第八話〜犬走椛登場!完成した武器〜
お昼過ぎ。カズマは昨日のにとりとの約束の時間が迫っていることに気付いた。
「霊夢〜、そろそろにとりと約束した時間なんだけど、昨日みたいに連れて行って貰うことは出来るかな?」
さっき、カズマは霊夢に敬語でなくて良いと言われた。それ程距離が縮まったと取るべきか、あるいは、単純に霊夢が敬語が苦手なだけか、何とも言えない複雑な気持ちがカズマを襲った。
「別に良いわよ、それじゃあ行くから、準備しなさい。」
霊夢はそう言うと、せっせと準備を始めた。そして、準備が出来たカズマは、両腕を横に広げて霊夢が抱えるのを待った。
「....あれ?霊夢?」
霊夢はいつまで経っても後ろから手を回すだけで昨日の昼間の様に抱き抱えようとはしない。
「だ....抱き抱えるの....恥ずかしい...。」
「....え?」
おかしい、昨日の昼間までは普通に抱き抱えて飛んでいたのだが....。
「いや、無理なら別に歩いて行っても....。」
「何言ってんのよ!あそこまで歩きじゃ半日歩ったって着かないわよ!」
霊夢はそう言うとカズマを抱えて飛び立った。しかし、昨日とは違い、霊夢の脈は速く、抱える力も異常に強い。
「霊夢、ちょっ、痛い!」
「あっ、ごめ....きゃっ!!」
霊夢とカズマはそんなやり取りを繰り返し、何度も墜落しそうになりながらようやくにとりの住む川に辿り着いた。
「はぁー、はぁー、にとりぃー!来たわよー!」
「ぜー、ぜー、にとりさーん!」
二人は物凄くバテた状態でにとりを呼ぶと、水中からひょこっと頭を出した。
「やあ!約束の物出来てるよ!ところで、なんでそんなにバテてるの?」
何も知らないにとりはきょとんとした顔をして聞いたが、最終的には何かを察した様で、それ以上は何も聞かなかった。
「それで、これが出来た銃とその弾丸一式なんだけどどうかなぁ?」
カズマはケースの中の銃を見て驚いた。
「にとりさん、これ本当に初めてですか?(どう見てもアサルトライフルなんですが....。)」
「凄いわね、これが外の世界の武器....。」
霊夢とカズマは目を輝かせた。
「そうだよ〜異変解決に使うって聞いてたから弾は妖怪や亡霊は殺せるけど人は殺せない様になってるんだ〜。まあ、その弾が人間に当たってもデコピンよりちょっと痛いくらいかもね。」
作った事が無いのに何という技術力....。流石は幻想郷だとカズマは感心した。
「それでね、ちょっと他の河童と話し合って私なりに改良したんだ!まず銃の先頭には赤いレーザーを付けたから、引き金に触れると点灯するよ!あと設計図にあったスコープ ?は暗視モード、赤外線モード、ノーマルモードの三段階で使えるよ!」
カズマはもう言葉が出なかった。元の世界でも不可能に近いことをこの河童達は成功させたのだ。正直、赤外線は使うかは分からないが。
「助かったわ、ありがとうにとり。」
霊夢がにとりに礼を言うと、それに続いてカズマも礼を言った。
「いいっていいって!それより霊夢、今日はもう暗いし、昨日人里で事件があったばっかりだから、今日は何処かに泊まった方がいいよ。」
「そうね、でも宿は決めてないし、どうしよ....。」
しばらく悩んだが、にとりはある提案をした。
「だったらさ、川に泊まってもらう訳にはいかないから、近くに妖怪の山があるから、椛の家に泊めてもらえるように頼んでみるよ!」
「ああ、それは良いかもね。椛の家なら多分この辺じゃ一番安全だし。」
「もみじの家?」
カズマは一瞬、植物のもみじが沢山植えてある家を想像した。だがそうではない事くらい流石のカズマでもすぐに察しがつく。
「あ、もしもし椛〜?今霊夢と最近幻想郷に来たカズマって人が居るんだけど、うん、帰らせるのは危険だから泊めてあげて欲しいんだけど、ダメかな?」
携帯電話のような道具を使ってにとりが通話している相手の声が、電話の向こうから聞こえてきた。
