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チェリーナと小さなチェリーナ


その後チェリーナはウォンバールの力で城内に戻る。

3時間ほどで、兵の交代の際に彼がいないことが知られ捜索隊が組まれた。


案の定、兄王子が逃がしたと疑われ、父王から重い罰が下った。


未来から来たチェリーナはとにかくぼろ服では目立つため、洗濯場から少し薄汚れた服を持ってきて着替えた。


端から見ても下働き。


洗濯なんてしてみたら、洗濯下女だと思われ、そのまま仕事を頼まれた。



『ちょっと、この城の人不用心過ぎない?』


ウォンバールの言葉にチェリーナも同意だった。

身元のわからないチェリーナを雇う時点でどうかと思う。


因みに、チェリーナはウォンバールと会話すると変な人と思われてしまうため、“言葉が話せない”設定でいる。


字は妹王女の宿題を手伝わされたので勝手に覚えた。

宿題の内容が間違っていれば折檻されるので、知識もついた。

ある意味、馬鹿な妹のおかげであった。




「チェチェ!あんた、確か字が書けたよね?」


洗濯室のおばさんに聞かれた。

チェリーナは頷く。


因みに、チェリーナは木の実で髪を染め、瞳の色はウォンバールによって隠されている。

周囲からは茶髪の茶目で通っている。


「悪いんだけどさ。買い物に付き合ってほしいんだよ。厨房の奴に頼まれっちゃってさあ」


なぜ厨房の人が買い物に行かないのか首をかしげると、おばさんが答えてくれた。


「ほら。第1王子殿下がやらかしたときに王様を怒らせちゃったろう?その日、たまたまスープの味が少し薄かったんだ。そのせいで王様が激怒なさって、厨房の人間が半数追放されたんだよ。」


チェリーナはなるほど、というように首を上下に振った。


洗濯があらかた終わって厨房のお使いをする。

紙に書かれているものを買うのに、城下の市場に来ていた。


市場は活気づいていたが、身なりのいい人しかいない。


チェリーナがきょろきょろしているとおばさんが耳のそばでこっそりと教えてくれた。


「この間の増税でね。また一つ領地が奪われただろう。そのせいで、各地の商人たちが王様のお眼鏡に適いたいために、王都まで押し寄せたのさ。そのせいで、ここに住んでいた町民たちは他の土地へと追い出されてねえ。」


増税により、一つの領地が破産し国王に返還された。

そのことによって二の舞になりたくない領主たちが、少しでも国王の機嫌を取りたくて商人を操り、王都へと送り込んだ。


王都が栄えれば、国が栄えていると同意。





二人は野菜市場に向かう。

チェリーナは野菜を見て回っているとウォンバールが声をかけてきた。


『この野菜たち腐ってるよ・・・』


危うく声が出そうになったチェリーナ。

咄嗟に両手で口を抑える。


「どうかしたかい?」

おばさんに聞かれ、野菜を指さし、ウォンバールがさして教えてくれるところを特に激しく指す。


白くなっているところや、ふさふさのはずの場所がショボッとなっていたり、本来緑の野菜が赤くなっていたりしている。


そう言えば、この時期食中毒が流行った。

チェリーナは食べさせてもらえなかったのが功を奏しかかることはなかったが。


このせいで多くの命が奪われたはず。

父王のせいで。




魚や肉売り場に行っても同様であった。


本来赤々しいはずの肉も黒みを帯びたり、魚も新鮮さに劣る色合いをしていた。


おばさんもためらうチェリーナを不思議に思い訳を聞いてくれた。

でも、話せない設定なので、城に戻って字を書ける使用人の元へと急いだ。



城につき、まさかの侍従にあわされた。

おばさんとは懇意らしい。


「・・・ということは、野菜も、肉も魚も、全て質が悪いのが、定額よりも増額されて売られているんですね。・・・そういえば、昼で備蓄分が切れたので新しい奴を今晩から使うんです。ついてきてください!!」

侍従に連れられ厨房まで来た。



厨房ではすでに下準備に取り掛かっていた。

近くにある食材を見ると、やはり赤黒い肉や、ハリも艶もない野菜ばかりであった。


侍従は野菜を一つまみ掴んで口に運ぶ。


「料理長。この野菜は使わんほうが良い。肉と魚もだ。新しい食材を手に入れるまで待ってくれ。」


「ああん?何言ってんだ?こちとらすくねえ人数で何とかやってんであ!文句言っている暇あったらよけろ!!」

随分柄の悪い料理長が叫んだ。


「では、この野菜を食べてみろ。」

侍従がそう言って料理長の口に野菜を運ぶ。


「・・・もぐもぐ・・・なんだあこれ・・・むしゃむしゃ・・・」

呟きながら他の野菜も口に入れる。


「・・・全部口の中でざらざらしたり、変な味がするな」


料理長のつぶやきに侍従も頷く。

「ああ。この料理を出して、国王陛下やご側室様方に何かあれば、我々は全員殺される。」


そうなのだ。

この騒ぎで犠牲になったのは、何人もいる国王の側室の一人で妹王女の母でもある側室の流産。そして、それを引き起こした侍従たちと侍女たち、そして厨房の人々だった。


侍従は電光石火のごとく以前の取引相手に融通してもらい新鮮な野菜と肉魚を調達。

料理人たちがせっせと準備している中、国王に報告に行こうとした侍従を止めたチェリーナ。


おばさんからプレゼントされた黒板に字を書いていく。


「えーと・・・“ありのままに報告すると結局侍従たちのせいにされる”・・・ふんふん・・・何々・・・“取引先を、国王に侍っている新興貴族に変えたことで質の悪いものが入ったと話したほうが良い”・・・しかし・・・ん?“明日の朝の朝議で、高位貴族が集まるから、その際に言った方が好意的”・・・君は・・・一体・・・」


