20
20
フィンティオルを出て二十四日後、ようやく街にたどり着いた。
機械の街、オルガイオル。
鋼と歯車で回り続ける街だった。
古くから魔法以外のエネルギーを研究し続けてきたからくりの技術を高めていった場所である。
ここは魔法を必要としない特殊な構造の機械を生産し、世界中に届けているのだ。
動力の必要ない道具や機械、人力で動く移動器具など。
人力車などもここで開発されたものだった。
それ以外にも様々なものがここで作られている。
オルガイオルの人以外に創ることの出来ない謎の動力を使った機械もあった。
特殊な機構でほんの少しの力を爆発的に跳ね上げて凄まじい破壊力を持つ武器なども作られている。
スフェンが使っている拳銃や剣などもここで作られたものなのだ。
そしてフィオーネリアルの空を飛ぶ移動庭園もここで造られたものだった。
オルベリオンの上空にも移動庭園はいくつか飛んでいる。
しかし、やはり不定期な上スコールなどを避けるためかなり高い距離を飛ぶため時間がフィオーネリアルよりさらに長くかかるのだ。
アユリのおかげでオルベリオンもなんとか歩いて抜けることができるので移動庭園を使用したことはなかった。
アユリにもいまいち移動庭園の原理がわかっていないらしい。
オルガイオルの技術力と言うのは他の地域の人々と比べてはるかに高いため、発掘される旧時代の機械と同じく高度すぎて理解できないものが多かった。
使い方もわからないようなものも多々ある。
以前オルガイオルを通ったときにアユリはいろいろと話を聞いていたのだが機械についてはどれだけ聞いてもよくわからなかった。
専門分野以外はやはりそう簡単には理解できることなどないようでアユリは理解することを諦めたほどである。
街に入ってまず向かったのは以前世話になった武器工房だった。
スフェンの武器がずいぶん砂を被ってしまって動きが悪くなってしまったためである。
荒野をこれだけ長い期間渡ってきたのだ。仕方があるまい。
雨や砂にまみれてしまい、サビなども浮いてきてしまっている。
普段からきちんと整備などは行っているスフェンだったが当然できることは限られてしまうし、プロに任せた方が確実だ。
そんなわけで魔王のもとへ向かう前にも寄って行った武器工房に寄っていくことになった。
スフェンが元々よく訪れていた武器工房らしく、白髪の浅黒い肌をした快活な老人が営んでいるのだが珍しくスフェンが表情を崩すほどの顔見知りらしい。
とは言え他の人と比べればやはり表情は薄いのだが。
それでも仲間たちから見れば驚くほど表情豊かに見える。
主人にからかわれたりして勘弁してくれとうんざりとした表情などを見せるスフェンは新鮮で最初に見たときは驚いたものだった。
自分たちに対する反応とはまったく違う反応をしているのだ。
今回も和気藹々と言うほどではないが主人とスフェンのやり取りをアユリたちは新鮮な思いで見やる。
感情のない人など居ないのはわかっているが普段スフェンは感情がなさそうに見えていたのだ。
その彼がこうやって表情を見せるのはうれしいような悔しいような、なんだか少し複雑な気分だった。
自分たちでは引き出すことのできないそれを他人にやられてしまうと言うのはなんだか悔しい。
アユリとしては自分でこういう表情を引き出してみたかったが今までまともに反応をしてもらえたことすら少なかった。
アカですらここまでの表情を引き出せない。
付き合いは長いのだろうがアユリたちも一年間共に旅した仲間なのだからもっと気を許してくれてもいいのに。
これだけ共に死線を潜り抜けてきたのに未だに距離を感じてアユリは寂しくなった。
自分などスフェンの中ではきっと取るに足らない存在なのだろう、そう考えるだけで悲しくなる。
スフェンがまだ時間がかかると言うことでアユリたちは武器工房を出てその日泊まる宿を探した。
アカが少し寂しいね、とこぼしたのを聞いてアユリは泣きそうになりながら笑う。
