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狐憑娘と無能侍の結婚  作者: イコ
9/15

雪の嫁入り

 春から、夏に変わろうとしている蒸し暑さを感じる雨模様が、ガラリと雪景色に変わっていく光景は、あまりにも不思議なことでありました。

 

 私は冬用の衣装を引っ張り出して、花嫁様を迎える準備をいたします。


 このような時ですが、私は寒さに強い我が顔がありがたいと思いました。


 叢雲家の嫁として、参列者として座っていても誰も私を咎めることはありません。女中の方々も私を見ても怖がる方はいなくなり、不思議に思うことも無くなりました。

 叢雲家の人々に受け入れられたようで、私としてはとても嬉しいと感じています。

 

 小さな幸せを感じて雪女さんもそうなって欲しいと思っております。


「おお! 来たぞ」


 真夏というのに、外は真っ白な世界に変わっており。

 白装束に身を包んだ一団が、屋敷に入ってこられました。


雪女ユキメ一族。真冬マフユにございます」


 白無垢を着た美しい少女は、真っ白な肌に銀色の髪。

 同い歳と聞いていましたが、とても美しい女性に目を奪われてしまいます。


「叢雲家、次男、幸次郎コウジロウだ」


 誠一郎様は、お父様に似て快活な笑みを作る方でした。

 次男の幸次郎様は寡黙で、笑顔を作ることなく棘があるように見えてしまいます。


「あれは、緊張しているな」

「えっ?」

「幸次郎は優しいやつでな。私が長男のくせに無能であることに対して、幸次郎は異能に目覚めて異能侍をしてくれている。それなのに文句を言うことなく当主は私だと主張してくれているのだ」


 兄弟仲が良いのですね。

 私はダメですね。

 見た目の雰囲気で、幸次郎さんを判断しておりました。

 

「よくぞ参られた! 我、叢雲家の嫁が増えて喜ばしいことだ」


 義父さんの言葉で、雰囲気は一気に明るくなっていく。

 やはりお父様は凄い方です。


「こんなものは茶番です」


 真冬さんが義父様の声を遮りました。

 辺りの温度が一気に下がっていきました。


「ごめんなさい。叢雲家の方々。私は、あなたがたを滅ぼすために来ました」


 真冬さんは、妖力を解放して部屋の中に吹雪が吹き荒れ始めました。


「これは! 燿子。こちらへ」

「えっ! えっ? 大丈夫なんですか?」

「ああ。大丈夫だ。気にしなくてもいい」

「えっ?」


 私は誠一郎様と外へ出ました。


 外には真冬さんを連れてきた一団がおり。

 全員が白い着物に身を包んだ女性ばかりです。


「誰も逃さへんよ」

「すまないが、君たちの結婚を夏にさせてもらったことを理解して欲しい」

「誠一郎様?」


 私は誠一郎様に抱き抱えられて、雪女さんたちに囲まれました。


「がはははははははハハハハハはは!!!!!」


 そんな私たちの元へ義父様がやってこられました。


「良き良き! このような宴もありじゃ! 喧嘩祭りじゃな」

「くっ! 叢雲の当主殿だな。あなただけは!」

「おう、燿子殿。これは一芸じゃ」


 義父様は、刀を抜き放ちました。

 その瞬間時が止まったように見えました。


「なっ!」


 雪女さんたちは義父様が刀を抜いた瞬間に全員倒れてしまいました。


「ガハハハ。楽しいのう。このような家族の形もアリじゃな」

「父上、私の分も残して頂かなければ、祭りになりません」

「ガハハハ。それは悪いことをしたな。ほれ、息の良いのが残っておるぞ」


 一体の雪女さんが、立ち上がって異能を使おうとされます。


「誠一郎様?」

「燿子、私は弱い。だが、勘違いしないでほしい。この程度の妖怪崩れならば、私でも切れるのだ」


 旦那様の妖刀が、吹き荒れる吹雪を巻き付けて受け流してしまう。


「なっ!」

「斬! 安心されよ。家族になる者のご家族を切るつもりはござらん」


 誠一郎様が戦われる姿は影の妖怪以来でしたが、誠一郎様は弱くなどありません。


「ガハハハ。あいつは自分を無能という。だが、ワシも幸次郎も知っておるのだ。奴は努力する天才じゃ。ああいう奴を人は化け物というじゃと思うぞ」


 確かに、誠一郎様は毎朝剣を振るい。仕事をして、夜遅くまで勉強をされています。その中で私と共に暮らす生活をして、食事の時などは勉強したことを話して、私を楽しませようとしてくれるのです。


「どうじゃ、叢雲の次期当主はすごい奴であろう?」

「はい。義父様」

「くくく、可愛い子に父と呼ばれるのは嬉しいものじゃ」

「あっ、あの。どうして皆様は私に優しくしてくださるのですか?」

「うん? 異なことを聞くのじゃな。そんなもの家族だからに決まっておろう」

「えっ? それだけ?」

「十分じゃ。この世界、魑魅魍魎が跋扈しておるのじゃ。家族を信じないで何を信じる。家族に裏切られて、死ぬなら本望。そして、家族となるなら、これぐらい相手の力量を見定めようと思うのもまた、道理」


 義父様に言われて、相手の家族がなぜこのような暴挙に出たのかわかりました。


 私は父上に守られてきた。


 それと同じなんだ。


 真冬さんを守ってきた雪女さんたちは、真冬さんを守れる家族なのか試しておられるのだ。


「わっ、私も」

「いいや。それはダメだ」

「どうしてでしょうか?」

「燿子殿は力を制御できておらぬ。今の燿子殿が力を使えば、雪女が全員死んでしまうでな」

「あっ!」

「くくく、強くなられよ。誠一郎と共に。幸せを、強さを、共に手に入れる環境はワシが整えよう」


 義父様の言葉は暖かく。

 それは父上と同じような大きな背中をされておりました。


「さて、花婿と花嫁の登場だ!」


 義父様の声に従って屋敷の庭を見れば、幸次郎様と真冬様が現れました。


 互いに無表情で、寡黙な様子にどちらも声を発しておりません。

 ですが、霊力と妖力。

 力は違いますが、光り輝くお二人はとてもお綺麗でした。

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