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呪いの子チェリーナ



未来を変えられるとしたら、あなたは何をする?







大陸には多くの国があり、覇権争いが絶えなかった。

常に一触即発で、亡国となる国もあれば、新たに建国される国もあった。



わがエネット王国は弱小国ながら、父である国王の手腕で少しずつ国土を広げていった。


私には兄と弟、そして妹が一人ずついる。

三人とも優秀で将来を有望視されている。


しかし、私はその中でもかなりの劣等生だった。


取り柄もなければ、賢くもない。

唯一の正妃の子にも拘わらず、“呪いの子”の特徴を持って生まれてしまった。


言わずもがな。

母は処刑され、私は呪われた子のため殺されずに済んだが、王女としての権利を剥奪され、兄弟たちの使用人として育った。


愛されたくて。

優しくされたくて。

認めてほしくて。


ずっと耐えていた。








何日食事をとっていないか。

元々満足に食事をとれる環境ではなかった。


空腹を通り過ぎて既に何も感じなかった。


私が何をしたのだろうか。

悪いことをした?

生まれただけでは?

生まれることがいけなかったのか。



エネット王国王女チェリーナはやつれた様子で、牢の片隅に座り込んでいた。


チェリーナは今日処刑される。

妹王女であるシスティアを殺そうとしたから。


もちろん事実は違う。


システィアが髪型が気にくわないと言って、チェリーナを罵倒し、いろんなものを投げつけた。

微動だにせず、システィアの思うがままに殴られ続けた。


それが気に入らないシスティアは、鏡台にあったレターナイフで切りつけようと、チェリーナに向かってずしずし歩いてきた。

その際、躓いて転んだのだった。


それをさもチェリーナに殺されそうになった、といったのだ。


チェリーナのいうことなど誰も信じない。

使用人たちもチェリーナを馬鹿にし、蔑む。


チェリーナはそのまま捕まり、今日絞首刑となる。



涙も枯れはて、力も出ず、ただ座り込んで物思いに耽る。


黒い髪、赤と黒のオッドアイ。

“不吉の象徴”として、呪い子と呼ばれた。


そのせいで正妃だった母は父に殺された。


兄弟たちは全員側室の子。

私だけが正当な血筋にもかかわらず、忘れ去られた子供。


ため息をついてそのまま、牢の隙間から見える空を見上げた。


星々が綺麗に輝いている。


「・・・私も死んだらあの星になれるかな・・・」


「星になりたい?」


どこからか声が聞こえて、チェリーナは周囲を見回す。


誰もいない。


「ふふふ。あなたが覚悟を決めないと、私を見つけられないわ。」


「覚悟・・・?どういうこと・・・?」


「あなたは“愛し子”だもの。」


「愛し子?・・・いいえ、私は呪い子よ・・・」


「違うわ。あなたは愛し子。あなたが覚悟を決めれば力を貸すわ。」


「覚悟って・・・?」


「・・・あなたはなぜここにいるの?」


「それは・・・」


妹を殺そうとしたから。


事実じゃないけれど、妹が言えばすべて事実になる。

父が命令すれば現実になる。


私にできることなどない。

話す権利も主張する権利もない。


どうしてー?


だって、私は呪い子だから。

愛される資格などないから。


誰が決めたのー?


誰・・・?それは・・・

誰・・・?




「・・・諦めることは最善じゃない。最善は、あがくことよ。運命に。現実に。諦める前に抗うの。」

姿の見えない声が聞こえた。


「・・・抗う。」


私は死にたくない。

認められたい。

愛されたい。

生きたい。



「決まりね」

その言葉とともに、目の前に真っ白なローブを着た女性ができてきた。


「うーんと・・・どれくらいさかのぼれるかしら・・・」

何やら透明な球体を出してぶつぶつ言っている。


「戻りすぎても駄目ね・・・ここかしら。」

そう言ってチェリーナをみた。


「あなたに過去を変えるチャンスを上げる。あなたが過去をどう変えるかで未来が変わってくるわ。良いわね?注意事項は自分とは絶対に会ってはダメ。いい?あったら世界の均衡がズレて全てが壊れてしまうから。」


