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数人の男たちに絡まれていたアカをリルハとに救出してアユリは一息吐く。
どうも女の子と勘違いされて誘われていたらしい。
外見としては少女と言われれば間違いなくそう思えるレベルだった。
しかもアカは弱々しく、強く迫られると断ることができない。
その正確やしぐさも含めるとアカを少女として見るとかなり女の子らしい女の子と見えてしまうのも仕方がないことだろう。
おかげで荒野の盗賊たちにアカがさらわれてしまったことすらあったのだ。
まだ管理から解放されたばかりで浮かれていたためただのナンパだったようでアユリがアカの元へ向かっていくとあっさりと彼らは引き下がっていった。
まだまだ平和な国だとアユリは少し安心する。
盗賊などはそう簡単には行かないため戦うことを余儀なくされ、場合によっては殺さなくてはならない。
アカが人を殺すことを嫌うため今のところ人を殺したことはなかったがその程度はやる覚悟だけはいつもあった。
アユリはそこまで平和主義者ではないし、大切なもののためならば他のものはどれだけでも犠牲にする、そんなタイプの人間なのだ。
アカだけはなんとしても守りたいと思っている。
他の二人はなんでも自分でなんとかできる人たちなので心配していない。
しかし、アカは自分で自分の身を守ることすらできないのだ。
いや、できるのにやらない、と言うのが正しいのか。
言葉の通じる相手ならばどんな相手であろうとセカイを壊す力を使えばできる。
けれどアカはその力を使おうとしない。
自分にどれだけ危害が加えられようとアカは人にその力を使うことを恐れていた。
何故なのかはわからない。
いや、きっと誰の心も壊したくないからなのだろう。
彼はどんな相手にも苦しんでほしくない。
とてもやさしい少年なのだ。
だからこそその力を忌み嫌っている。
魔王に使うのすら厭うほどに。
目の前で誰かが殺されかけたら使うのだろうがそれ以外ではよっぽど使うことがない。
この旅でアカがその力を使ったのはたった三度だけだった。
リルハを助けた一回目、魔王を倒した三回目。
二回目にアユリを助けてくれたアカには多大なる感謝と謝罪の気持ちがある。
使いたくなかった力を使わざるを得ない状況にしてしまったのはアユリだから。
それ故にアユリはずっとアカを見つめ続けるのだ。
何もできないとしても、できることを探しながら。
市場区画で買い物をしていく。
保存食や水、魔法用の物質圧縮剤やスフェンの銃に込めるための弾丸の素となる薬きょうや火薬、魔薬など。
そしてこの先のオルベリオンで絶対に必要となる道具も準備していった。
雨合羽や新品のタオル、ロープなどと風邪薬を含めた薬も調達する。
オルベリオンはスコールなども多い地域だった。
そのため対応策が必要となってくる。
そういった品々も用意していくと結構な時間が過ぎて行き、途中で昼食も取った。
途中でリルハが遊びたがって甘いものを食べたりしながら寄り道もして、アユリは仕方がない、とため息を吐いて。
フェイルハイムにたどり着くまでまたずいぶん時間がかかる。
その間あまり遊ぶこともできないだろう。
まだまだ遊び盛りのリルハにとってこうしてにぎやかな街で遊べるのはきっと、この旅が最後になるのだ。
これくらいは許してやらなければかわいそうだろう。
そうしてアユリは肩をすくめながら苦笑いしたアカにうなずいて見せるのだった。
そうして寄り道をしながら買い物を終え、あとは宿に戻って荷造りや魔法関連のものをいつでも使える状態に準備しなければ、と帰途に着く。
そんな彼らに一人の女性が声をかけた。
「もし、そこな行く勇者さま方」
びくり、とアユリたちは驚いてそちらに目をやる。
そこにいたのは顔を隠すほど深くローブをまとった人物だった。
声は老女のように思えるしわがれた、それでも高い声。
彼女は路上にテーブルを置いて、その上に水晶珠を乗せて手を掲げている。
占い師、まさにそれ以外には見受けようがない。
「占いならしませんよ」
勇者と呼ばれたことにアユリは警戒しながら声を出した。
「お金を取ったりいたしません。世界を魔王から開放してくださったあなた方からそんな無粋なことはできませぬ故」
ぴくりとアユリの眉が跳ね上がる。
何故この女性は自分たちが本物の勇者であることを知っているのだろうか。
フィンティオル解放のときこんな人物には会っていないはずだが。
そもそもその時はこの地域に訪れてはいないのだ。
管理区域周辺を掃討していくだけでよかったため、北側は五〇~六四区画辺りには訪れたのだがここから言えばほとんど反対側である。
南側は一八~二二辺りを訪れたのだがその時たまたま管理区域辺りに引っ張られていくユミナを見たためユミナはその辺りにいたのだが基本的には自分たちの生活圏外に出ることは許されていなかった。
そのため、ほぼ反対側のことなどそうそう知ることはできないはずだし、たとえ管理が終わったあとに話を聞いたとしても容姿までは聞いただけではわからないだろう。
だって言うのに何故、知っているのだろう?
