10 鬼畜上司と王族達の憂鬱 後編
少し、修正。邪魔な男達の僻地任務の内容を変更しました。
田舎の領土を治める下位貴族は領土を守る土着民として一生そこで暮らし、年一回、護衛が大勢ついてくる国の税務官が回ってきた時には、おまけのように領地開発に活かせる知識なども受け取る。
噂として、既に過去の話となったような周辺のニュースを含む重大なお知らせがゆっくりのんびり届くこともあるが、読み書きができない人間が間に入りまくるので、届いた時には、理解不能で摩訶不思議な物語のようになっていることがほとんどだ。
国民と為政者の距離感がとんでもない、一体感がある意味皆無な国である。それでも、王家とその親族たる公爵家、その配下たる侯爵家と一部の伯爵家は、管理者として、激務をこなしている。
それが王都に城と屋敷を構える……自虐で「我ら高貴な奴隷」と名乗る彼らの日常なのだ。
必ず男児の第一子である長男を後継とすべしという法律も、できる限り、後継問題でのお家騒動をなくし、一族で上手く仕事を回してもらう体制を作ってもらいたいと、当時の王が決めたものだった。
まだ国としての規模も小さく、領主達は皆、未開拓の森や山に手を伸ばし、田畑を広げている最中には、政治の手腕がどうのなど考える暇もなく、全国民が肉体労働していたような状況だった。
まさか、開拓から維持に仕事が移った後世にボンクラ嫡男問題が勃発するなど、当時の王は想像もできなかったに違いない。
まあ、近年問題になっても、法律を改正しなかったのは、彼らは今でも産めよ増やせよで親族倍増で、仕事が楽になることを願い続けていたからだったりするので……
そこは彼らも反省している。主に王族達が。
ストレスが限界に達すると、人間は壊れるらしい。
そんなわけで、この国の政治を担当する王族とその親族たる公爵家はともかくとして、侯爵家以下は、それなりに壊れていた。
そう。愉快に可笑しくなっているのは、アーリエリアンナの実家であるボーボルド家だけじゃなかったのだ。
王族のストレスの原因は、広い領土に散らばっているだけでなく、近しい仲間にも齎されてる。仕事中のため息は、今こなしている仕事量のせいだけではなかった。
なので、アーリエリアンナにこっそり鬼畜呼ばわりされている彼女の“元”婚約者のため息は、年季が入っている。もうため息のスペシャリストと呼べるぐらいに、はぁはぁ言ってるのだ。
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
愛しのアーリエリアンナに癒しを求めてしまう王弟で公爵であるリードルは、アーリエリアンナに変態と思われたくないので、彼女の前ではできる限りキリッと振る舞っている。
自分の姿形は良いらしいから、格好良い、素敵とウットリしてほしいし、頬を染めて見上げてほしいが、そんな体験は皆無。
イチャイチャしてくれる気配が全くないし、避けられてるような気配だけは濃厚。
婚約前の子供の頃、会いたくなって屋敷を訪ねたら、バケモノを見たかのように泣き叫ばれたのはトラウマだ。
でも、好きなのだ。少し変わっているけれど、世界一綺麗で可愛い、アーリエリアンナが。
嫌われていても逃すまいと婚約を強行し、アーリエリアンナが格好良い、素敵とウットリ頬を染めて見ていた男どもは、職場として不人気な「道の管理任務」に期間未定でつかせた。
まだまだ王都から5日程度の場所までしか完成していないが、数十年かけて、やっと通りやすい馬車道が王都を中心に4方向に伸ばせたのだ。その工事の管理任務という、危険は少ないが圧倒的に退屈な任務に任命されたのが、アーリエリアンナ一押しな強面筋肉ムキムキな男性達であった。
その横暴とも言える命令のせいで、自分好みの男を酷い目に遭わす鬼畜だと、アーリエリアンナに思われているのだが、リードルとしては、アーリエリアンナと相思相愛になり、イチャイチャ……自分にはできなそうなことを、簡単に実現しそうな、自分より賢い格好良いと思えない、大きな熊男共の排除に後悔はない。
少しでも一緒にいたいとアーリエリアンナを部下にしたのに、先日の作戦では、囮捜査という危険な任務で、余裕で自衛できる高位貴族令嬢が他にはいないという理由で、婚約破棄する羽目になってしまったことには非常に、大変、後悔しているが。
「はぁ……アーリエリアンナに会いたい」
危険な任務につかせてしまったから、休暇を取らせたが……私も一緒に取って、婚約の結び直しとか、デートとかした方が良かったんじゃないか?
「あんなに危険なことをさせるなんて、リードルは私のことなんて愛してないのね!」
頭の中で、アーリエリアンナがリードルを詰る。
「いや、愛してるよ!君だけを!」
そうアーリエリアンナに伝えたいが、残念ながら、リードルはまだ仕事中。
「くっ!こ、これが終わったらっ!明日!いや、明後日!いやっ……い、5日後には!!」
なんとか仕事を終わらせ、愛するアーリエリアンナを他の男に奪われる前に、愛を伝えに行きたいリードルであった。