声で欺く
「なるほど」
リアは屋敷の見取り図を見ながら頷いた。
「警備員の数は?」
「いません」
「は?」
リアは見取り図を見ながら、あることに気付いた。
「間仕切りやドアをこうして塞ぐと渦巻状の一本道になってしまう。そうまるで、龍門だ。ああ、だから龍門館か」
龍門というのは、古くからある図形で、その原型は古代ギリシャまで遡るが、日本では、
ラーメンの丼に描かれることから俗に『ラーメン模様』などと呼ばれている。
「龍門か。それなら簡単だ。一つだけ仕掛けをしておこう。賊がどこから侵入してくるか、わからないけどここだけ……」
そう言いながらリアは一つのドアに×を付けた。
ガッチリ施錠して開かないようにする。
カヨは恐る恐る訊いた。
「ほかには?」
「無い。強いていうならアンタがアタシの言うことを的確に聞くこと」
高い石壁に囲まれて、広い庭園を持つ、敷地の中に龍門館はあった。名前だけ聞くと、
さぞや、古くて気味の悪い洋館という感じがするが、実際に、目で見ていると洋館と言うよりは平成の時代に建てられた洒落たレストランか装飾過多なカラオケハウスもしくは辺境に不釣り合いなラブホといった雰囲気で、なんだか、リアリティのない、赴きにリアは少しばかり、拍子抜けした。
「これが龍門館ね……なんだって、こんなところでデッカイダイヤの展示かなー? まあアタシが考えることじゃないか」
そうこうする内に長い陽は落ちて、夜が来た。
犯行の予告時間だが、屋敷にいるのは、リアとカヨの二人だけ。そしてもう一人。
どこからか入ってきた泥棒だ。
そして、泥棒は今まさに、展示されたお宝を取ろうと手を出した。
「リアさん、ずいぶん落ち着かなさそうですね」
「今日、オーディションの結果が出るんだよ……」
「え、大丈夫なんですか?」
「大丈夫。仕事は必ずやり遂げる。……よし来い」
大きく息を吸い込むと、リアは掌で口元を覆った。
そして泥棒がダイヤに触れた途端、僅かに籠ったアラームとデジタル録音特有の機械的な女性の声で警報が響いた。
『緊急事態が発生しました。この警報は自動的に警備会社と警察に通報されています。自動作動により全ての窓と扉は三十秒以内に施錠封鎖されます』
アナウンスに続いて次々にカギのかかる音。
泥棒は握ったダイヤをポケットに入れると、一目散に入ってきたドアから室外へと続く廊下に駆けだした。




