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男子大学生の欲望

「やっぱり女っておっぱいだよな」新井あらいが言った。


「いや、お前はわかっとらん。尻でしょ尻」谷浜たにはまが握り締めた箸を天井に向ける「あれこそ神の与えた至高の造形美よ」


「尻は男にもあるじゃん」新井が谷浜の発言を鼻で笑う。


「ばっか、お前丸みが全然違うじゃん、分かってねーなー。女性の尻にはやさしさが詰まってるんだよ」谷浜はムキになって反論する。


「おっぱいの方がやさしさ1.5倍増量中だろうが」新井は冷静に自分の意見を押し通す「なぁたいらはどう思うよ?」


「え、僕はさ」少し考えた末に「やっぱり女性は性格だと思うんだけど」


「あーあーすまん」新井は心底申し訳なさそうに首を振る

「彼女のいない平にはまだ早い話だったな」


「新井、そこで平に話を振るなんて、ゲスの極みだろ」谷浜が僕に哀れみの目を向ける。


「変に気を使わなくていいから!」僕は叫んだ。


 僕はお盆を利用して鈍行列車3時間ほどの地元に帰ってきていた。そしてその旨を伝えていた高校の友人2人と飲むことになった。


 新井は背の高いしっかりもので僕たち3人のまとめ役といったところだ。県内の大学に通っていて、高校時代から付き合っている彼女とは今も続いているらしい。


 谷浜は高校時代さえないゲーム・アニメオタクだったのだが、都内の大学に入ってからオサレ野郎に転身した。大学で彼女が出来たらしいが、二次元に対する愛も忘れてはいないらしい。


 そして僕――平均たいらひとしは隣県の大学に進学し、高校時代からやっていたアコースティックギターを続けている。ちなみに彼女いない暦=年齢。


 現在の時刻は20時を回ったところ。

 まだ宵の口だが18時から飲み始めているためけっこういい感じに酒が回っている。そしてそうなってくると話題が下のほうにシフトしていくのも、若い男なら仕方ないのだろうか。


最近木田きださんとはどうなんだ?」谷浜が新井に尋ねる。木田さんは新井の高校時代からの彼女で僕たちのクラスメイトでもあった。


「いや、最近マンネリっていうか、××のとき××が××でさ。だからたまに××をしたりするんだけど全然××だから、なんかねぇ」新井がとんでもない事を言い出す。


「俺の彼女も最近××だけど、めちゃくちゃ××で、この前なんか××で××するもんだから、俺も××しちゃったよ」谷浜もとんでもない返答を返す。

 

 僕には雑誌やパソコンの液晶画面で目にしたことしかないような単語が、友人2人の口から放たれている。僕は混乱した。


「そういう時は××するとめちゃくちゃ××するから、彼女も喜ぶと思うぞ」そこで新井はこちらを向き「あ、ごめん、平には刺激が強かったな」


「すまない、俺たちリア充にもリア充なりの悩みがあってさ……」谷浜が申し訳なさそうに、しかしわざとらしく頭を下げている。うるせーよ、お前だって高校時代は全然モテなくて彼女欲しいってぼやいてたくせに!


「そうだ」新井が何かを思いついたらしい「今日俺の彼女も近くの飲み屋で友達2人と飲んでるらしいから、ちょっと誘ってみるか?」またとんでもない事を言い出す。

 

「おおいいね、合コンみたいな」谷浜、お前彼女いるのにその発言はありなのかよ。


「友達2人はフリーらしいから、平の事気に入ってくれるかもよ」そんなのありがた迷惑だよ「んじゃ電話してみる」僕の意見は無視かい。


 しばらくすると女性3人組がやってきた。先頭の女性が新井を見つけて手を振る。新井も軽く手を上げて応えた。


「あ、谷浜くん久しぶり! まだアニメ見てるの?」新井の彼女の木田さんは高校の時よりも綺麗になっている気がした。これが化粧の力というやつだろうか「それと、えっと、あの……」


「平です」僕は愛想笑いを浮かべる。


「あ、そうそう、平くん? だったよね。久しぶり…?」


 高校時代も影が薄かった僕はこんなことで全然動じたりしない。だけど少しだけ涙が出そうになるのは何故だろう。

 

 木田さんの友達も女子力高めな感じだった。量産型女子大生といった感じだろうか、皆一様に髪を茶色く染め、同じ様な髪型で似たような服を着て三人並んでいる。確かにみんな美人ではあるけれど、ひまりさんの方が全然魅力的に感じる。


 それからは基本女3人と男2人で話が進んだ。


 僕は無言でビールジョッキを傾けながら自分が泥沼みたいな酔いに沈み込んで行くのを感じていた。


 斜め前に座っている木田さん。

 高校時代もどこか垢抜けてはいたけれど、今も同い年とは思えないくらい大人びて見える。

 いや、よく見ると新井や谷浜だって、高校時代とは見違えるくらい大人の雰囲気を醸し出しているような気がする。

 