占いなどアユリは信じていなかった。
そんな未来がわかるなどと言うものを信じることができない。
未来は確定などしていないのだ。
そうでなければ自分たちだって努力する意味がないではないか。
未来を変えたいからこそ、がんばることができるのだ。
自分で決めて行きたいからアユリはこれまで動いてきた。
だから、そんな不確かなものを信じたくない。
「私はあなた方に伝えなければならないことがあります故ここに存在しているのです。それ以外になんの意味もございません。聞いてくださらないのなら仕方がありませんができることなら聞いていただきたいと思っております」
「占いなんて信じておりません」
「それでもよいのです。老人のたわごとと言うだけでもよいのです。ただただ私はあなた方にこのことを聞いていただかなくてはならないのです。聞いていただけますか?」
アユリは思いっきり顔をしかめて腕を組む。
正直なところ聞きたくなどない。
しかし、ここまで言われて聞かないのもまずいように思えていた。
占いを信じていない相手にそれでもいいから聞いてもらいたい、と。
自分はそのためだけにここにいる、などと言われてしまったら聞かざるをえない。
それだけ重要なことなのだろうし、なんとなく気になってしまう。
なんだか乗せられてしまっているだけのような気もしていたがアユリはアカに判断を促す。
まぁ、アカなら聞くと言うだろうと思ってアカに振ったのだ。
「それはこの世界の行く末についてでしょうか?」
「その通りでございます。それをお話しなくてはならないのです」
「必要ありません」
にこやかにアカは言った。
アユリはびくりとしてアカの顔をまじまじと見つめる。
そこには笑顔が浮かんでいた。
確かに笑顔だ。しかし、薄ら寒いほどにそこには感情と言うものが見受けられない。
どういうことなのかまったくわからなくなった。
この場面でアカが断るだなんてありえないと思っていたのに、それが外れてアカが断ってしまったのだ。
「しかし、これは――」
「知りたくありません。それ以上しゃべるのならその口から二度と言葉が話せないようにします」
「アカ!?」
アユリは完全に混乱していた。
今までまったく見たことのないアカの反応。
人を脅している?あのアカが?あんなに普段弱々しい少年が、人を脅しているだって?
しかも、世界の行く末についてと言う、明らかに重要であろう占いを。
いや、アユリ自身占いなど信じていないがそれでも、聞いておいて損をするなんてことはないだろう。
なのに、アカは聞かない、と。黙れ、と言うくらいの強さを持つその言葉を放った。
わけがわからなくなってアユリはリルハと共にアカの顔を見つめる。
どういう意図なのかわからなかったのだ。
しかし、そのアカの笑顔に戦慄を覚えた。
それまで一度も浮かべたことのなかったその顔。
それは、残忍で悪辣な、目の前の相手を殺してしまいそうなほどに強く恐ろしい笑顔だった。




