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青い瞳の少年と大地の子チェリーナ

「・・・ウォ、ウォンバールさん・・・」


『ウォンバールよ。さんはいらないわ。』


「ウォンバール・・・あなたは・・そ、その・・・人間では・・な、ないですよね?」


『人間のように弱っちい生き物じゃないわ。』


「じゃ、じゃあ、あなたは・・・“何”なんですか?」


『私は“世界の始まり”で“世界の終わり”よ』


「は、始まり・・・で、終わり・・・?」


『私たちは古来より人間を見守ってきたの。昔は私たちのことが見えていたけど、今は見える人間なんてまったくいない。あなただけね。人間が私たちを認識していた時は、波長が合う人間に力を貸したりしていたのよ。今はいないけど・・・。』


「・・・あなたは・・・コビト・・・?」


『コビト?なにそれ?・・・私たちは私たちよ。この大地を守り人間を守る存在。』


「か、かかかか神様?」


『カミサマ?・・・カミ?神ね!違うわ!信仰ではなく、実際ここにいるでしょう?』


チェリーナがまだ何かを聞こうとしたがそれをウォンバールが止めた。


『まだ聞きたいことがあるでしょうけど、まずはあそこで倒れているあなたを助けましょう。』

そこでハッとする。


ウォンバールの存在に驚きすぎて全く忘れていた。


『あなたが私と契約すれば、私を使役して力を代わりに使えるわ。』


「契約?」


『そう。あなたが私に魔力をくれて、私は力を与える。』


「マリョク?・・・ご、ごめんさい・・・あ、その・・・マリョクというものは持っていないの。」


『人間は少なからず持っているものよ。私たちを見れなくなった人間からすれば寝耳に水の力かもしれないわね。』


チェリーナは良くわからないままウォンバールに言われたまま行動する。


両掌を上に向けて目をつぶる。

『私の後について・・・我チェチェ』


「・・・」


『チェチェ!!ついて!!』

ウォンバールの言葉に驚きチェリーナは繰り返す。


『我チェチェ』


「・・・我・・・チェチェ」


『汝全知全能なる大地ウォンバールに』


「な、ナンジ・・ゼンチ、ゼンノウ・・・なる、大地ウォンバールに・・・」


『魔力を与え』


「マリョクを・・・与え」


『力を行使する』


「力を・・・コウシする・・・」


『契約を結ぶ』


「け、契約をムスブ・・・」


その言葉とともにチェリーナ手のひらが光り輝き、透明の球体がチェリーナの目の前に現れた。


『過去を変え未来を手にする。使役の契約年齢は・・・あれ何歳?』

ウォンバールが小さく聞く。


「え・・・たぶん・・・10歳くらいです」


『10歳。契約を完了し、履行せよ』


球体が、意識を失っている幼少期の自分の中に消えて行く。



『・・・ふー。これであなたも魔力を使えるわ。とりあえず、まだ小さいあなたはコントロールできないでしょうから、力の封印をするわね』

そう言って小さい自分の元へ行った。


光に包まれ小さい自分は目を覚ますことなく、すやすやと寝ている。


『次はどうするの?』


「ええと・・・その、よく・・・わかりません」


ウォンバールは苦笑しながらため息をつく。


『じゃあ、まず私の話をするわね』






ウォンバールは大地から生まれた。

他にも仲間がいたが、人間との交流がなくなっていき、大地が蹂躙され始めると、仲間は少しずついなくなっていった。


今ではウォンバールただ一人。


ウォンバールは仲間を探して各地をさまよっていた。

そんな時、仲間と似ているけど少し違う力を感じてこの国に寄った。


力をたどっていくと、意識を失って倒れる少女がいた。

それがチェリーナだった。


彼女にそっくりの少し大きい人間が茂みにいて、よく見て見ると、“大地の愛し子”と同じオッドアイだった。