 さっきの新井の話が脳裏を過ぎる。

 この2人は××したり××したりしているんだ。

 この後も2人で夜の街に消えて、××するのだろうか。

 僕には全然わからない、未知の世界の話だ。僕は彼らと同じ時を歩いてきたと思っていたのに、いつからか時空の歪みに引っ掛かってただ足踏みをしていただけなのかもしれない。


「えっと、平くんだっけ? 君ギター弾けるんでしょ? すごいねー」そこで急に話を振られて僕はドキッとする。木田さんの友人の一人が頬杖をついて僕を見ている。


「え、そんな、大したことないです」僕はしどろもどろで応える。


 そこで沈黙。


 話が続かない。


「あ、えっと、どんな音楽聴くの?」苦笑した友人さんが質問を変える。


「その、最近は『のざらし』を聴きますけど『ダケファブリック』とかもけっこう好きで、でもやっぱりアコースティックギターというと『かぼす』が一番だと思いますでも『かぼす』は初期の頃の歌詞の純朴さというか荒削り感が最近は薄れてきてしまっていて音楽としては完成されているんでしょうけどそういう荒削りな部分を好んでいた僕としてはうんたらかんたら――」


「あ、うんわかった。かぼすが好きなんだね」友人さんは話を遮って再度苦笑いを浮かべた。そして二度と僕に話を振らなかった。


 ひまりさんは、と僕は思う。

 

 ひまりさんはまとまらない僕の話をちゃんと聞いてくれた。

『もっと平くんの話を聞かせて』そう言ってくれた。

 

 なんだか、すごく寂しい気持ちが湧き上がってくる。

 

 ひまりさんに、会いたい。


 ・・・・・・

 

 ・・・・


 ・・・


「おーい、もう女たちは帰ったぞ」新井の声で僕は目を開ける「あんだけ日本酒をがぶ飲みすりゃそうなるよな」


 何が起こったのかよく分からないが、新井の話によると僕は日本酒をがぶ飲みし後テーブルに突っ伏して眠りこけていたらしい。


「あれ、谷浜は?」寝ぼけ眼で僕は尋ねる。


「ああ、彼女の声が聞きたくなったとかで先に帰ったわ。あいつもなんだかんだで彼女一筋なんだろうな」やれやれ、と新井は呟く。


 いつの間にか、時計の針は24時を回っていた。


 閉店間際の店を出ると、生ぬるい外の空気が僕の目を覚まさせた。

 酔い冷ましに自販機でペットボトルのミネラルウォーターを買い近くのガードレールに寄りかかった。


「なぁ平」新井が行きかう車を見ながら言う「『ひまりさん』って誰?」


「え、なんでその名前を」


「お前、寝言で何度も呟いてたぞ」ミネラルウォーターを一口飲む「彼女か?」


「ううん」僕を蓋を開けて3分の1を一気に流し込んだ。


「好きな人ってやつ?」


「まぁ、そういうところ」


「ふーん、なんか安心したわ」


「なんでさ」


「お前、女に対してどこか壁を作ってるところあるだろ。恐がっているっていうか」新井はペットボトルを右手でくしゃくしゃ潰す「だから、恐がらない女を見つけられたって知って、安心した」そう言ってこちらを向きニカッと笑う。


「そりゃどーも」そんな風に心配されてたことに僕はなんだか恥ずかしくなって、努めてつっけんどんに返す。


「一つ、アドバイスがある」新井はわざとらしく真剣な表情を作って僕を見る「お前、多分『今のままの関係が崩れるのが恐いから自分の気持ちは伝えずにおこう』とか思ってるだろ」


「うん、まぁ」そういう躊躇は確かにある。


「男女関係ってのは、一度『仲のいい友達』で固定されてしまったら、けっこうそこから抜け出せないもんだ。お前がそのひまりさんに友達以上の感情を持ってんなら、どこかできちんと伝えた方がいい」


「ためになるアドバイスどーも」


「なんていうか、俺たちもお前の幸せを願ってんだよ。それと、ノリに任せて女どもを読んでしまってすまない。お前に好きなやつがいるって知らなかったから」


「いーよ、色々考えてくれてありがとな」


 深夜の町は静かで、照れ隠しのつもりで呟くように言った僕の言葉さえ無遠慮に響かせる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 男子同士の友人関係、なんだかいいなと思いました。 平くんに想い人がいたのに女性達を呼んだことを謝ってくれたりとか、優しさにほっこりしますね。 どんなに見た目が可愛くても話が合わない女の子より…
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