侍従のおじさんが少し驚いた様子でチェリーナを見る。


「まさか・・・いや・・・」

ぶつぶつ呟いた後、何かを飲み込んでチェリーナに向き直る。


「ありがとう。事が落ち着いたらお礼をしよう」

そう言ってチェリーナの頭を撫で、老いた侍従はその場を後にした。




チェリーナは先ほどこっそり厨房でくすねた硬いパンをおなかに隠し離棟へ向かった。


この日、小さいチェリーナは妹王女に言われ宿題をこなしていた。

しかし、空腹のあまり集中できず、問題を間違えて提出した王女は激怒してチェリーナを逆さづりにし、なんども井戸水の中に頭を下ろさせた。


この時代に残ってから大人のチェリーナは、ばれない程度に自分の分の食事を1日一回小さいチェリーナに持っていった。


この時代に来てからの大きなチェリーナは、洗濯室のおばさんや仲間たちに優しくされ、折れそうなくらいだった手足も少しずつ肉がついていった。



悔しい、と思う。

自分が“チェリーナ”ではない時。

皆優しくしてくれる。

なのに、“チェリーナ”になったとたん皆が背を向け、蔑み、離れていった。



『人間は弱い。強い人もいるけどね。それは、一握り。みんな弱いから自分よりも弱いものを虐げようとするんだよ。』

ウォンバールが呟いた。




翌朝、侍従はチェリーナに言われた通り、朝議の際に緊急事態と称して侍従長に伝え、国王へと話がいった。


案の定、物価の高騰を狙い、地方の新興貴族たちが王都に押し寄せ、元々いた商家などを追い出した。

知識のないまま農作物を作り、売ったものの、知識がないから質の悪いものが作られ、王都に広まった。


すでに王都にいる貴族たちでは体調を崩しているものもいるそうだ。


激怒した王は新興貴族の長を処罰し、すぐに気付いた王宮の使用人たちに褒美をくれた。

と言っても、給料半月分の賞金だが。





そうして、6年後―-

チェリーナが未来から過去に戻った年齢になった。


相変わらず小さいチェリーナは家族から虐待されていた。

チェチェこと、大きいチェリーナがこっそりおやつや食事を持って行っていた。


会ってはいけないと言われていたので、隠れつつ、気配を消しつつ・・・。


ある日、ウォンバールがチェリーナを離棟近くにある湖に誘った。

『チェチェ。気づいていると思うけど、そろそろあなたが処刑される時期でしょう?』


「ええ。」


『私が言ったこと覚えている?』


「覚えてるわ」



以前、ウォンバールは魔力について説明をしてくれた。


人間には魔力があり、大地の子供たちと契約することで力を使えるそうだ。

しかし、大地の子供たちが見えなければ力を使うことはできない。


現在、大地は子供を産むことを拒否しているそうだ。

それは人々が争いを続け、大地を蹂躙し続けるから。


そしてウォンバールは最後の大地の子の生き残り。

生き残れたのは一番最初に生まれた子だからだそうだ。


彼女の力を手に入れる代わりに、願いがかなったらチェリーナはウォンバールの願いを叶えなくてはならない。

どんな願いでも、拒否することは許されない。






その日の夜、妹王女を殺そうとしたとしてチェリーナが捕まり、裁判にかけられることなく絞首刑が決まった。


チェリーナは自室から窓を眺めていた。

星空が綺麗に輝いている。


自室の扉が叩かれた。


そこに現れたのは洗濯室のおばさんであった。


「大丈夫かい?」

心配そうな表情でチェリーナに話しかける。


チェリーナはわからないふりをする。


「いいんだよ。あんたが話せることも、秘密を持ってることも知ってる。私らには何もできなかったから。助けてあげられなかったから。・・・こんなことくらいしかできないんだ。」


何を言っているの・・・?


「私らは昔の人間さ。だから昔話もしっかりと覚えてるよ。黒い髪に黒い瞳と赤い瞳の持ち主は呪い子でない。大地の愛し子だ。大地が泣く時、現れると言われていた。それがあんた・・・いや、チェリーナ姫だろ。」


おばさんが泣きながら言う。


「私はあんたの母親の乳母だったんだ。あんたは私にとって孫みたいなもんさ。王妃様が王に殺されて私も殺されそうになったけどね。侍従のおかげで何とかさこうして生き残っていられるのさ。祖母の私が、色味が変わっても孫を間違えるはずないだろう」


そう言っておばさんは泣いた。


チェリーナも気づかずに涙を流していた。

優しく抱きしめてくれるおばさんに腕を回す。


これが祖母のぬくもり。

母のぬくもり。

家族のぬくもり。



再びチェリーナの部屋にノックの音が響く。

入ってきたのは侍従。

優しそうな瞳でチェリーナを見る。


「お前に言われた時は半信半疑だったが、茶色の瞳は王妃様を彷彿とさせるな。」


チェリーナを見て呟く。


「その姿の時はチェチェと呼んだほうが良いかな?」

チェリーナは頷く。


「ウォルフという青年が、牢に侵入したよ」


時が来た。






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