わけのわからないことを言われて、チェリーナは呆気にとられる。


「ちょっと。時間がないわ。呆けている場合ではないわよ。愛しい子。」


女性はそう言ってチェリーナの手を引っ張った。


「ままま、待ってください。どうしたら・・・」


「あなたに未来を変えるチャンスをあげるの。自分が最善だと思う未来に変えなさい。愛しい子。」


「・・・愛しい子って・・・どういうことですか?」


「戻ればわかるわ。じゃあ、頑張りなさい」


女性が、透明の球体をチェリーナに手渡した。

球体は光り輝き、まぶしさでチェリーナはきつく目を閉じた。






光が落ち着き少しずつ目を開ける。周囲は見覚えのある庭園だった。


「早くこっちに来なさいよ!愚図!!」

聞き覚えのある声が聞こえ、チェリーナは茂みに隠れた。


庭園の入り口から入ってきたのは、金髪をツインテールにした赤い目をした女の子。


妹のシスティアだった。


そして、その後ろを侍女たちにけられながら進む自分の姿があった。


二人の姿は間違いなく、自分とシスティアだが容姿が少し幼く見える。

それにこの光景は見覚えがある。


この後、癇癪を起こしたシスティアがチェリーナで火遊びを始める。


熱せられた火かき棒をチェリーナの胸元に押し付ける。

赤くただれ見るに堪えない姿に恐怖心を抱いたシスティアが、火かき棒をその辺に投げ捨てて行ってしまった。


そして、庭園は燃え盛り、チェリーナが生活していた離棟も全焼してしまい、全ての罪はチェリーナにあるとされ、むち打ちにあった。


チェリーナは体を震わせ背中の傷を思い出した。


やけどの後よりも背中の鞭の傷のほうがいたかった。

傷は今も残っている。



案の定癇癪を起こしたシスティアが火かき棒をチェリーナにあてた。


チェリーナは全身がふるえて何もできず、ただ事の成り行きを見守っていた。



息を殺してただ黙ってその場に座り込む。


静寂が広がり、茂みから覗き込むと、チェリーナが倒れその足元に火かき棒が落ちていた。


チェリーナは少しずつ近寄り、幼少期の自分が意識を失っているかを確認する。


火かき棒を持ち上げ、近くにあった池に投げ込む。



後ろを振り返り自分の元へ行こうとしたとき、左側の森林の中から黒い髪の少年が躍り出た。


チェリーナを見下ろしている。


足でチェリーナを軽く小突く。身じろぎしないチェリーナを冷たく見降ろし、そのまま森林に戻っていった。


チェリーナは周囲を意識しながら、意識を失っている自分をどうすべきか迷った。


すると、背中の引きつる感覚がなくなった。


気になって両腕を背中に合わせる。


着ている服は牢で着ていた服のまま。

ごわごわしていて、ボロボロの奴隷が着るような汚らしい服。

服ですらない。ただの布。


服の下から背中に触れると、大きな蚯蚓腫れのような傷がなくなっていた。



「どういうこと・・・?」

この傷は火事を起こしたことによる報復の傷。

つまりは、火事を起こさなかったから傷がなくなったということ?



「未来を・・・変える・・・?」




幼少期の自分を見つめたままどうすべきか考えていたチェリーナはふと、幼少期の自分の近くを飛ぶ光に気付く。

「・・・何・・・?」


光がピタリと止まり、チェリーナが隠れている茂みのほうに向かってきた。



ガサガサガサ・・・・


恐怖心から腰が抜け座り込んでしまう。


『・・・あなた私が見えるのね?』


光から声が聞こえる。

チェリーナは目を瞠り光を見つめる。


『私の声も聞こえるのね?』


光の強さが徐々に収まり、羽の生えた小さな女の子が現れた。


既視感のある。


チェリーナを過去(ここ)に送った女性。


彼女と同じく、右の髪が金で左の髪が銀。右の瞳が銀で左の瞳が金。

チェリーナと同じくオッドアイ。

呪われているはずなのに彼女のオッドアイはとても美しく、神々しかった。



何も言えずにいると目の前の手のひらくらいの小さな女の子が言葉を発した。

『あなた・・・()()()()()のね?あなたは・・・あの子?』

倒れている小さい自分をさす女の子。


チェリーナは小さく頷いた。


「・・・あなたは・・・誰?」


チェリーナは何か話さなくては・・・と思い、出た言葉だった。


『私?私はウォンバール。』


可愛らしく微笑んでいる。


チェリーナはしどろもどろになりながら話す。


「あ・・・あなたは・・・どどど・・どう・・して・・・・その姿・・・なの?」

思った以上にモゴモゴと話してしまった。


チェリーナの言葉に目の前の小さな女の子は頬を膨らませる。


ぶたれると思ったチェリーナはすぐに両目をつぶった。


『あなたではなくてウォンバールよ!私は生まれた時からこの姿なの!!』


ウォンバールはチェリーナを叩くことはなく、ただぷりぷりしながら言った。


「ご・・・ごめんなさい・・・・そ、その・・・私・・・チェ、チェリーナ」


『チェチェリーナ?長いからチェチェね。』


「ち、ちが・・・」

チェリーナは呟くがその言葉がウォンバールに届くことはなかった。


『チェチェはここで何してるの?』


「あ、あの・・・その・・・み、未来を・・・変える・・・ために・・・」


『未来?どうして?』


「あ、あき、諦め・・たくなく、て・・・」


『諦めたくない?何を?』


「い、いきる・・・こと・・・しあ、わせに・・・なること」


チェリーナが俯いていると、ウォンバールは何も話すことなく無言だった。


沈黙が怖くなったチェリーナは咄嗟に顔を上げた。

無表情だったウォンバールは、チェリーナと視線を合わせ微笑んだ。


『そうよ。諦めずに幸せになるためには、まず顔を上げなさい。下ばかり見ていたら見えるものも見えないわ。あなただけは自分を信じないと何もできなわよ?他人があなたを疑っても、あなたは自分を信じないと。諦めたくないならね。』


諦めたくないなら。

自分を信じる。

誰にも信じてもらえないのに。

自分を信じる?


簡単だけど、難しい。

自分は信じてもらえない、常にそれが頭にあるから。


私が自分を信じる。


それで何が変わる?


諦めない自分を手に入れる?

幸せを手にできる?



目の前の小さな女の子の言葉は、不思議と自分の心に残る言葉だった。




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