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48 お見合い大作戦 

 それは何の前触れもなく、ある日突然公開された。


「身長195センチ以上、体重110kg以上、ウエスト90センチ以上、握力100以上、 短髪、顔面強面系、上腕二頭筋が盛り上がっていること。筋肉ムキムキかつ肉付きが良いタイプなら尚よし。細マッチョ不可。笑顔重視、高圧的な性格不可、低会話能力不可、中毒患者不可、清潔感なし不可、食事に興味がない人不可、ワンコ系歓迎、38歳以下」


 ボーボルド侯爵家のアーリエアンナ嬢が王家を通じて出した「お見合いの条件」だ。


 先ずは貴族内で募集をして、条件に叶う立候補者がいれば即お見合い。

 今後条件に合わせる意思ありな場合も申し込みが可能。その場合、半年後にある程度「お見合い条件」に近づいていれば、お見合いできることとなる。


 1月以内に貴族男性からの応募がなければ、以後、アーリエアンナ嬢は、全ての貴族家からの婚約・婚姻申し出を拒否することができるものとする。


 身長の条件と顔の条件が合い、性格が悪くなければ、鍛え方次第でクリアできる。努力する心意気さえあれば、半年後の時点で完璧な状態でなくても良いのだ。婚約は半年後、婚姻は1年後。体質もあるので、1年後にクリアできていなくとも良いが、努力をやめていた場合は、アーリエアンナ嬢の希望で婚約破棄できるものとする。また申し込み者からの辞退も認める。


 アーリエアンナと本当に結婚したいと思うのならば、クリアしてみろという強気な「お見合いの条件」だ。


 現在長髪なら切れば良い。筋肉と体重が足りなければ食べて鍛えれば良い、性格に問題があるなら、直せば良い。


 条件にムカつくなら、無視すれば良いだけの話だ。


 笑われる分には構わないが、これで怒り出すような相手とは、アーリエアンナは関わりたくないとのこと。


 申し込み受付担当者はなんとなんと、まさかの王妃陛下だった。


 ふざけた男は、王妃陛下に申し込みなどできないので、アーリエアンナの安全は確保される。



 王族の女性からすれば、この条件は、某身内男性を応援するために出したものなので、仕事が忙しいから無理だのゴチャゴチャ言う様であれば、これ以後、一切の協力をしないつもりでいる。


 国王陛下にも、それは伝えて、了解をいただいたそうだ。


 強引に嫌がるアーリエアンナと婚約を結ぶのではなく、自分が選ばれる側になれと言う、愛の鞭である。







「リードル、無理だと思うなら、諦めろ」

「いや、でも……体重110kg以上ですよ?ただ食べて太れば良いわけでもないですし、鍛えたら痩せますよね?」

「ボーボルド侯爵家の人間は体質的に無理だった様だな」

「なるべく食べる様にして、仕事が終わった後に鍛えれば……」

「その程度でか?無理だろう」

「……諦めろと?」

「お前が諦めたいのならば、諦めたら良いんじゃないか?」

「そうですわよ。潔く諦めたらよろしいのですわ」


 ボーボルド侯爵家のアーリエアンナ嬢の「お見合いの条件」だと言う、馬鹿馬鹿しい内容の知らせを受け取ったその夜。兄である国王夫妻により、王城に呼び出された。


 アーリエアンナと結婚したいのならば、彼女好みの男になれ、なる努力をしてみせろと言うことらしい。


 何故か義理姉である、王妃陛下がノリノリだ。発案者は別にいるが、その発案を王族の女性たちが認めて、自分達が見届けまですると決めた、「アーリエアンナ嬢のムキムキお見合い大作戦」らしい。


 兄である国王陛下は渋い顔をしているが、反対はしないと言っている。


 激務を抱える自分が、たった半年で、アーリエアンナ好みの男になれるとは思えない。そして、半年後に奇跡的に条件に近づけたとしても、1年後には今の自分に戻っている自信がある。


 なんとか、この条件を反古にできないものかと、アーリエアンナと話し合いたいと言えば、王妃陛下を通じてお見合いを申し込むことは可能でも、説得のための話し合いや、条件を無視した婚約申し込みは許しませんと、王妃陛下に怖い笑顔で告げられた。


「1月以内に貴族男性からの応募がなければ、以後、アーリエアンナ嬢は、全ての貴族家からの婚約・婚姻申し出を拒否することができるものとする。これは絶対ですわよ。貴方でも、ルールを破ることは許しません。貴方が諦めると言うのなら、平民を含めて相手を探す手伝いもするつもりですわ」


 申し込みしたくない訳ではないが、現実にはクリアが不可能な条件の数々に、俺は頭を抱えた。体型だけじゃなく、ワンコとか意味不明なものまであるのだ。俺は犬じゃないぞ!


 俺を見つめる、王妃陛下の視線が徐々に冷たくなっていく。


「私は、アーリエアンナが出していた身長の希望を2メートルから5センチも削る様に説得しましたのよ。195センチの誰かさんのためを思って。無駄でしたかしら?」


「まあ、よく考えろ。俺はアーリエアンナ嬢との関係を変える良い機会だと思うぞ」


 俺に甘い国王陛下だが、どうやら助けてはくれないらしい。



「身長195センチ以上、体重110kg以上、ウエスト90センチ以上、握力100以上、 短髪、顔面強面系、上腕二頭筋が盛り上がっていること。筋肉ムキムキかつ肉付きが良いタイプなら尚よし。細マッチョ不可。笑顔重視、高圧的な性格不可、低会話能力不可、中毒患者不可、清潔感なし不可、食事に興味がない人不可、ワンコ系歓迎、38歳以下」


 何度読み返しても、頭に浮かぶのは俺ではない男だ。


 俺は身長しかクリアしていない。それも王妃陛下の温情でだ。


 そいつの姿は、子供の頃にアーリエアンナが絵にしていたので、知っている。


「ギルドマスター」とか言う名前の男だ。俺じゃない。


 王妃陛下は「存在自体」をご存知ない様だが、アーリエアンナはこの男がどこにいるのか知っているんじゃないかと思う。


「ギルドマスター」は平民なのだろう。年齢は条件の上限の38歳な可能性が高い。


 くそっ!ムキムキのオヤジにアーリエアンナを盗られるなんて、冗談じゃない!


 先に、抹殺しておくか?どこにいるか、アーリエアンナから聞き出さねば!



 そんなことを考えていたのがバレたのか、王妃陛下から、アーリエアンナとの接近禁止命令が出てしまった。破れば、例えアーリエアンナと両思いになろうとも、婚姻の許可は出さないと。



「ギルドマスター」め!

 命拾いしたな!

 でも、いつか見つけてやるからな!覚悟しておけ!



「それで、リードル。お前、覚悟はできたか?」

「……」


 先に覚悟を決めねばならないのは、俺らしい。

 覚悟だけで、ムキムキになれるなら、苦労しないのだが。

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