20 みんなの目が死んでしまうお店
昼食後、近辺にあった数軒の古着屋巡りを満喫した後、先にお土産を買っておきましょうと、【アタラッシ】という、新規オープンしたばかりだという焼き菓子の店に向かった姉弟。
場所は、自家経営の【カフェ ボルドガボルド】から目と鼻の先、真横ではないが、目視で十分見える距離だ。ライバルになるうる近さに、少し警戒度を上げるアーリエアンナ。姉のリサーチという名の敵情観察に同行できるレーリスは嬉しげだ。
本日は買い物の予定がないため、店の前を通り過ぎるだけだった【カフェ ボルドガボルド】には、もうすぐオープン時間を迎えるカフェの席への案内待ちなのか、店内で買い物するだけなのかは不明であるが、十数人の客による行列が出来ていたが、【アタラッシ】には、2名程の客が店前で、立ち話しているだけだった。彼女達の手には購入した商品らしきものがあるので、並んでいるのではないようだ。
ド派手な看板を掲げた【アタラッシ】は、行列せずとも良い程広い店で、店内に客が沢山いるのかと思えば、壁沿いの棚と入り口の倍幅のカウンターがあるのみで、持ち帰り専門店のように、コンパクトな作りだった。看板は派手なのに、店内装飾はシンプル、素朴、というか、塗り加工もされていない棒と板で構成されているというか。非常にチグハグな印象だ。
カウンターの奥の壁に並ぶフックには、平べったい穴あきパン、エショーデが大量に引っ掛けられている。蜂蜜がけ、塩がけ、プレーンの3種類だ。この世界でお馴染みのおやつ兼軽食である。地球にある、プレッツェルの元祖に近いが、アーリエアンナの記憶にはない。
店内の左右の棚には、果物のジャムが3種類程。同じものをひたすら並べたような印象だ。ただ、ラベルは看板と同じ傾向の派手さだった。店の奥を含めても3人しかいなさそうな店員の衣服は、シンプルな私服らしきワンピースの上に超フリフリなピンク色の制服エプロン、髪に同様の色とデザインのリボン。ピンクのフリフリが全員に似合っているかどうかはノーコメントで。
正直、この店の“売り”がわからない。
新規開店から数日の筈なのに、目新しさを求める行列客もない。売っているのは数百年前からある穴あきパン。味の進化もなさそうに見える。見た目上は。
何故、この品揃えで店を出そうとしたのか?
考えてもわからない。
信じられないほど美味しいエショーデと感激するほど美味なジャムなので、食べたらびっくりとか?
それしかないような気がするが、店員と客の目が死んでいるのが気になる。非常に気になる。
ジャムをひとつ手に取り、中身を光に透かしてみた後、ラベルを眺めた。
「……ああ……」
謎は解けた。前世風に言えば、秒で解けた。
アーリエアンナ、大ショックぅ!
「ね。姉様?」
姉の目が突然死んだので、レーリスが動揺して呼びかけてきた。
返事はせず、ジャム3種を手に取った、アーリエアンナは、覇気のない声で、店員に声をかける。
「これと、壁のエショーデを各1個づつ、お願い」
テキパキとそれらを紙に巻いて包んでくれた店員に、パンとジャムの代金としては少し高い金額を払うと、空気を読んで無言になった弟を連れ、アーリエアンナは店の外に出た。
パカパカ、トボトボ。
店から遠ざかる、馬とアーリエアンナの歩みは遅い。
同じように歩きながら、姉をチラチラ見るレーリス。
そのまま、【アタラッシ】の見えない位置まで歩いたところで、アーリエアンナは呟いた。
「あのお店、ピンクアータ様のお店みたい」
「……ああ……」
レーリスも、謎が解けた。アーリエアンナの前世風に言えば、秒で解けた。
大ショックぅ!ではないけれど、脱力し、目が死んだ。
服屋さんに寄るのを忘れていました!最初の方にこっそり書き足しました。←