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12 少年少女は旅に出る

 爽やかな朝の時間。ボーボルド家の屋敷から、2頭の馬がパカパカと軽やかにひづめを鳴らし、その背に乗せた少年少女を運んでいく。


 ちなみに、ボーボルド家の敷地内に、門はない。


 王城を囲う高い城壁の4箇所にある門から続く道の両側には、王城を囲むようにして存在する王立の果樹園と植物研究所の敷地があり、緑豊かなそこを抜けると、上位貴族の屋敷が並ぶエリアに入る。


 各家の屋敷の位置は自家が担当する地域の方角にあり、貴族街と呼ばれるそこの外側に向かって親族達が住む、本家に比べ規模の小さくなった家屋敷群が広がっている。更に進めば、王城から円形に広がるその街を守るには心許ない、高身長な男性の頭の高さの程の木製の柵が見え、林檎と柑橘の木がまばらに植えられた牧場エリアとなる。その広大な敷地には牧草地や数種の野菜畑といった馬のための食糧確保のエリアや、世話をする人間達のための住居や仕事用の建物まである。


 そこを越えれば、先程より太い木材を使用した塀の向こうにやっと平民が住む王都の街が見えてくる。王都の街に入るためには、そこそこ立派な門から出入り必要がなるが、門を塞ぐ扉はなく、警備する人間もいない。


 流石に王城と王都の外側にある城壁に付属する大門には兵士が立っているが、この国の王城内のあちこちで警戒警備するような兵士は見当たらない。王や王妃には護衛を兼ねた側仕えがついているし、幼い王子や王女には護衛を兼ねた教育係がつくが、それ以外の貴族には大人にも子供にも、日常生活において物々しい護衛を従えることはまずない。


 この国のこの王都まで、攻め入ろうとする他の国など、この世界には存在しない。遠路はるばる、ほぼ戦う相手に出会うことなく、広大な土地を進んできても、国に持ち帰れる様な貴重で長持ちする食材はなく、莫大な遠征費を賄えるほどのお宝も奪えないことがわかっているのだから、国同士の戦争など起こり得ないのだ。


 遥か遠くの国の事情までは分からぬが、少なくともこの国の周囲にある、数カ国の王都は、噂すら届かぬほどに遠いことがわかっている。長い歴史の中、信書が届いたことはある。どうやら共通しているらしい、暦や言語のおかげで、わかったことは、信書に書いてある名前の国と王が存在していることや、手紙を出した時点でのその国の悩み事などである。飢饉で困っているだの、政略結婚が可能な年頃の姫や王子がいるだのということぐらいである。


 信書を携えて来ただろう者たちは、他国の王都に辿り着くどころか、もっと前の時点で力つき儚くなってしまうので、その前にたまたま出会った者や、荷物を拾った者の好意で、ゆっくりゆっくり届けられた信書が王の手に渡る頃には、短くて3年、長ければ10年経っていたりする。


 そこから返事を出し、それが届いた頃には、相手の事情は変わっている。まあ、返事を出す側としては、それを予想できてしまうので、返信の内容は、自己紹介と、お互い頑張りましょうという、その程度の薄い内容になってしまうのだが。


 兎にも角にも、数百年かけて、自己紹介だけは済ませることができたというのが、この世界の外交レベルである。


 それ以上と言えば、国境沿いにある街や村を商人達が行き来することがあるかもしれない程度であり、国対国のお付き合いなど、今の時代には、話題にのぼることすら皆無となっている。


 そんなこんなで、広い自国内を旅するとすれば、警戒すべきは、ほぼ出会わない盗賊と、もしかしているかもしれない変態、野性の“美味しくない”動物との遭遇、馬と人間の食糧と水がなくなることと、道に迷うことである。


 え?城壁の存在価値?


 ……盗賊対策や、肉食動物の群れから守るためだろうか。


 盗賊。


 王都にいる人間であれば、ストレス解消になると、嬉々として盗賊の相手をしそうだ。


 肉食動物の群れ。


 動物の群れが来てくれれば、肉が届いたと歓喜しそう……


 なので、やってきたそれらを逃さないため。かもしれない。きっとそう。


 先人の知恵だ。退屈と食糧難は怖いですからね。はい、納得。

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