カヨの正体
「はい、これ報酬です」
リアのオフィスに戻ったリアとカヨはまず真っ先に報酬の受け渡しをした。
「おっと、これを貰う前に、訊きたいことがある」
「なんですか」
「今回の龍門館の一件。確かに、無事に解決したけど、腑に落ちないことがたくさんある。考えてもみろ。この為に作られたかのような屋敷の構造、漫画チックな事件展開。それから、謎の依頼人……」
「謎じゃないですよ。私が依頼したんですから」
「いや、アンタは頼みに来ただけじゃん。この報酬さ、アンタが個人的に用意できる金額じゃない。それは、全部において言えることなんだけど、まるで大がかりなゲームだ」
「でも、ダイヤも本物だし、泥棒は本当に指名手配犯だったし」
「そうだよな。だから、結果的に、泥棒を捕まえた警察の大金星だな。では、その状況を用意したのは誰だ」
カヨは下を向き言った。
「それは……私のおじいちゃん……です」
「ほう。アンタのおじいさん。お金持ちなんだな。それ、誰? アタシが知っている人?」
「井腹部彰」
その名を聞いてリアは目を丸くした。
「井腹部彰! アタシでも知ってる有名な探偵じゃない! アンタ、その孫なわけ?」
井腹部彰。その名を知らない人はいない。
大昔ならともかく、今の世の中に、探偵なんかと思われるだろうが、実際、 井腹部氏は、警察の依頼で数々の怪事件の謎を解き、犯人逮捕に尽力し、リアが生れる、遥か前からその名を知られ、彼の氏をモデルにした、たくさんの映画や舞台にもなっていて、リアがその名を聞いて驚いたのは、彼女自身がそれらの作品を自分で見ているからだった。
「そうか。豚の神様殺人事件とか、グローバルイノベーション横領事件とか嘘つき村事件とか、そんなのを解決した天才………………」
「おじいちゃんには会った事もないし、顔も知らない。でも両親のいない私を育ててくれたんだ」
「……カヨ、アンタ何者?」
「ハイドランジャー6号。おじいちゃんが、創設した諜報組織。非合法のね」
「6号ってことはアンタもスパイか」
「リアさんが見抜けなかった唯一のトリックね」
「見抜くか。普通。秘密を知ったらどうなる?」
カヨはニッコリ笑って。
「消えてもらいます……なんてするわけなく、仲間になってもらいます」
「だろうな、この展開から言って」
「さっきのは報酬。契約金の方はリアさんの隠し口座に振り込ませていただきました。三千万円ね。これで貧乏声優もやめられるでしょ」
リアは腕を組み、野太い声で言った。
「それは断るでごわす」
「なぜ急に相撲取りに」
「私は声優になりたいのであって、お金じゃない」
カヨはまたニコやかに言った。
「ああ。声優はやっててもらって結構ですよ。スパイをアルバイトだと思えば」
「元からそのつもりだ」
こうして、二人の奇妙な関係が始まった。




