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アカは岩陰に隠れて耳をふさぐ。
離れた位置でスフェンの猛攻がインボルスを圧倒していた。
右手の長剣で縦横無尽な斬撃を放った次の瞬間には距離を取って左手の拳銃から打ち出される魔法による電磁弾の混合攻撃で反撃を許さない。
どんどん押していって最終的にアユリの張った罠にはめて捕らえる。
そうやって狩りを行って食事とするのだ。
アカは何もできない。リルハに守られながらただただ耳をふさいで震えていた。
情けない、シロの声に自分でもそう思うよと涙混じりに応える。
フィオーネリアルを進み始めてはや三日が経っていた。
アユリやリルハたちは既に荒野に身体が慣れ、普段通りの力を発揮できるようになっている。
しかしアカだけが一向に慣れずに辛そうでその度休憩しているためあまり早いとは言えない。
とは言えそれは以前も同じだったためアカ以外誰もロスとは思っていなかった。
一度目にフィオーネリアルを通ったときも同じようにアカはリルハやアユリに守られながら隠れていただけ。
アカのセカイを壊す力は言葉の通じる相手にしか通用しない。
そのため人間以外とは戦えないのだ。
とは言え通じたとしてもアカが戦うとは限らないのだが。
結局通じる人間相手でもほとんどその力を使って戦うことなのないのだから。
リルハは彼のその臆病さがうまく理解できない。
力に対する恐れと言うものをそもそも抱いたことがないのだ。
強ければもっとたくさんの人を助けて上げられるからいいんじゃないのかな、などと考えるだけである。
アカのように傷付けないで済む力と言うのは理想とさえ思えていた。
戦って傷付けてしまうのはやっぱり痛いことだし、できれば傷付けあいたくない。
それでも戦わなければならないなら戦うけれど、アカのような力ならリルハは遠慮なく使える気がしていた。
リルハは自己流で編み出した拳法で戦う。
身体全体で相手の攻撃を受け流しながらそれ以上の力にして返すような戦い方だった。
そして軸を中心に置かず、ぶれ続けるその軌道はつかみづらく、戦闘慣れしていればいるほど戦いづらい。
反面思考しない魔物などはあまり向いていない戦闘方法なのでリルハは基本的にアカを守る係になっていた。
人間ならかなり有効な戦闘方法、小柄でくるくる動きながら軸がぶれているにもかかわらず渾身の一撃を放ってくるリルハはかなり厄介な相手になる。
見た目に合わないほど力が強いことも要因の一つであろう。
天然でやってのけるため気付く人が少ないのだがリルハも魔法を使っていた。
身体能力の向上、筋力強化、魔法でそんな使い方をしているのはリルハのほかに魔王くらいしかいないのだ。
というより、できない。
魔法と言うのは特殊な人にしか出来ない技法によって生み出される力。
空気中に含まれる魔力を体内に取り込み、通称魔力炉と呼ばれる器官で使いやすい形に変換することによって生まれるエネルギー、魔力素にする。
その魔力素はものとものを結びつける力を強化したり、回転エネルギーや運動エネルギーを与えることで様々な効果を生み出せるようにできるのだ。
そのため空気中の炭素を集めてそこで摩擦を生まれさせることで発火させ、どんどん炭素を集めていくことで火を継続させることで炎を生み出したり、
それを利用して他の物質を集め、そこに着火することで爆発を起こすこともできる。
他には蛍光物質に摩擦などでエネルギーを受けて励起させ、光を発生させて強い輝きを生み出すこともできていた。
粒子レベルでの操作が可能なため様々なエネルギー現象を再現できるため、放電現象や電磁波を発生させることもでき、それによって周囲を微弱電流の膜で覆って魔物などを寄せ付けない結界なども作り出しているのだ。
アユリほどの緻密な操作能力があればほとんどどんなことでも出来ると言っていい。
それ故にアユリは恐らくワームホールのようなものを作り出し、アカを始めとした十三人もの勇者たちを呼び寄せることができたのだ。
もっとも、本当にワームホールを創ることが出来ていたのか、アユリ自身にもわかっていないのだが。
そんな力である魔法をどう使えばリルハのようなことができるのかアユリにはわからないためリルハが魔法を使っていることに気付いていない。
リルハと魔王が使っているのは同じ魔法だった。
筋肉に微弱電流を送ることにより本来発揮できる以上の筋力を無理やり引き出す。
火事場の馬鹿力のようなものを意図的に発生させているようなものだ。
あまり使いすぎるとやはり危険なのではあるが。
力は使い方さえ間違えなければ良いものになる。
リルハはそう信じていた。
だからこそリルハは自身の力を必ず人のためだけに使う。
そして、アカもそれが出来る人だと思っていた。
そんなアカを好きだと思ったのだ。アカに憧れた。
アカが恐れるその力だって同じだと信じている。
リルハにとってその力は命を助けてくれた奇跡の力なのだ。
アカも使い方を間違えないようにすれば絶対に大丈夫だと思うのに。
震えるアカの背中を撫でながらそんなことを考えていた。




