事情聴取 1
3日後、俺は協会から呼び出しを受け、東京を訪れていた。
修学旅行以来の圧巻のビル群に気圧されながら協会本部に入ると、すぐに会議室のようなとこに通された。
今日の服装はサングラスにキャップ、スタジャン、ジーパン。どこの不良崩れかと思ったけど、お袋の趣味だから仕方ない。スーツとかで来ようと思ったんだが、既製品だとサイズがないってんで諦めた。
会議室には、十数人の探索者と思しき人たちがいた。首から下げている名前を見るに、どうやらみんな配信者らしい。中には登録者700万人超えの超大物配信者もいて、恐れ多すぎてなんとなく自分の名前を隠した。
隅に恐る恐る座って、何か指示があるのを待つ。
しばらくすると、会議室にスーツの協会職員が3人入室した。いよいよ何かが始まるらしい。
職員の中でも一際存在感のある男が、なにやらキョロキョロと会議室を見渡してから、俺の方を見た。
目が合う。これはあれだ、何もやらかした記憶がないのに担任と目があって気まずくなるやつ。
何を確認したかったのかわからないが、俺の姿を見て小さく首肯する。
何もやってないのに存在を確認された……。
「お集まりいただき、ありがとうございます。私は管理協会日本支部長秘書の笹木部夕雅と申します」
笹木部夕雅……聞いたことがある。元探索者で、足を悪くして引退してから現在の日本支部長に拾われ、第一秘書になった優秀な男、というのを、以前ニュースで見たことがある気がする。
「この会議室に集められた方々は、探索者として動画アプリ、サイトで配信をする方達であり、かつ3日前にダンジョンで起きた騒動をカメラに捉えた方々です」
予想通り。
俺はもちろんのこと、一番前に座っている女性配信者は、アッシュントと戦闘を始めたところを捉えた人だ。俺が自分の配信中に見た人でもある。
「本日は、その時の状況について詳しくお聞きしたいと思っています。配信をされている際のユーザー名……つまり今首から下げていただいているお名前でお呼びいたします。名前を呼ばれましたら、職員も同行いたしますがこの会議室を出まして右の部屋までお願いいたします」
つまり事情聴取ってことか。
ボスがボス部屋の外へ出る。前代未聞の事態なのには間違いない。世界中で報告されているらしく、3日経った今でもニュースはその話で持ちきりだ。
「呼ばれるまではこちらの会議室で自由にしていただいて構いません。お手洗いなどは会議室を出て左をずっと行ったところにありますが、行かれる際には一言職員までお願いいたします。協会施設内での配信などはNGとなっておりますのでご了承ください」
そうまとめると、笹木部秘書はひとつ礼をしてから、真面目そうな顔を崩さないままに、やはり足を少し引きずって会議室を出て行った。
会議室に残ったのは、俺たち配信者と、3人の職員のうち1人。
何分かすれば、1人目の名前が呼ばれて、会議室を出て行った。
どうやら長くなりそうだ。
俺は暇つぶしに弾頭でも作ろうかと、構築スキルを発動させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
構築スキルを使うのは、単純に節約のためだ。
MPだけは有り余るほどあるから、基本的にはレベル上げのためにもできるだけ使うようにしている。
ただかなりの集中力が必要だから、脳が焼き切れそうになる感覚にたまに襲われるのだけが難点だ。
そうしてひとつずつゆっくり作っていく。
銃を撃つには、もちろん弾が必要だ。ガワの薬莢はまあ、再利用できるししばらく買ってないからいいとして、問題は弾頭と火薬と雷管だ。いや、雷管はまだいい。100個で3,000円いかないので。
火薬は1缶で20,000円以上。弾頭はその時にもよるが、100個入りでだいたい10,000円前後する。
この2つの場合、再利用はできないので当然消耗すれば買わざるを得なくなる。1回ダンジョンに潜っただけで相当数使うから、バカにできない金額だ。
たしか2年目あたりまではそれでも間に合っていた。そもそも、今とは違って狙撃スキルの対象範囲も500m以内だったから、この大きさの実包で間に合っていたし。
ただ、狙撃スキルのレベルが上がっていくにつれて、だんだんと500mじゃ物足りなくなっていった。そしたら当然、銃のスペックも足らなくなるし、実包もデカくなっていく。
既存製品の銃を捨てて、モンスターからドロップした素材で特注の銃を作ってからは元の大きさでもしばらく大丈夫だったが、成長につれてそれも効かなくなっていって。
じゃあ作ってみるか、と思い至ったわけだ。ちなみにいうと薬莢と雷管は、買った方が銃と合うし、作る必要性もないから今でも買っている。
俺の場合は誰に教わったでもなく、ネットでさらっと調べてみたり、買った実包をバラしたりしてみたりしただけだから、プロから見たらクソみたいな出来かも知らんが。
俺の作る弾頭は、どちらかといえば魔力の塊に近く、決して鉛ではない。
ちなみに、俺の作った弾を他のやつの銃で使うこと自体はできるが、対モンスターだと大した威力は期待できないだろう。
特注の銃と構築スキルで俺が作った火薬と弾頭。この2つの条件が合わさって初めて、俺のワンショットキルというマイルールが実現する。
ちなみに俺がインベントリに入れて持ち歩いている武器は、ハンドガンが3種類、アサルトライフルが2種類、スナイパーライフルが3種類、無反動砲が1種類。
全て対モンスター用のため特注だが、ハンドガンと無反動砲以外は、全て同じ弾で撃てるようになっている。
複数種持ち歩く理由としては、単純に壊れた時のためだ。最近はないが、探索者になりたての頃は索敵スキルがなかったために、気付かないうちにモンスターと近づいていて戦闘開始っていうのもあった。普段から下げているハンドガンが壊されても、戦えるように。そういう経験のもとに、こういった装備の仕方になっている。
……まあ、探索者なりたての頃にマジックバッグをドロップしたからこその、この戦い方だが。
とりあえず20個作れたところで、俺は構築スキルを解除した。ずっと使っていると疲れる。
ただ、会議室からはまだ3人減った程度。有名配信者から呼ばれているみたいだから、俺みたいな底辺配信者はまだまだ呼ばれないだろう。
薬莢に雷管でも取り付けるか。
どこでもできるわけじゃないが、こういう机がある場所での暇つぶしができるようにと、クリーニングまで終わらせた薬莢と、新品の雷管は持ち歩いている。
家の隣に建てた俺の工房には、クリーニングとリローディングのための機械が置いてあるが、そんなもの持ち歩けるわけもないので、外でできるのは薬莢に雷管を取り付けるところまで。そのための手持ちサイズの機械が、このハンドプライミングツールだ。
やり方は簡単。
俺のよく買う雷管はケースを開けると、雷管の内側が下になっているタイプのものだ。このタイプなら、ケースをそのままツールの皿にひっくり返せばいいので、楽。
雷管をセットして、その後に薬莢をセット。ぐっと握って、あとは完成。
こういう単調な作業は好きだ。無心でやっていられる。