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旅人の休憩所と言うものがこの世界には点在している。

荒野は休憩も厳しい場所なので重宝される場所なのだ。

しかし、旅人に知られていると言うことは当然盗賊にも知られてしまっているわけで。

旅人の休憩所は身体を休めることができる代わりにいつ襲われるかわからない場所と言うことになる。

魔王によって征服されていた頃から支配下に置かれていなかった荒野であるが故に、未だに無法者である盗賊が出没するらしい。

キルトシェリルの宿屋でそんな話を聞いていた。


荒野で眠るのは魔物もいるし砂埃でとても休めるような状態ではない。

盗賊に襲われる危険があろうとやはり休憩所で休むのが賢明だろう。

四人は次の街ウィスティリアルまでの距離を考えて休憩所で泊まることにした。

窓のない室内でようやく一息吐く。

窓があると砂埃と時々吹く強い突風で割れてしまうのだ。


室内は暗いがアユリの魔法で光をランプに移して部屋の中心に置いてあった。

休憩所の中には調理器具等が備えられており、水や保存食もある。

しかし、食べられるかわからないし水もいつ汲んできたものかわからないので使われることはない。

基本的に食料等は持ち込みで調理器具を使って料理して食べるだけ。


現在リルハがアユリの用意した炎で調理中である。

四人の中でまともに料理ができるのはリルハ一人だけだった。

アユリは殺人的に料理が下手くそで、旅を始めた当初アカに食べさせておなかを壊させてしまう。

しかもアカがそれを我慢していたせいで二晩寝込む羽目になった事件以来アユリは料理をしなくなっていた。

さすがに責任を感じているようだ。

スフェンも料理ができないわけではないが味付けが大雑把なためいい時と悪いときの差が激しくて当てにならない。

アカは無難な線を行くのだが今一歩何かが足りないと言う全員の意見。

結局リルハがずっと調理当番と言うことになっているのだった。



鼻歌交じりに料理をするリルハは様になっていて手際がいい。

「こうしていると昔を思い出しますね」

「そう言えば最初に旅人の休憩所で休んでいたときに盗賊に襲われたのだったね」

「正直なところ私はそれまで何度かベリアーゼ(賢者の聖地、大賢者たちが残した叡智の納められた図書館のようなもの)に行く間に旅人の休憩所を使用していましたが襲われたこともありませんでしたのでただのうわさだけだと思っていましたよ」

