決着の準備
呼吸でカウントをとっているのかリアは、まるで時計を見ているかのようにハッキリと数字を述べたかと思うと掌を頬にあて、その場で旋回しながらカヨが驚くほどの大声、それも、ひとつひとつがトーンの異なる成人男性の声で叫んだ。
この声が室内の壁に当って反響し大勢の追っ手がいるような錯覚に陥るのだ。
「犯人いたぞ!」
「上だ階上へ逃がすと面倒だぞ!」
「逃がすな! 地上階の退路を完全に塞げ!」
リアは青年の声を出し、b地点に向かって叫んだ。
犯人の足音が止まり、角を曲がったらしく足音が遠のいて行く。
リアの声色擬態の技術は、もうイリュージョンマジック
「カヨ、今度はどこ?」
『e地点を向いて下さい』
e地点それは泥棒が幻の追っ手から逃げている場所。
すなわち、この部屋の、ほぼ真下にあたる。
リアの叫びは厚さ10センチあるコンクリートのフロアを通り抜け、恐らく、その背後に最も近い位置から泥棒の耳に入ったはずだ。
だとすれば、これはまさにリアのプラン通り。
後ろが塞がれている……そう思い込んでいる泥棒の足音は、一瞬、立ち止まり今度は見取り図上に示されたている階段を昇り始めた。
「……当り。あの泥棒。もう終わりだ」
リアの唇が冷徹な嘲笑いを浮かべた。
「カヨ。ここからは仕上げだ。あんたにも働いてもらう。なあに。そんなに難しいものじゃない。その扉の両側の壁に、私と向き合うかたちで背中をつけるんだ。……そう、神社の狛犬みたいに向き合って。そうそう。後はこれだ」
言いながらリアはベッドに敷くシーツをカヨに投げて寄こした。




