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結局前日にキルトシェリルのお祭りへリルハに引っ張り出されて数時間付き合う羽目になり、日が変わるまで無邪気に楽しむリルハをエスコートしたアカだった。

現在キルトシェリルを出て一時間ほど歩いた荒野。

既に疲労の色が見え、少々ぐったりした感じすら見受けられる。


「リル、いくらなんでも加減と言うものがあるでしょうが。アカがこんな状態じゃ先に進めなくなってしまいます」

「だって楽しかったんだもん」

「アカも次の日に響くようだったらきちんと断って帰りなさいと言ったでしょうに」

「面目ない。楽しそうなリルハを見ていたら水を差してしまうのが悪く思えてしまってね」

「まったく、あなたは身体が弱いのだから度をわきまえなければならないと何度言ったらわかるのでしょうね」

「大丈夫、なんとかなるよ」

「そうやって我慢して今まで何度わたしたちは被害をこうむってきたのだと思います?」

「えっと、数え切ることができないね」

苦笑いして応えたアカに冷たい視線を送るアユリ。

やれやれと肩をすくめて前に向き直った。


隊列を組んで彼らは旅をしている。

先頭にアユリ、しんがりをスフェンが取り、アカとリルハが並んで歩いていた。

基本的にこの隊列で進行していくのが一番安定するのだ。

後ろから襲われたとして対応はスフェンがもっともすばやい。

そして総合的な判断などに長けたアユリが先頭を取り、戦闘能力の高いリルハと一番弱いアカが並んでいる、と言うわけだった。

アカは基本的に守られているだけである。

そのための仲間とも言えるのだが。


アカはただただ魔王を倒すためだけに必要な存在だったのだ。

今となっては正直なところ役に立たないだけの存在だろう、アカはそう考えている。

それなのに自分はここにいていいのだろうか、などと悩むことが多々あった。

いても迷惑にしかならないと思うのに、大体大きな判断を迫られると自分に決定権を渡される。

そして、そういうときに限ってアカは逃げ出してしまうのだ。

自分でもよくないとは思っているのだが止めることはできなかった。




広がる荒れた大地、吹きすさぶ乾いた風、遠くの方に森が見えるがまだまだ先の話。

現在の位置は休むのに適した場所はあるとはとてもじゃないが言えなかった。

枯れ草しか生えていないような乾いた大地は風のせいで砂埃を巻き上げ、アカたちを襲う。

マントがなければ越えることも難しいほどの土地だった。

街や国の栄えるのはやはり水のある場所のみ。

海より大地の方が広いこの世界では未開の荒野がかなり広い範囲に広がっていた。


機械などは放っておくと砂が間に入ってしまって使えなくなってしまうため、基本的にどんなものでも取り外し可能なカバーのついたものが主流である。

車のようなものもあるが動力源となるエネルギー変換できる機構が開発されていないため人力だった。

魔法のエネルギーは空気中にある魔力を人間が体内に取り込み、体内の器官を通して使用できるため、その器官を解明すれば動力源として使用できるのではないかと現在研究が進められている。

