49 二人の王弟
「兄上!」
国王夫妻により、王城に呼び出された翌日の夜、カルードルが、屋敷を訪ねてきた。
王弟カルードルは、アスターダ公爵家の次期公爵で、リードルの実の弟である。
「陛下達から、アーリエアンナの見合い条件の話を聞きましたよ!」
「そうか」
「そうかじゃありませんよ!まだ応募されていないとか!何をグズグズされているのです!兄上はいつからそんなウジウジ野郎になられたのですか、情けない!」
「酷い言われようだな。だが、短髪にして太るだけならともかく、他はどう考えても無理だろう?」
「食べて、鍛えて、性格を変えれば良いだけでしょう?」
それだけでアーリエアンナに惚れてもらえるなら、もう実行している。性格は……難しいが。求められる結果が、どう考えても無理なムキムキ加減だから、困っていると言うのに、弟は気軽に言ってくれる。
「細マッチョ不可だぞ?それに、半年だけ頑張って婚約できたとしても、婚姻は1年後。努力をやめていた場合は、婚約破棄される可能性が高い。いや、アーリエアンナのことだ。現在の俺の体形に戻れば、喜んで婚約破棄するだろう。いやいや、その前に、見合いで断られる可能性の方が……」
現時点で申し込むことは、可能だ。とりあえず身長条件だけはクリアしているのだから。そして、半年後の見合いで少しだけでも条件に近づいていれば断られずに済む可能性はある。しかし、そこからが問題なのだ。そこからまた半年後の1年経過時に半年前より条件から遠のいていれば、努力をやめたことになってしまうのだ。そうなると最初の半年の努力などノーカウント扱いとなる。
この俺が、1年間もの間、食べまくり鍛えまくりな生活ができる筈がない。どう考えても、見合い条件が、俺に不利で、アーリエアンナに有利すぎる。
「あ〜に〜う〜え〜!」
「なんだ」
「アーリエアンナのことは諦め、お見合いの申し込みはしないと言うことでしたら、私から話すことはありませんので、帰ります」
呆れた目で見られても、「負け戦に申し込む」のは自殺行為だろう。俺が、アーリエアンナと必ず結婚するためには、「勝てる様にお膳立てしてから申し込む」しかない。アーリエアンナを諦める気などないのだから。
「帰るのは良いが……アーリエアンナのことは諦めないぞ」
「王妃陛下に、接近禁止命令を出されたのでしょ?王妃陛下は、本気でしたよ?アーリエアンナを脅してどうこうとか無理じゃないですか?禁止命令を無視して会えば、例え両思いになれたとしても婚姻を認めないと言われたのでしょう?」
そう。近づけない。話し合えない。圧力をかけられない。
それでどうしようかと困っているのだ。
説得のための話し合いや、条件を無視した婚約申し込みは許しませんと釘を刺されている今、連絡手段は、伝言か手紙しかない。
「……手紙とかで……」
「受け取り拒否されるか、未開封で王妃陛下に届けられる未来しか見えませんが」
それは困る。絶対にやめていただきたい、チクり方だ。
「だが、朝晩多少鍛えてなんとかなるなら、努力するが、それだって忙しすぎて熟せない日がありそうだろう。今の募集内容のまま応募すれば、絶対に条件をクリアしないといけなくなるではないか!それでは、半年後に断られて、アーリエアンナに逃げられてしまう。なんとか募集内容を変えてもらわないことには応募などできないだろう?」
「死ぬ気で頑張れ、根性みせてみろ!と、王妃陛下から話を聞いた王太后も仰っていましたよ?」
義姉上も、母上も酷い!身内の情はないのか!
「死ぬ気で頑張って、根性をみせるだけで良いなら、そうしてる!俺は忙しいのだぞ!どう考えても無理だろう!お前も同じだからわかるだろう?」
まだ公爵位を継いでいないが、今でも十分忙しい、多分あと数年でアスターダ公爵となる弟に同意を求めれば、にっこりと微笑まれた。
「そうですね。だから、今日、私は兄上に会いにきたのです!」
「なんだ?」
「兄上、とりあえず一旦、爵位を前公爵に返しましょう!」
「は?」
ちょっと何言ってるかわからない。
弟も、この国の侯爵位以下の家の者の様に、忙しすぎておかしくなったのだろうか。