チェリーナを残された仲間だと判断したウォンバールは彼女に力を与えたのだった。





『では、チェチェ。あなたは未来を変えるために来たのよね。どういう風に未来を変える?』


ウォンバールとチェリーナは向かい合って座っていた。

小さいチェリーナは寝息を立てながら寝ている。


ウィンバールの言葉に思案する。


父である国王は手腕は素晴らしい。

だが、残忍で冷酷。

強きものは重宝するが、弱きものは捨ておく。

そんな人物である。


チェリーナは思う。


弱くても人間。

生きる理由を奪う権利は誰にもない。


それに、私は知っている。

食事を作るのは料理人だが、食材を作るのは“弱き者”。

服を作ったり、選択してくれるのも“弱き者”。


王族や貴族に仕えてくれているのが“弱き者”なのだ。


それを、王族や貴族が自分の覇権や欲のために虐げてよいものだろうか。


では、身分はどうしてあるのか。


どうしてもなくはならないのか。


身分制度で良かったと思えるのか?

私が・・・農民だったら・・・ただの使用人だったら・・・



「・・・よくわかりません。でも・・・あの男だけは国王ではいけない。あの子供たちも。」


そして、先ほど小さい自分を足で小突いた少年を思い出した。


彼はメロニア王国の王子で、人質となっている。

しかし1年後、メロニア王国は父によって滅亡される。

ただ一人生き残った彼は、さらし首にされ殺された。



チェリーナは顔を上げる。

彼女の目を見てウォンバールもまた、彼女が何かを思いついたことに気付く。


「父によって滅ぼされる国があります。その国の王子がどのような方かをみて、協力を仰いでみます。」



荒唐無稽な話。

信じてもらえないかもしれない。


けれど、彼の瞳を見た時、何故か冷たさと厳しさに情を感じたのだ。

あの青い瞳。




チェリーナとウォンバールは彼のいるところまで向かう。


彼はチェリーナが住んでいた離棟の西側にある森林の中にある小屋に軟禁されていた。

出入り口には監視の兵が立てられている。


どうやって抜け出したのか。


チェリーナがどうやって彼に声をかけに行こうかと思っているとき、ウォンバールに肩を叩かれた。


『あそこ見て。』

ウォンバールがさした方向には土と枯れ葉しかない。

しかし、よく目を凝らして見て見ると、土の部分が不自然に見えた。


監視兵に見つからないように、静かにその土のところに近づく。


チェリーナは素手で土をかき分けようとすると、異常に硬かった。


硬さの範囲を確認するために触っていると、正方形の形をしていた。


ほんの少し段差があり、そこに近くにあった小枝を段差に挟む。

少しずつ段差を広げていくと、扉のように正方形の板が引っ張らさり、梯子が見える。


ウォンバールが羽をパタパタさせ下に降りていく。

チェリーナも後を追って梯子を下りる。


入口の板を静かに下ろすと真っ暗になって何も見えなくなる。


『光よ』

ウォンバールの言葉に、光りの粒がチェリーナの周りを数多く回り始める。

そのおかげで周囲が少し明るくなった。


「あ、ありがとう」


『どういたしまして。』

チェリーナのお礼にウォンバールが笑顔で答える。

チェリーナはその些細なことがうれしくて頬を染める。




梯子をずっと降りて、道なりに進んだ。

そしてまた梯子がある。


梯子を上り、正方形の板があったため、少し開けると話し声が聞こえた。


「お前は我が国の捕虜だ。跪いて許しを乞え。そして、俺様の靴をなめろ。」

声を発していたのは、久しぶりに見たチェリーナの異母兄であった。


「・・・捕虜ではありません。人質です。きちんとした文書も交わされています。私がここで無事にいるから、互いに侵さず侵されずにいるのです。僕は下僕でも奴隷でもない。」

