やめないぞ!大丈夫だ!食べて鍛えまくれば、なんとかなる!時間ももっと作れる!問題ない!」
「リードル様は、お忙しいですから、これ以上何かされるより、しっかり身体を休めていただいた方が良いと思います」
「俺は、忙しくない。凄く暇なのだ!問題ない!」
「は?」
ちょっと何言ってるかわからない。
この男も、この国の侯爵位以下の家の者の様に、忙しすぎておかしくなったのだろうか。
もうワンコになってきてる気がしますけど。アーリエアンナは拒否反応が強いので、気づけない様ですね。