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平くんの曲

  余白を埋めるように 未来を塗りつぶす日々を

  名も知らぬ誰かが 街角で歌ってた


  押さえた六弦は 指先に細い線を描く

  いつの日か その跡は 痛みへと変わるのか


  暗い部屋の中でさえ 音は鳴り続ける

  時計の音 秋の虫の音 音楽は終わらない


  繰り返す毎日に 左手が選び出すコード


  震える弦 奏でる現在を 僕は忘れちゃいけない

  泣き 笑い 奏でる今を


  それは ばからしくて 素晴らしい歌だ



「って感じなんだけど、ど、どうかな‥?」


 照れながら上目遣いに私達三人を見るたいらくん。私ーー金谷かなやひまりは曲の感想を伝えようと口を開きかけ、少し思い留まった。


 この曲からは平くんの気持ちが伝わってくる。ただ、私がその気持ちをちゃんと理解出来ているのか、もう一度考えを巡らせてみようと思った。


 多分みんなも同じ気持ちなんだと思う。

 見当違いな感想を言って平くんを困らせたくない、そんな思いも少しはある。

 

 でもだからといって、平くんがこの曲に込めた気持ちを、『いい曲』とか『よくできてる』とか、そう言う当たり障りない褒め言葉に置き換えてしまうのは、なんだか違う気がする。


 それはきっと、この曲に含まれる気持ちの一つ一つが、私達みんなの感情にも含まれているからだ。


 それが何なのかを探し当てるため、私達はただ無言で歌詞の意味を追っていた。


 「えっとわかりづらい歌詞でごめんつまり無為に過ごしているこの毎日が一番大事で繰り返す毎日つまりこれを右手のストロークに例えると左手のコード進行で僕らの未来は変わっていけるって言うかそういう今に価値があってそれを忘れちゃいけないて言うか」


「いやいや、その『この話の面白いところはここです』みたいな事後説明は別にいらんて」正方寺せいほうじくんが苦笑いを浮かべる。


「せっかく感心してんのに、痛々しくなっちゃうじゃん」珠美たまみちゃんが溜息を吐く。


「俺らはわかってるよ、平が何を言いたいかくらい」正方寺くんが頷き、私と珠美ちゃんもまた頷いた。


 そして「よし、やる曲も決まったし、次はどう編曲していくかだな」


 結局、正方寺くんのその言葉が、私達の答えだった。

この曲を皆で完成させよう、それが私達の答え。


「平、間奏部分ってどんな感じにする予定?」


「えっと、僕の方でハープを入れる予定なんだけど」


「ああ、ハーモニカ。じゃあ、あたしの方でピアノのパートも入れてみようか」


「ピアノ?」


「ピアノっていうかキーボードな。俺、今清里さんに習ってんだ。さっきも家でピアノ弾かせてもらってて」


「あ、ああー、電話した時に清里さんの家にいたのは、そういう理由でーー」


「そゆこと」


「あたし的には、それ以外の理由があってもいいんだよ、正方寺くん」


「え? ああ、おう‥」


「あれ? なんで無言になるの? なんか恥ずかしくなるよ‥」


「わりぃ‥」


「え、何この空気。正方寺、顔赤くなってるけど、どうした」


「なんでもねーって! ほら、ハモリの部分はどんなふうに考えてんだよ!」


「あー、えっと、それはーー」


 動き始めた。


 学園祭に向けて、私達の弾き語り部門がーー


 私は今一度平くんの部屋を見渡す。本棚から溢れた本と、壁の角に投げ出されたギター雑誌。壁際に畳まれた布団と、中央に据えられた古めかしいこたつ机。


 この部屋で平くんはあの曲を作ったんだ。


 私はこたつ机に置かれた歌詞の一文見ながら、過去に自分が言った言葉を思い出していた。


『誰かの奏でる音楽が終わっても、波の音はずっと鳴り続けているんだね』


 野外ライブの後、平くんの指先を握りながら、私はそんな言葉を言った。あの時咄嗟に平くんの指先に触れた理由が、今ならはっきりとわかる。


 この時、この場所でで流れている音楽には、いずれ終わりが来る。


 でも、音楽は続いていく。


 形は変わっていくけれど、私達の音楽は終わらない。


 この部屋でギターを抱えながら、平くんはあの時の私の言葉を思い出していてくれていたのかな。


 西日が眩しく、私は目を細める。


 光の中に、平くんの曲に含まれる私と共通のものーーそれが見えた気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 止まらない。。。 でも昼飯食わなきゃ・・・。(^^;) 好きだなぁ。。こういうの。 みんな成長してるよね。物語が進むにつれて・・・。 中の人だけじゃなく、「神様の手」も。。 これがたぶん、…
[一言] 幕田さんの書かれる作品は地の文もとても素敵ですよね。 私はついつい物語を進めようとすると必要最低限の描写になってしまいがちなのですが、いつも素晴らしいなと思いながら読ませて頂いております。 …
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