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短編

鉱石症候群

作者: 緑片とお子

奇病ネタです。


【ジュエルシンドローム(鉱石症候群)】

ある日突然、体の一部が宝石になり、およそ10年ほどで完璧な宝石となってしまう病。


発病原因

長くその種類の宝石を身につけていたり、採掘したりすることでおこると言われている

(ただし、詳しくはまだ不明)



◇◇◇◇◇


あるとき 神さまが にんげん界に あそびにきました。


神さまは にんげんと 恋におちました。

けれど 生きてるにんげんを 天界に つれていくのは だめなことです。

そこで 神さまは まほうをかけた宝石を にんげんにわたしました。


「 これを ずっともっていて。 そうしたら いつかわたしは あなたをむかえに いきます。 」


にんげんは 神さまのいうとおりに いちにちじゅうはなさず なんねんも なんねんも もっていました。


一年ご にんげんのからだに ふしぎなことが おこりました。

ひだりてのこゆびが その宝石に なっていたのです。


すこしずつ すこしずつ 体のいたるところが 宝石に なっていきました。


村の人は にんげんを 神さまへのおくりもの と呼ぶようになりました。


すこしずつ すこしずつ


そして きっかり十年たつと にんげんの体は すっかり宝石に なりました。

とてもうつくしく とてもきれいで だれもがみりょうされました。


「あぁ なんてうつくしい。」


とつぜんふいた風とともに 声がきこえると にんげんの姿はなくなっていました。


◇◇◇◇◇



 24歳の彼女が、今、この瞬間、完全に人間ではなくなった。

 彼女は、鉱石になったのだ。



 『ジュエルシンドローム(鉱石症候群)』。

 全世界中で、地球上の歴史において、彼女はその病を患った五人目の人となった。

 稀有な病気は病状も稀有であり、“長い年月をかけて全身が宝石になる”というものである。



 彼女が発病したのは14歳、中学二年生の夏だった。

 幼稚園の頃からかけっこが得意だった彼女は陸上部に入部し、エースと期待されてい た。倒れたのは大会の前日だった。小さな石が心臓に埋まっていた、らしい。

 解析をしてみるとそれは、彼女が祖母に貰ったお守りの中に入っていた宝石と同じものであった。偶然なのかは分からない。石はまるで心臓の一部のように同化してしまっていて除去する手術は不可能だった。

 普段と変わりない見た目の彼女は定期検査さえ受ければいつもの生活に戻った。



 次に変化が訪れたのは中学三年生の冬。

 受験、頑張ろう。お互いを励ましていた時期。彼女の右手が石になった。病院に鑑定士を呼ぶなんて奇妙なことを経て、それはあの宝石であることが判明する。そこで初めて  『ジュエルシンドローム(鉱石症候群)』かもしれないと診断された。



 彼女は高校に行けない代わりに病院で生活を送ることになった。それでも彼女は自分の前では笑顔だった。

 「高校はどう?」「恋人はできた?」「部活何入ったの。」別の高校に通っているくらいのノリで聞いてきた。だから自分も彼女の優しさに甘えた。このことは後悔してもしきれない。

 どうして彼女の話を聞かなかったのか。

 彼女の気持ちをさらけだしてあげられなかったのか。

 16年程度しか生きてない自分は彼女の人生に目を背けたのだ。




 ある日、彼女は言った。

 「私は生きる芸術品になるの」

 彼女のことは(実名は伏せられていたが)ニュースに取り上げられていた。

 こんな病気がある、世間に周知させるのではなく、単なる話題作りのようだった。彼女が決して言わないようなコメントが捏造されていたのだ。

病院に訪れた理系のお偉いさんが彼女のことを『サンプル』と呼んでいるのも自分は聞いてしまった。

 彼女の人権は、人間として生きる権利は、科学に、世の中に、剥奪されたみたいに感じられた。

 「生きる芸術品」。

 彼女の表情と声を自分は忘れたくない。自分だけでも心に刻んでおかなくてはならないものだと思う。



 自分は横たわった“芸術品”に触れた。

 柔らかかった肌は硬さと滑らかさと独特な光沢を伴う。

 こう思うのはいけないことなのに。


 とても、美しかった。



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