14 私が育てましたのよ
「あああ!凄く、凄く、格好良いです!!」
ロングソードのある方向に向かうと宣言してから、歩くこと数時間。
道中、朝ごはんとして、お気に入りの屋台で、ソーセージやフレッシュ果汁を食べたり飲んだり、レーリスが露天の古道具屋で古ぼけた方位磁石を衝動買いしたり。
露天のある通りに入った2人は、早々に馬から降り、のんびり徒歩で馬を引きながら平民の家や商店が並ぶ街並みを楽しみ、昼過ぎに漸く、【ロングソード】のある通りに到着した。
【オーダーメイド武器の店 ロングソード】と書かれた看板に感涙し、男心を擽る渋い店構えに身悶え、通りに面した大きなウィンドウに飾られた、3つの大剣と、2つの大弓、そして1つの大きくて立派な盾など、国内で使用されたことなど一度もなさそうな、実用的とは言えない武具をみては、感動に打ち震えるレーリス。
今は、ウィンドウに張り付いて、なんとか店の中を覗き込もうと頑張っているところだ。(笑)
「中、見えた?もう良い?」
「うーん、もうちょっと、もうちょっとだけ、待って下さい。この隙間からなら、少しは見えるかも!」
ウィンドウ飾りの背後には無骨なデザインの衝立があるので、店舗の中を覗こうとすれば、端にある隙間から覗き込むしかない。
粘り強く、チャレンジし続ける弟のまだ細っそりとした背中を眺めながら、大きくなったなと、母親の様な感想を抱く姉、アーリエアンナである。
貴族の成人女性は忙しいために、子供は3歳までは普段乳母に世話される。4歳になれば、(政敵はいないので対変質者の)護衛も兼ねた家庭教師がつき、幼くともあまり人に甘えられる環境ではなくなる。
5歳の頃に自身の中に、前世の記憶が薄っすらあることを理解、把握したアーリエアンナは、ほんの僅かではあるが、年齢より大人になった。だから、大きな屋敷の中にいつでも会えるただ1人の身内である幼児を、庇護対象として認識し、それはもう可愛がった。
乳児期の抱っこはこの国でも当たり前だが、幼児になれば、背中をさすられたり乳母にピタッとくっついて甘えることはあっても、抱き上げてあやしたりもらえる機会はグッと減る。
たまに遭遇する身内の男に抱え上げてもらったり、母親や祖母に頭を撫でてもらうことはあるが、ベタベタイチャイチャすることはほとんどない。平民だと、働く母親が背負う赤ん坊以外は、母のスカートを握りしめるのが子供の甘えの仕草だと言われているぐらいだ。
だけど、薄っすらでも前世の記憶があるアーリエアンナは、小さな弟レーリスを頻繁に抱き上げた。自身のまだ小さな膝にのせ、紅葉の手で撫でて、褒めて、桃色の唇で頭や頬にキスして。
寝る前にはハチミツのように甘くて可愛い声で、絵本を読み聞かせたし、料理人に弟に食べさせたいおやつをリクエストし、時にあーんで食べさせたりもしていた。
あまりに可愛いすぎるその情景に、やめさせようと注意する家族も、家庭教師も、使用人もいなかったという。