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ラビット・ミット

 幻の5期生ラビット・ミット。


 日本で今、最も注目を浴びている探索者であることは間違いない。緊張しいでよく噛むのも、この子のルックスと声のよさをもってすれば、それは個性になり、強みになる。


 ラビット・ミットこと、楠木美兎。彼女は、自信を持って送り出せる配信者。……そうやって、ごーわいるどから聞いていたのだが。


「う、うぅ……だ、だめです、なんか、こう、泣けてきました……失敗したら……」


 この子、本当に大丈夫なんだろうか。




 ここはティエルボルダンジョン。陸亀竜と呼ばれるドラゴンがボスだ。


 ティエルボルは亀のような見た目をしているドラゴンで、翼がなく飛行することはできないが高く跳躍することが得意で、背中には大木が生えている。

 注意すべきは、跳躍後の着地。大きく地面を揺らす攻撃は、アッシュントのものよりも遥かに威力が高い。まともに喰らえば、しばらくは立ち上がれないスタン状態に入る。


 ……まあ、こんなことをおさらいしたとて、ボス部屋には入らないから大丈夫なはずだが。あの日以来、ダンジョンに異変は起きていないから、こうやってダンジョンに入れているわけだし。


 このダンジョンの特徴は、ダンジョンに入ってすぐに足がつくほどの浅い海が広がっているというところ。一番近くの陸に上がれば、爬虫類顔のモンスターが襲いかかってくる。


 そして何より。このダンジョンは周囲が()()()()()


 俺のようなスナイパーには不利なダンジョン。奥に行けば岩場が広がっているらしいが、いかんせん俺は攻撃値もHPもゴミ。そこまで1人で行くには、銃があっても心許ない。


 だが、近接担当がいるなら話は別だ。


 序盤は近接に護衛されながら岩場まで行く。あとは俺がひたすら狙撃すれば、近接は好きに行動できる。


 そうなってくると、心配なのはレベル上げに必要な経験値だが……大手事務所ともなると、やはりいい物を持っている。


 パーティバングル。俗称として、EXPバングルとも呼ばれるこのアイテムは、装備して同じチャンネルに繋ぐことで、どちらがモンスターを倒してもお互いに経験値が入るというものだ。


 ドロップ率が低く、オークションなどで出回っているものの、かなり高額で取引されている。俺のようなフリーの探索者じゃお目にかかれないものだ。……まあ、俺は基本ソロだから必要ないが。


「よ、よ、よろしくお願いします鐡本さん……」


「……一応、配信中はそれで呼ばないでくれよ」


「あ、はい! もちろん! おじさんと呼ばせていただきます!」


 ……わかっている、俺がスナイプおじなんて名前にしたのが悪いし。この子も成人しているとはいえ、俺とはひと回りも年が違うから、おじさんでもおかしくはない。うん、おかしくない。


 ため息を思わず漏らしながら、黒いスカーフで口元を隠してキャップを深く被り直す。別に身バレは怖くはない。怖くはないが、俺の顔は濃いから覚えられて絡まれても困る。

 隠せるところは極力隠した方が、普段の活動にも響かないだろう。


「極力俺の顔は映らないようにはしてほしいが……」

 

「自分のことで精一杯になると思います……!」


「だろうな。だから、余裕があればでいい。始まってみたら案外大丈夫かもしれないしな」


「が、頑張ります!」


「じゃあ、回すぞ」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






“はじまったー!”

“ラビちゃーん!”

“デビューおめでとう!”

“まってたー!”


 コメントは……上々。大手のデビューはこんなに人が集まるのか……無駄に緊張してきたな。


「わ、わ……!」


「……落ち着け」


「ひゃ、ひゃい……」


 こっちは本当にダメそうだな……落ち着くまでここで話していた方が良さそうか。


 俺の役目は、大きく分けてふたつ。


 ラビット・ミットが探索中に危険な目に遭わないように援護するのと……彼女の精神面でのフォロー。


 ダメそうであれば、俺の一存で配信を止めていいことになっている。


“コラボ相手さんまったく知らんけど声は良い”

“男の人かー”

“ラビちゃんがんばれ!!”

“今日はティエルボルダンジョンなんだよね?”


「あ、あう……」


 混乱してるな……仕方ない。


「ここはティエルボルダンジョン。通称・陸亀竜がボスのダンジョンだ。今日の配信は2時間の予定だが、この通り彼女がどうも緊張しているようで、ダメそうなら俺の一存で中止していいことになっている」


「……!」


“止めちゃうの?”

“まじか”

“がんばってくれラビちゃん”


「あまりひどい状態でやっても、死の危険もあるから理解してくれ」


“あーそっか”

“確かにそうだわ”

“無理しないで”

“初手10分で止まっても大丈夫だよラビちゃん!”

“初めてだから仕方ない!”


「みなさん……」


 楠木の表情を見る。


 ……これなら大丈夫そうだ。


 さっきまでは恐怖に染まっていた彼女の表情に、明るい感情が滲み始める。


「改めて、自己紹介か。俺はスナイプおじっていう名前で配信者をやっている。普段顔出しはしていないので、今日はスカーフで失礼する」


“背でか”

“ラビちゃんちっちゃいだけ?”


「あっ……えっと、私は、多分160はあります……?」


「……大人になるとしばらく計らないんでな」


“おっじがんばれ”

“おっじwwwww”

“おじ頑張ってるな”

“ラビちゃんよかったなあ”


「あ……おじさんのリスナーさんですよ」


「名前覚えてるのか?」


「少ないですし……」


 ……まあ、まあ、まあ。別に登録者が全てでもないし。そもそも配信も暇つぶしに過ぎないしな。


「あ、そうだ。えっと、今日スナイプおじさんとコラボするのは、私がお願いしたからです。えっと、私はずっとおじファンで、この間事務所の先輩のおかげで会えたので、お願いして承諾してもらったという形になります」


 おどおどしてるが、最初よりはすらすら話せるようになってきた。どうやら緊張もほぐれてきたらしい。


 この調子で最後まで行けば良いんだけどな……。

第2回毎日更新はここまでです。


ここからまとまった更新に入れないと思うので、書けたらちょこちょこ投稿していきます。よろしくお願いします。

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