しかし、無機物にそれが可能であるかどうかと言う議論は今のところ不可能であろうという意見がほとんどだった。


そもそも魔法を使える原理すら未だに解明されていないのだ。

全員が使えるわけでもなく、千人に一人程度の人間にしか使用できないと言われている。

世界人口が六十万人と言われていることから考えてもその人数はあまりに少ない。

死んだ魔法使いを解剖した例もあるがどこにそんな器官があるのかも判明せず、結局未だに解明の道は見えていなかった。

さすがに生きた魔法使いは解剖されることを許容できるわけもなく、現在のところ複数人の移動手段は徒歩以外にはあまりない。


車を人数分用意すれば、と思われるかもしれないがかなり高価なものなのでなかなか用意しづらいものだった。

予期せぬ戦闘などもありえるため、もし壊してしまっても困るし徒歩が一番安全で安上がり、と言うこと。

アカはため息を吐きながらまだまだ長い先の道のりを恨めしく思う。



『自業自得じゃないの。かわいい女の子と一緒に遊べてさぞかしうれしかったでしょうねー?』

けらけらと笑い声を上げながらアカの左肩に手を掛けた少女はアカと同じ歳くらいに見えた。

華奢でアカと同じくらいの身長、女の子らしい柔らかそうな白い肌をした、銀髪の少女。

その色味はほとんどアカと同一に見える。瞳も肌も髪も、ほとんど同一。

兄妹と言われれば信じてしまいそうなほど。

「そんなことはないよ、シロ」

シロと呼ばれた少女はふーん、と流し目でアカに視線を固定する。

口元には笑みが携えられているがそれはやわらかい雰囲気などなく、嘲笑のようにも見えた。

身にまとったドレスと言い、シロの容姿といい、明らかにこの荒野にはそぐわない。

なのに砂埃の中、顔をしかめることもなく彼女はアカを見ている。

『今だって手を繋いで楽しそうじゃないの?』

「だから、違うよ。そんなことはない」

ほんの少しだけ声を荒げたアカにみんなの視線が集中した。

あぁ、またか、と言う、哀れみのような視線。


『あんまり大きな声を出すとみんなに変に思われるかもしれないのにいいのかしら?』

「シロが声を掛けてくるからじゃないの」

『だって、あたしはあなたにしか見えないんだもの』

くすり、と笑ったシロの声にアカは再びため息を吐く。

そうなのだ。彼女はアカにしか見ることのできない少女なのだった。


それ故に今の彼を他の人が見ると独り言を言っているようにしか聞こえないのである。

おかげでこの一年間ほどの付き合いの彼ら全員にアカは突然一人で話し出す変な病気を持っていると思われていた。

シロという少女が本当に存在しているのかどうか、他に誰も確かめようがないのだから仕方がないだろう。

アカのただの妄想なのかはたまた実在する何かなのか、それすらわからない謎の存在だった。


しかしアカにとっては間違いなくそこにいる少女なのだ。

いつも隣でふわふわと浮いている彼女。彼女は世界の影響を受けないし、世界に影響を及ぼさない。ずっとアカのそばにいるだけの少女。

触れている感覚もあって声も聞こえるし、ぬくもりだって感じられた。


「嫌味を言いたかったの?」

『いいえ?ただ単にあなたが疲れているようだったから』

「癒してくれようとしたのかな?」

『笑ってあげようと思っただけ』

「君は意地悪だね」

『いい気味ね』

クスクスと本当に笑い出すシロに半目になったアカが視線を移動させながらもう一度、ため息を吐く。

視線を前に戻すとアユリと視線がぶつかった。すぐにそらされて、少しだけ落ち込む。

シロのせいでどんどん変なやつだと思われてしまうアカだった。

その様子を見たシロにまた、笑われてしまう。


「休憩に、しましょうか?」

「あ、いや、疲れてしまったから独り言を言っているわけではないのだけれど」

「そうですか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それならいいのですけど」

心配されてしまっていた。

アカは少しだけ恨めしい視線をシロに送る。

『反応するから悪いんじゃないの』


「それはできないよ。君を独りにするわけにはいかないのだから。君はぼくのせいでそうなってしまったのだからね」

シロに対してのその言葉には他の誰に対するどんな言葉よりも強く、想いが込められているように感じられた。

『あらそう?あたしは別に反応してくれなくてもかまわないのだけど』


「そのせいで周りにどう思われようと、ぼくは君の言葉にはきちんと返事をするよ、シロ」

普段弱々しく自信のなさそうなアカからすれば考えられないほどに、強い。

シロもそれだけはバカにすることもなく、受け止めているように見えた。

『そ、ありがと。礼は言っておくわ』

「ん」

礼を言われて微笑んだアカに、シロは少しだけ不機嫌そうに目をそらす。

端から見ればまったくわからないのだろうけれど、それは彼らの絆を示すように見える姿だった。


やはり周囲からは妙な視線を送られてしまうのでそのあと少しの間アカは落ち込むことになるのだが。

それでも、アカにとってシロはそれほどに大切な存在なのだろう。

それが妄想の中の住人であろうと、実在するほかの誰にも見えないだけの存在であろうと、そんなことは関係なく。

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