少年の言葉に顔を赤くした兄は思い切り殴りつけた。


床に倒れた少年を何度も蹴っている。

少年は声一つ出さず、殴られ続けていた。


兄は気を失った少年に満足したのか、最後に椅子を蹴り飛ばして部屋から出ていった。


『あいつ。なんなの?変なにおいするし。』


「・・・私の・・・腹違いの兄なのです・・・」


『兄・・・?でも・・・臭いが・・・』



チェリーナはウォンバールの言葉を最後まで聞くことなく、板を押し上げて質内に入る。


少年は顔面が腫れ上がり、口から血を流している。


服をめくると内出血もあった。


古いものもある。たぶん、今までもやられてきたのだろう。


「ウォンバール・・傷って治せる?」


『治せるけれど、水と風の力を融合させるからかなり魔力が必要だよ』


「良くわからないけど・・・やってみて?」



チェリーナの頼み通り、ウォンバールはチェリーナの魔力を使い、少年の傷を治した。


少年が少し呻き、ゆっくり目を開けた。

チェリーナの姿に目を瞠り飛び起きる。


声を出そうとしたところ、ウォンバールが口をふさぐ。

少年の顔に抱き付くことで。



「ごめんなさい。声を出すと外にいる兵に気付かれるかもしれないから・・・」

もの凄い小声で話す。



どうやら少年にウォンバールは見えていないよう。

話せないことに驚愕しているようだった。


「・・・これは夢。夢よ。夢だから、夢を語るのはありだと思うの・・・。あなたはこの国が憎い?私は、憎いかわからないけれど・・・嫌いだとは思うわ・・・」


チェリーナの言葉に、冷静になったのか、彼の青い瞳が濃くなった。


「・・・憎いわよね・・・自分の国は・・・好き?」


少年はにやりと笑った。


ウォンバールのせいで口は開けないが。

それでも、チェリーナには彼もまた、自国が嫌いなのだと思った。



「あなたをここから逃がしてあげる。今ならさっきの王子のせいになるだろうから・・・」


少年の瞳がこれでもか、という風に開かれる。

「この国から逃げて生き抜いて。ここで生き抜くより、もしかしたら楽かもしれない。」


彼の手を見た。

タコができていて、傷もあった。


先ほど通ってきた道に木でできた剣も置かれていた。


今まで一人で隠れて訓練をしていたのだろう。

少年にしては体の筋肉も程よくついている。


「どうする?この国をでて自由になる?それとも、このまま国にとどまって殺されるのを待つ?」


少年は真剣な表情になり、小さく頷いた。


「決まりね。」


チェリーナは彼の手を引っ張って立たせる。

ウォンバールに視線をやる。


「城の外に出られる。」


『難しいけどやってみるわ。でも、あなたの魔力が枯渇するかも・・・そうか。小さいあなたから借りるわ』

言うや否や、目の前の光景がぱっと変わった。


そのとたんチェリーナは体から力が抜ける。

ふらついたところを少年が支えようと手を伸ばした。


青い瞳とチェリーナの瞳がかち合う。


少しの間見つめあっていたが、すぐに互いに視線を外した。


「・・・ウォンバール・・・彼に武器って作れる?」


『できなくはないけど、そうなるとあなた元の時代に戻れないわ』


「いいの・・・」


『わかった・・・』


ウォンバールは少し悲しそうにつぶやく。


『母なる大地を守りし、火と水と風と土と雷の子らよ。力を集め、ここに愛し子を守る糧を授けたまえ。』

ウォンバールの言葉に、周囲に風が舞う。風となり、水となり、壁となり、雷となり、火となり、全てが彼の元に集まった。


彼の前には剣が現れた。


「これは・・・」

少年が呟いた。

目の前の剣に魅入っている。


「・・・これは・・・“精霊の剣”。選ばれし者だけが・・・手にできる。・・・たぶん」

最後のたぶんはかなり小さくつぶやいたので、彼に聞かれていなかったようだ。


「あなたの望みは?」

少年が呟いた。


「・・・私の望み・・・?私は、この国の滅亡。そして、平和で人々が苦しむことのない国。」


チェリーナの言葉に少年が跪いた。


「私の名はウォルフ。あなたに受けた恩は生涯忘れはしません。」


チェリーナも少年に言葉を返す。

「私は・・・チェチェ。時が来たら、“チェリーナ”を救って。」


「・・・チェリーナ?」


「あなたがもし・・・無事に生き延びられたら・・・きっと誰のことかわかるわ。」



『チェチェ。早く逃がしたほうが良い。奴らが気づいちゃう。』


「もう行ってください。彼らが気付く前に。」


「あなたは・・・」


「私は・・・やるべきことがあるので。」




そう言って二人はわかれた。



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