15
15
赤道には一周ぐるりと回って帰ってくるとてつもなく大きな運河があった。
完全に赤道を通っているため人工的なものである可能性が高いのだが現在のところ歴史上そんなものを作った事実はない。
その川を隔てて区画は分けられる。
フィンティオルは全部で一二八区画存在していた。
居住地域は全部で八〇区画、残り四八区画は発電区画や開発区画に医療区画、市場区画に研究区画や外交区画などなど。
広い範囲だからこそ厳密な管理が必要だと魔王が設けたシステムを基にしてアユリが新システムを考案して現在うまく機能しているようだった。
第七居住地域から南側の第八区画を通って赤道運河にかかる橋を渡ることで赤道を渡り、この星自体の北側に行ける。
橋の長さは八〇m近くあった。
八〇mと言うとそんなに長くないように思えるかもしれないのだが実際乗ってみるとかなり先が長く感じる。
あれからのアカはずっと笑顔を崩さず、アユリは夜通し寝た振りで耳を済ませていたが会話が聞こえることもなかった。
どれだけ話しかけても何を言っても普段通りの笑顔で普段通りの返事。
普段あいまいで自信がなさそうに弱々しい笑顔ですべてを諦めたように見えてほんの少しだけ何かに期待していた少年。
今のアカは確かに前と変わっていなかった。
ただ一つ、もう何にも期待していないと言うことだけはアユリにはわかってしまう。
もうすべてを諦めてしまったかのように。
アユリは目の前に歩くその背中を見つめる。
今朝も通り過ぎて来た第八区画でユミナのせいかうわさが広がっており、アカたちが世界を救ったわけではないことになっていた。
お前らもよくがんばってくれたよな、そんな風に言われてアカは苦笑いするばかり。
リルハはそれでいいの?といった表情をアユリに向けてくる。
アユリも納得はできていなかった。
別に褒められたいわけでもないし感謝されたいわけでもない。
自分たちがやったわけじゃなくなったことが嫌なわけでもなかった。
ただ単に、アカが勇者ではないと否定されることが許せなかっただけだ。
アカ自身は勇者扱いされることを望んでいなかった。
だからこそこれでよかったのかもしれない。
しかし、それでも世界を救ってくれたのはアカだ。
アカが誇ってもいいはずのそれをなかったことにされてアカのがんばりをすべて否定されてしまっている。
アユリはそれが許せなかった。
アカだって誰かに認めてもらいたいはずではないのだろうか?
表立ってそうは言わなくてもやはり感謝されることをうれしいと思っているのではないだろうか?
自分もやはり恐縮とかそういう感情で謙遜してしまうことがある。
アユリにはアカがそれと同じで否定しているだけなのではないかと思っていた。
だからこそいくら本人が否定していても感謝の気持ちなどは本人に聞いてほしいと思う。
受け取って、アカの自信にしてほしかった。
そんなに卑下しないで自分を認めてあげてほしい。
みんなこれだけあなたのがんばりを認めてくれているんだよ、とわかってほしかった。
橋を渡ると第七四区画に入る。
再びこちらで一晩休憩してから翌日朝に再び北極にあるリンドオルムに向かって旅を進めていく予定だった。
第七四居住地域の西側には市場区画があり、そこで当面の必要なものを用意していく。
北側最大の荒野オルベリオンはフィオーネリアルより少し小さい上魔物もほとんどいない。
それならば今度は二十日もかからないのかと言ったらそんなことはなく、環境が魔物すら住めないほど苛酷な荒野だった。
その上大小さまざまな丘があり、その上ところどころにクレーターがある。
今回直線で進もうとするとこの世界最大級のクレーター、ロンドクラインがあった。
ロンドクラインは現在のところ正確な深さが計測できていないほどに大きなクレーター。
外周は大体二〇〇km程度。
こうしたクレーターがかなり多く発見されていることと生成時期がほとんど重なっている。
そのためこの世界住んでいた人々は一度隕石群によって滅んでいるのでは中という説があった。
それで荒野が広がっているのではないか、と。
昔は海が多くあったはずで、その頃にも人類はいた痕跡がある。
しかし、その頃の記録はほとんど残っていない。
事実は残されたわずかな痕跡をたどっていくしかないと言うことになるのだ。
おかげで今のところ真実は判明しないままだった。
その頃の人類は現在の人間に比べると科学分野で発展していた可能性があり、発掘によって発見される機械などはかなり高度な技術をもってして作られたものであることがわかっている。
現在の人々では使い方すらよくわからないものも多かった。
そして、その頃は魔法や魔物などがなかった可能性が高い、ということも判明している。
つまり、隕石によって魔法や魔物はこの星に発生したのではないか、と言うことだ。
肯定派と否定派による論争はかれこれ何百年と続いているがどちらも未だ決め手に欠けるため結論は出ていなかった。
世界にはまだまだ不明な点が多い、ということである。
七四区画に入ると彼らはまず宿を探した。
荷物を預けて買い物に向かうためだ。
宿を手配し、荷物を預かってもらうときにアユリが宿の主人と話をして情報収集を行ってみたがどうやら橋のこちら側まではまだユミナのうわさは広がっていないようだった。
そして、アカたちの正体も気付いていないようでアユリは安堵する。
このまま何も起こらずに街を出ることが出来ればいいのだけど。
アユリはそんなことを考えつつ、たぶん無理なのだろうとため息を吐く。
何せアカは何かと事件を引っ張ってきてしまうのだ。
本人にはなんの意図もないのだがおかしな人を引き寄せたり事件を誘発させる。
要するに、運が悪すぎる、と言うことだった。
そういう不安とかを抱くと必ず何かが起きる。
それがアカという人の特徴と言うことになってしまうのだ。
悲しいかな、そう考えてながら宿から外へ出たアユリの目の前でやっぱり、ことは起きてしまう。
ため息を吐いてアユリはアカの方へ駆け出した。




