22
22
一晩ここで過ごし、明日リンドオルムにたどり着く予定だった。
この先は魔物などもほとんどいない。
特に危険もない道を行き、旅は終わる。
リルハにとっては今夜がリンドオルムの外で過ごす最後の一夜となるのだ。
最後の晩餐は豪華にしようとアカに手伝ってもらいながら用意していくリルハはとても明るく見えていた。
しかし、やはりそれは空元気だったようで、食事を始めてからリルハは泣き出してしまう。
「これで、もう本当に最後なんだね……」
「そうだね。今度こそ本当に最後だよ」
「長かったような短かったような、なんか不思議な感じ」
フォークで肉をつつきながら寂しげなリルハの声。
アカはその頭をゆるりゆるりと撫でていた。
「本当に、いろいろありましたね」
「アユリとはケンカばっかだったけどさ、ホントはすっごく尊敬してるんだよ」
「い、いきなりなんですか、あなたはっ」
うつむきながらだがいつものからかいかとアユリはそんな返事をしながらリルハを軽くにらんだ。
しかし、その視線もすぐに弱くなる。
リルハの弱々しい微笑みにアユリは言葉が詰まった。
アカとアユリは視線を交し合う。
「……別にお別れと言うわけではありませんし、同じ街に住んでいるのですから普通に会えますよ」
「え?王都に戻っちゃうんじゃないの?」
「わたしはリンドオルムの賢者です。魔王を倒すために外にいましたが本来リンドオルムを守護する役目を負っているのですよ。ですから、わたしはリンドオルムにいます」
「ぼくも旅はこれで終わりにするつもりだよ。もうぼくにできることなど何もないからね」
「え、え?それじゃこれからもみんなと一緒にいられるのっ?」
「もちろんです。わたしとしてもこれだけ共にいて絆すら感じたあなたたちと別れるつもりなどありません。と言うか、縁はどうやったって切れたりしませんよ」
「そういうことだよ、リルハ。アユリの言う通り、大丈夫だからそんなに心配しなくてもいいんだ」
「よかった~っ。みんなそのままどこか行っちゃうのかと思ってたよ~」
リンドオルムに着くまでは言うつもりはなかったのだが今のリルハをそのままにはしておけなかった。
涙をぬぐって本当に心から安心した様子のリルハを見て二人も笑う。
秘密にしなければならない理由などなかったけれど、けじめとして終わりの宣言は街に着いてからにするつもりだったのだ。
アカもアユリもお互い同じことを考えていることに気付いていた。
リルハの様子を見て二人で視線を交し合って判断したのだ。
それは正解だったと思える。今のリルハの笑顔がここにあるだけで十分だ。
それからはこれまでの旅の思い出をどんどん語っていく。
旅に出るときの事件から行きの海路で初めての航海。
港で初めての魔王の手下たちとの戦い。
フェイルハイム解放と街の人々との交流。
スフェンの人間らしさを垣間見たオルガイオル訪問。
オルガイオルにて様々な技術について教えてもらうが理解できず、アユリですら諦めた。
そのまま過酷なオルベリオン横断へ。
アユリの本領が発揮され、格段に旅が楽になる。
アカが魔法に興味を持つが使用することはできなかった。
そしてフィンティオル解放戦。
長期に渡り攻防が繰り広げられ、王都からの援軍まで来てしまうほど大きな戦闘になる。
アカたちは少ない人数で戦わなければならず、かなり危険になった。
しかし、街の人々の支援のおかげで一気に形勢逆転。
一万ほどもいたと言われる魔王軍を打ち倒し、フィンティオル解放が叶う。
次にフィオーネリアル横断を開始。
魔物や盗賊との戦闘を繰り返して行き、リルハやアユリが戦闘にどんどん慣れていった。
しかし、そのことでアユリは少し自分の力を過信してしまい、盗賊に襲われて殺されそうになる。
危ういところでアカがセカイを壊す力を使ってアユリを助けた。
それからアユリが何度も自分を責めることになる事件。
アユリはそれからアカを見つめ続けるようになっていく。
それまでも身体の弱さから心配して見守っていたがそれだけではなく、アカを想うようになっていた。
フィオーネリアルを越えて大規模牧場ヴェスティオルへ。
難なく魔王の配下を倒し、ウィスティリアルもクリア。
周辺の小さな村を救ったりしながらシャンクスリルに入る。
盗賊に何度か襲われながらも南の賢者の街シャンテリオルへたどり着いた。
厳重に管理された街の中で研究を強いられている賢者たちを解放し、研究について聞く。
魔王は世界について研究を進めさせているようだった。
この世界の構造を解明し、打ち砕いて外に出る方法を探していると言う。
世界の外まで支配しようと言うことか、とアユリは魔王の支配欲の強さに呆れすら覚えていた。
そして商人の街キルトシェリル。
王都アルトシャングに入る前の準備を整えつつ魔王軍の残党を殲滅し、王都へ潜入。
王都には一般市民と魔王の下で支配されながら政治や経済、司法を執り行う人々が暮らしていた。
強敵、魔王近衛兵たちとの戦い。
それまでの魔王軍の兵士たちとは段違いの強さを誇る彼らとの戦いに苦戦しつつなんとかしのいだ。
ついに最後の戦いが訪れる。
スフェンですらまったく歯が立たないほど強力な魔王、オルフェイス。
崇高な理想と強い信念によって裏打ちされた真実の意味での最強。
誰が何を言おうと彼は惑わされることなくここまでやってきた。
一度も振り返らず、ほんの少しも曲がらぬままに鍛え続けてきたそれは、誰にも打ち砕かれるはずがない。
この世界では誰一人として敵うものはいなかった。
敵うはずがないのだ。
力も、精神も、信念も、理想も、何一つ誰にも負けることのない彼に誰が敵うと言うのか。
しかし、だからこそ、アカの言葉はそのセカイを打ち砕いた。
完膚なきまでにぶち壊したのだ。
最強のセカイに最強の一撃。それはただ一つの言葉だった。
『そのことでこの世界は誰もが幸せになれなくなったのに、それでもあなたは自分が正しいと言うの?』
そんなアカの一言で。