そんなアユリの手をアカが握って、逆側の手をリルハが握った。
アユリは我慢できなくなって泣き出してしまう。
アカとリルハは二人でアユリを抱きしめながら慰めてくれて、アユリは涙が止まらなくなった。
そばにいるよと言ってくれる二人を愛しく思う。
支えているつもりで、自分も支えられていたことを思い知って、また涙がこぼれた。
彼らがいれば自分はきっとまだ強くなれる、そんな気がして、アユリは二人をぎゅっと抱きしめる。
オルガイオルの街は南に比べると解放の喜びのようなものはほとんど見受けられなかった。
普段通り、つまり魔王解放前とほとんど変わらぬ街の様子。
それもそのはず、オルガイオルはその技術力からかほとんど規制等が行われていなかったためである。
魔王から技術支援金なども支払われていたため、どちらかと言うと少しの不満すらある様子だった。
現在の王も技術支援金は支払っているが魔王に比べると少ないらしい。
街の酒場などで金銭的にきついと愚痴っている職人や技師がそれなりにいたのだ。
酒を切り詰めればいいのではとアユリは思ったが口にはしなかった。
もめても仕方がないし、魔王から解放したのは自分たちなのだから。
やはりオルガイオルでもほとんどの人がアカたちが魔王を打ち倒したのだと知っているものはいなかった。
勇者さま、のうわさは南と似たり寄ったりで美男美女四人組と言うことになっている。
どこから漏れたのか、旅の道筋もほとんど伝わっているようだった。
オルガイオルのなんらかの技術なのだろうか、アユリは疑問に思いつつ情報を集めていく。
オルガイオルの技術の一つに瞬間伝達と言う謎の技術があった。
簡単に言えば手紙を瞬時に離れた転送先に届けるシステムである。
ただ、送受信できるのが特定の機械のある場所のみなので現在王都とフィンティオル、オルガイオルとリンドオルムにしか置いていない。
その機械になら転送できるため緊急通信などに使える見込みになっていた。
とは言え現在のところ魔王解放の知らせ以外で使用されたことがないのだが。
そういった技術があるということはもしかしたらどこにいても常に監視することができるようなシステムが開発できていてもおかしくはないのではないか。
アユリはそんな風に考えてオルガイオルの技術に関しては警戒していた。
警戒したところで防ぐことなどできるわけもないのではあるが。
翌日オルガイオルの瞬間伝達の機械のもとに出向いて現在の王都の様子をたずねてみる。
なんともなさそうならそのままアカたちはリンドオルムに向けて最後の行程を進んでいく予定だった。
王都の方はかなり騒がしいと言う返事。
やはり様々なことが変わっていく中の混乱がまだあるのだろう。
アユリは王都が早めに落ち着いて世界全体が沈静化して行き、平和で皆が幸せに暮らせる時代が来ることを願った。
王都に健闘を祈る激励のメッセージを送って瞬間伝達のもとを離れる。
彼らなら何があろうとなんとかできるだろう、そう信じていた。
オルガイオルを出て一日とかからずにフェイルハイムにたどり着く。
そうすればあとは海路を使ってリンドオルムまで一週間ほどだ。
旅の終わりまでもうそんなに時間はかからない。
ようやく長かった自分たちの旅路は終わる。
あとはみんなで世界の行く末を見守って行けばいい。
もう、大変な思いはしなくていいのだ、アユリはそう思って少し、笑顔になる。
ついにアカが解放される時が来るのだ。
彼が苦しまなくてよくなる。そのことが本当にうれしくて、自然と笑顔がこぼれていた。
アカの幸せを願う。
安穏とした日々を送って、本当の笑顔を取り戻して、そんなアカと共にみんなで過ごせたらそれだけでもう、世界が滅んだっていいとさえ思えていた。
終わりがそれだけ幸せならば、アカが心配している終わりでさえ歓迎できる。
アユリにとって今、それが本当にたった一つの願いなのだ。
それさえ叶うのなら他はもう、どうだってよかった。




