カウントダウン
この数秒間の経緯にカヨも目を瞬いて驚いた。
警報。アナウンス。施錠の音。いったいどうなっているのかは解らないけれど、それらの声も音も、となりにいるリアから出ているのだ!
「リアさん! 三十秒だって! あたしたちも逃げなきゃ!」
「ウソだよ、ウソ。警備員もいない屋敷に、そんな防犯システムがある訳ないじゃないか。
今のは、泥棒を、この部屋から追い出すためなんだけど、予想以上に効いたな」
「えっ? それじゃ、今のはトリック?」
「そう。人間ってやつは音以上に目をアテにするから、暗い所で聞いた情報は全部信じてしまうし、実際には何も起きていないのに確認もせず、まず、視界のある方に向かって逃げ出す。事実、逃げ出したろ?」
「でも! ダイヤは捕られちゃったし、あいつは足が速くて!」
「ダイヤって、これか?」
「えっ? えーっ?」
「最初からこんなんでいいんじゃなかったのか? 誰も見ない時間に本物をおいておくほうが臆病な泥棒より不用心なんだ。あいつが持って逃げたのはガラス製のイミテーション。……そうは言っても五千円もしたんだからね、経費で買い取ってよ。私は要らない」
「それじゃ、泥棒は偽物を持って素早く逃走中……?」
「あー。速いといっても屋敷の中じゃ全力疾走は出来ない。むしろ、速く走るほど間仕切りや壁に速く突き当たる。途中の窓やドアにはカギがかかったと思い込んでる泥棒はひたすら侵入してきた通路をジグザグに戻るしかない。だから、退路のドアをひとつだけ完全封鎖した訳だね……そうすると……屋敷の中をぐるっとまわって、となりの部屋へ出る」
手に持ったバナナを胸の内ポケットにしまいながらリアは嘲笑った。
「……私たちに背中をむけた状態でね」
『リアさん、b地点に犯人向かってます』
「了解。予想通りだ。……ンン……と」
十字に組んだ腕をキュッと絞めて準備運動。
いったい、この余裕はどこから湧き出すのだろうか。
慣れないカヨは気が気でないが、リアは全く動じていないらしい。
その証拠に、薄笑いを浮かべつつ解説と感想を述べている。
「カヨ。あんたに聞いた特徴だと泥棒は、とにかく脚が速いっていう事だったけど、頭はあんまり良くないらしいね。ある程度の知識があって、相応の訓練を受けたヤツなら、もう、2分ぐらい前には罠に気付いて逆進するなり、立ち止まって窓や扉の施錠を確認するものなんだけどな。でも、あいつは実験迷路に放された小動物と一緒だ。具体的に目視できる障害物を避けて前進するしかしない。まさに『猪突猛進』ってヤツだ」
「ちょとつもーしん? なんかアニメで聞いたことがあるけど……」
「そうね。『猪』ってのはイノシシのこと。『突』は真っすぐ。猛進は全力で走ること。普通はリスクをを恐れずに物事を成す人の性質を表すのに用いられる言葉だけど、もともとは文字通りイノシシをはじめとする野生動物の習性を示していた。……あと10秒。」




