13 少年の夢と優しい姉心
説明が長くなってしまったが、今回、野営や籠城趣味のないアーリエアンナが向かう場所は、当然ながら、人のいる場所、王都内であるので、本来は身を守る武器やらの装備も、同行する弟が抱いている冒険への期待も必要ない。
上司や父と兄に知られたくないので、コソコソしているだけである。
平民の様な格好で移動しているのは、冒険者気分を楽しむためであり、「ああ〜!姫様がめっちゃ買い食いしてるぞ!」とか、串肉に齧り付いている時に注目されないためである。
まあ、“女性である”アーリエアンナは王都の街に日常的に通っているし、美しすぎる見た目と綺麗な姿勢、所作からして、平民からすれば、「貴族のお姫様だ!」「ボーボルド家の姫様が、また来てるなぁ」とか、「アーリエアンナ様は、両手に肉持ってるのが嘘みたいに、綺麗なお姫様だなぁ」と、完璧に身バレしているのだが、幸は不幸かそれは平民に擬態しているつもりのご本人には伝わっていない。
“女性である”アーリエアンナに比べると、王都の街中に降りる機会が少ないレーリスは、姉が漂わせている冒険者の雰囲気に酔っているので、これから楽しい冒険旅に出る気満々だ。
実際には、広さ自慢しかできない国での、どんな場所に向かうにもそこそこある移動距離はともかくとして、自分の家がある貴族街から平民街に向かうだけなのであるが。現実は夢見る少年に厳しいのである。
「姉様、姉様、門を越えましたね!これからどこに向かうのですか?」
冒険を前にワクワクが止まらない!といった様子な弟の満面の笑みに、少しばかり良心がうづくが、まだもうしばらくは楽しませてあげようと、優しい姉心で、アーリエアンナは応える。
「まずは、貴方の憧れ、ロングソードのある方へ向かうわ」
ロングソードとは、ボーボルド家の成人男性達、御用達の「イケてる武器」店の名前である。
「本当ですか!?兄様達が通っているお店に僕も入れるのですか?」
「会員制のお店だし、年齢制限があるから、お店の中には入れないわね」
姉の返事に喜びを爆発させたばかりのレーリスの眉が下がる。
「そうですが……入ってみたかったです」
可哀想だがそこは仕方がないし、“女性である”アーリエアンナとしても、ルール厳守は譲れないポイントだ。まだ会員になれないレーリスには是非とも成人後にウキウキと会員登録に挑んで欲しいと思う。
「人気のウィンドウ飾りは外から見れるわよ?今週もカッコ良い品が飾って……ある、らしいわ」
「!!それは楽しみです!窓から、少しぐらい中を覗けるしれませんし!」
「そうね、少しは見えるかもしれないわね」
ニコニコと笑う、可愛い弟に、アーリエアンナは、慈愛のこもった眼差しで応えたのである。