「ぼくは運が悪いからいきなり襲われたのだと思うよ」

「あなたの運の悪さは筋金入りですからね……」

「あはは」

アカは苦笑いするがアユリは呆れたように視線を送った。

そのせいで彼らは様々な困難に巻き込まれたのだから文句も出ようものである。

アカが故意にやっているわけではないので口には出さないが。

何せアカ自身も多大なる被害を受けているのだった。


「でっきたよ~♪」

リルハがササッと皿に盛り付けられた料理をテーブルに並べていく。

「おつかれさま、リルハ」

「ありがと、アカさん。腕によりを掛けちゃったのでどーぞいただいちゃってくださいましー」

「では、いただきます」

アカの合図でみんな食事にかかる。

今までも何故かいつもアカがなんであろうと物事の中心に据えられてしまっていた。

アカも一年も同じ扱いを受けてきてさすがにもはや疑問も感じなくなっているが。

最初の頃はやはり何故自分なんかが、と疑問ばかり抱いていた。

そもそも『勇者』なんて呼ばれること自体がアカにとっては不本意なのだ。


「これおいしいね。何故保存の利く食べ物でここまでいいものが作ることができるのかわからないよ」

「ん~、今回はキルトシェリルの新鮮なお野菜とかも使ってるよー?出る前に買って来てたの早めに使わないとだしね~」

「なるほど。それでこんなにやわらかい野菜があるのだね」

「よく煮込んだんだよっ。おいしいでしょー?」

「とてもおいしいと思うよ」

「私もリルを見習いたいところですが」

「「いや、アユリは作らなくていい」」

「何故二人とも声を合わせるのです!?」

「だってアユリの料理は殺人的にまっずいんだよ!」

「ぼくとしてもあまりみんなに迷惑を掛けたくはないからね」

「食べれるものしか入れていませんよ!?と言うかアカはおなかが弱すぎるだけです!もうちょっと鍛えた方がいいのでは!?」

「アユリ無茶言っちゃダメだよー。外は鍛えれるけど中は無理だよー?」

「いっぱい食べていればいつかは大丈夫に――」

「「ならないよ」」

「だから声を合わせないでくださいってば!スフェンもお酒ばっか飲んでないで何か言ってあげてください!」


料理に少しだけ手を付けてそれからずっとお酒を飲んでいたスフェンに全員の視線が集まる。

室内でも帯剣したままの彼は他の三人を見ることもなくずっと扉の方を見ていた。

声を掛けられても反応することはない。

いつものことだった。

基本的に声をかけてもほとんど反応はないのだ。

アユリもそんな様子のスフェンに諦めて肩を落とす。

酒を飲んでいるから反応しないわけではない。

興味がないから反応しないだけなのだ。


彼はただアカを守るためだけに共に旅しているだけだった。

他のメンバーに特に興味を持つことはない。

アユリはそんなスフェンに淡い想いを抱いているようだったが相手にされることはなかった。

悲しいかな彼は人間というものに興味を持つような人ではないのだ。

何故アカを守ろうと思ったのかはアカにも未だにわからない。

聞いてもまともな返答が返ってこなかった。

ただ、アカの言葉にだけは反応を示すのだが。



「スフェンは盗賊の気配でも感じているの?」

「……3。距離はある」

「外に出て戦った方がいいのかな」

「こちらへは来ないだろうな」

「そう。それならいいのだけど」

「来るならば俺が処理しておく」

「ではお願いしておくよ」

「応」


礼を言ってアカが食事に戻るとアユリの視線が突き刺さる。

「どうしたのかな?」

「い、いえ、別に何も」

「アユリってばやきもち~?」

「そんなことありませんってば!まったく。子供なんですから」

「リルハはまだまだ子供なのです。だからアカさん相手して~♪」

「おっと、食事中に抱きつかれるとこぼしてしまうよ」

「だいじょーぶ、食べさせてあげるもん」

子供らしいしぐさでアカの腰に抱きついてぐりぐりと頭を擦り付けながらそんなことを言うリルハ。

アカは困ったようにその頭を撫でてやっていた。

アユリはそんな二人を恨めしげに見ている。


「前言撤回します。リルハは狡猾な女性です」

「こーかつって何?」

きょとんとしたリルハに聞かれてアユリは少し言葉に詰まった。

知らないと言うことを予想していなかったようだ。

「ずるいってことです!」

「えー、素直になれない頭でっかちなどこぞの賢者様よりいいと思うよ~?」

「あ、頭でっかちとはなんですか!あなたみたいなおバカさんよりよっぽどマシです!」

「頭ばっかり良くたって人の心はつかめないんだよー?」

「わかってます!!」

「二人とも、食事中にケンカはやめようか?せっかくリルハががんばって作ってくれたのだからおいしく食べよう」

アカにいさめられて二人が黙り込む。

そしてリルハが謝り、それにアユリも同じように謝った。


この二人のケンカはいつもアカがいさめなければ誰も止めない。

そりゃ四人しかいないのにもう一人のスフェンは話しに入ってこないし他の二人がケンカしてしまっているのだから当然アカが止めるしかないわけだが。

積極的に自分から誰かに関わっていくのが苦手なアカにとってケンカをいさめたりするのは得意ではないのだが。

ここ一年で彼らと関わっていくうちにこの二人のケンカに関してだけは治めることができるようになっていた。


自分も少しは成長できたのだろうか、アカはそんな風に考えながら再び再開された雑談交じりの食事を楽しむ。

魔王を倒すと言う使命があったときも、遂行してしまってもはや役目もないただの余韻だけの今でも、変わらず彼らとここにいられることに、ほんの少しだけ、感謝して。

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