ダンジョン
この世界には、ダンジョンっていうファンタジーみたいな代物が存在する。現れたのは約30年前。イタリアの海上で最初に発見されたそれは、銃や砲弾、果てはミサイルなどをもってしても破壊することができなかった。
調査に入った研究者や軍の調査隊は、ダンジョン内で未確認の生物に襲われて全滅。生き残りは誰ひとりとしていなかった。
そんな生物がモンスターと呼ばれ始めたのは、ダンジョンが現れた半年後。何度も調査にトライした国は、やっとのことでダンジョン内部の動画を入手することができたのだ。
謎の生物は、伝承や、身近なものでいうとRPGなどにでてくるモンスターそのもの。
スライム、ゴブリン、コボルト、オーク、トロール……。
フィクションの世界にのみ存在していたはずのそれらが、ダンジョンにはいた。
何度もダンジョンの破壊を試みて、失敗して。それらを繰り返して、ダンジョンが現れて1年経ったある日。
今度はロシアにある山の上に、ダンジョンが現れた。
形は違うものの、国はそれを『ダンジョン』と断定し、調査を始めた。この時、俺は3歳。ダンジョンが、公的にダンジョンと呼ばれ始めたのはこの時らしい。
ロシアにできたダンジョンは、イタリアのダンジョンよりも、いわゆる難易度ってやつが低かった。各国から集まった精鋭たちがダンジョンへ入り、数百人の犠牲を出しながらも、ゲームでいうボス部屋に到達。
――雷鳴が轟くかのような咆哮。目で追うことが愚かに感じるほどの速度での飛行。かろうじて見えるそれは、確かに私たちを見た。
ダンジョンに調査へ赴き生き残った数十人のうち1人が、後にメディアに語った言葉だ。
――ドラゴン。
雷を操るドラゴンが、いたという。
しかし人類の適応ってやつもすごくて、その後数ヶ月で、そのドラゴンを倒すことによりダンジョンは崩壊するという仮説が立てられ、ドラゴン討伐隊が結成された。
世界各国の精鋭中の精鋭。
彼らは科学兵器を駆使して、ダンジョンに入り1か月――ついに、ドラゴンを倒したのだ。
どこからともなく出口が現れ、外に全員が脱出したのち、ダンジョンは徐々に崩壊を始めた。仮説が立証された瞬間だった。
この時点で、始まりのダンジョンが現れて、2年あまり。
今度は、中国でダンジョンが現れた。次はフランス、ドイツ、アメリカ、イギリス、インドやサウジアラビア、カタール、ギリシャなど、様々な国でダンジョンの出現が観測され始める。
そして、ダンジョンというものが人々に認識され始めて5年も経った頃には、途方もない数のダンジョンが存在していた。
時は遡って、ロシアのダンジョンが崩壊した直後。
全人類の目の前に、青い何かが浮かび上がる。
名前、年齢、性別、そしてLv、HP、MPと記された画面。その下に空欄が9つあるステータスウィンドウと呼ばれるそれは、人々を混乱に突き落とした。
まるでゲームの世界にいるような、そうでなければ説明がつかないような事象。俺も、幼いながらに怖くて泣いたのを覚えていた。
しばらくしてわかったのは、そのステータスは他者には見えず、完全に自分にしか見えないものであること。そして、全人類のそのうちの12人のステータスには、スキルと呼ばれるものが記されていたということ。
スキルの種類は、人により様々。最初にスキルを獲得した者たちを原初の12人と呼び、それからはちらほらとスキルを獲得する者たちが増えた。
遠くまでものが見えるようになるスキルや、水中で呼吸ができるようになるスキル、足が速くなるスキル。その中でも注目を集めたのは、剣術を扱えるようになるスキルや、特に魔法が使えるようになるスキルだった。
攻撃のためのスキル。
人知を超えた力を手にした人々を危ぶむのはもちろんのことだった。
1週間。その短時間で世界各国の同意を得て、世界ダンジョン管理協会という組織が設立された。
協会はスキル保持者をほぼ全て把握し、規制を行った。始めは反発もあったそれは、協会長の一言によって徐々におさまっていった。
「協会でスキルの登録を行なった者、および自身の命を守るに足りえる実力を持った者には、ダンジョンへの立ち入りを許可する」
この時点で、ダンジョンの出現から3年。
もうすでに、子供ですら知っていたのだ。ダンジョンに立ち入ることの恩恵を。ダンジョン内に存在するモンスターを倒すことで得られる、恩恵を。
――ドロップ。
あるゲーマーがSNSで、こう発言した。
「もしかしてモンスターを倒すことによって、ドロップアイテムとかがあるんじゃ?」
ドロップとは、ゲームにおいて戦闘に勝利した際に得られるアイテムの通称だ。
政府は何か隠しているんじゃないか、と世論を煽っていたメディアは、その情報でさらに勢い付いて、ついに公式に発表された。
モンスターを倒すことによって、戦利品が獲られることがある、と。
この発表後の、世界ダンジョン管理協会からの声明。
スキル保持者たちはこぞって協会に自身のステータスを登録し、ダンジョンへ立ち入る。最初こそ死傷者が出てメディアが煽りまくっていたが、次々に巨万の富を手にいれるスキル保持者たちに、徐々に反対の声は止み。
協会がダンジョン内でHPが一定量減ると安全な場所へワープする緊急強制帰還装置を、魔法を使って開発したことによって、ダンジョンへ立ち入る者も増えていった。
そうして、スキル保持者たちは剣や銃、時には自身の腕っぷしや、魔法などでモンスターを狩り、ドロップアイテムを売る、という生活を始め、俺が8歳になる頃には彼らは探索者と呼ばれるようになった。
探索者は、今じゃ憧れの職業だった。
本や漫画、アニメの世界でしか見たことがないような戦い、冒険。そして、モンスターと勇敢に戦い、勝利したことで獲られるドロップアイテム。まさに夢のような一攫千金だ。一夜にして、人生逆転もあり得る。
中には危険だと反対する者もまだいたものの、ドロップアイテムによって人々の生活が潤い始めていたのも事実だった。
ドロップアイテムは基本、そのモンスターに関係するものがほとんど。○○の皮だとか、○○の爪だとか。それを使って、生産系スキル保持者の力で武器を作り、またモンスターの狩りに勤しむ。
探索者たちは、危険を冒しながら着実にその地位を高めていった。
――そして、30年。
俺は、探索者を職業としているおっさんだ。
誤字報告ありがとうございますm(._.)m
追記(2023/10/30)
変更です。
名前、年齢、性別、身長、体重、そしてLv、HP、MPと記された画面。
↓
名前、年齢、性別、そしてLv、HP、MPと記された画面。