「(うん、今千里眼で見てるわ。良い人そうだし、霊夢さんも居るみたいだから、良いわよ。)」
どうやら許可を貰えたようだ。
「ありがとうにとり。」
「ありがとうございます。」
そう言うと、霊夢とカズマはその場を後にした。
十分ほど歩いただろうか、暗くてよく見えないが、峠の入り口が微かに見え始め、その前に人が立っていた。
「椛、わざわざ悪いわね。助かるわ。」
霊夢は人影に向かって話しかけた。カズマもだんだん目が慣れてきて、人影の正体が犬のような耳に尻尾を生やした少女であることが分かった。
「いえ、私は大丈夫です。こちらの方がカズマさんですね、私は犬走椛と言います。普段はこの妖怪の山の警備を行なっています。よろしくお願いしますね。」
笑顔で出迎えてくれた犬耳が特徴の少女椛は、なんだか、カズマが元の世界で飼っている犬のような愛らしいオーラを放っていた。
「はい、カズマです。よろしくお願いします!」
カズマがそう言うと、椛は笑って家に案内してくれた。
「ふふっ、私は見ての通り妖怪なのに、少しも怖がらないなんて面白い方ですね!では、二人共こちらへどうぞ。」
しばらく峠を登り、たどり着いたその家は、博麗神社とほぼ同じ大きさの家だった。
「ここが私の家です。どうぞ中へ。」
椛は二人を中に通した。
「椛、悪いんだけど先にお風呂借りても良いかしら。」
霊夢が椛に尋ねると、椛は快く承諾した。
そして、霊夢が入浴している間、カズマと椛はお茶を飲みながら話をする事にした。
「へぇー、それじゃあその銃という武器はにとりに作ってもらったんですか!私の事は撃たないでくださいね?」
冗談も交えてこちらの話に反応する椛は、また違った愛らしさがあった。しかし、カズマには椛と会ってからずっと気になっている事があった。それはこの犬のような耳と尻尾が本物なのか、という事だ。
会話中に時々ピクピク動く所や、面白い話をした時などに尻尾を振っている所を見ると恐らく本物だが。
カズマは飼っている犬の尻尾をよく触っているので、もふもふな動物やその尻尾を見るとつい触りたくなってしまう。でも、いきなり尻尾を触らせてくださいと言ったら変態みたいになってしまうので、カズマはぐっとその感情を抑えていた。
「....カズマさん、なんだかさっきからずっと私の耳と尻尾を見ていますね?もしかして、気になってたりとかします?」
椛にはバレていたようだ。
「はい、外の世界で犬を飼っていて、それでよく似ていて....。」
椛はしばらく黙ったままカズマを見つめた。そして、
「もし良かったら、触ってみます?私は全然OKです。」
思わぬ展開に困惑したが、カズマはありがたく触らせてもらう事にした。
「わあ、思ったよりもふもふですね。」
「えへへ、ちょっとくすぐったいです。」
見た目からして触ったらもふもふなのは分かっていた。しかし、実際に触った時の感触は想像以上だった。
「実は私、人間の男性と話すのが初めてなんです。なので、嬉しくて。」
「へぇー、俺は妖怪の女性とは結構話しましたが、犬耳の人と話すのは初めてですよ。」
そんな会話をしているうちに、霊夢が上がってきた。
「あら、二人とももう仲良くなったの?お風呂、いい湯だったわ。」
「良かったです、次、もしよろしければカズマさんも入って来られては如何ですか?」
「いいんですか?ではありがたく、お借りします。」
カズマはそう言って、浴室へと向かった。今、茶の間には椛と霊夢の二人だけである。
「....椛、貴女、悪霊は見たことあるわね?」
「はい、『死齶』となら出会した事があります。逃げられてしまいましたが、能力が能力でしたので、深追いは危険かと....。」
霊夢は椛の返答を聞くと、話を続けた。
「『死齶』の能力は自分が肉眼で見た武器を自由に形成する程度の能力ね...。ホントに、脅威度が悪霊最下位とは思えないわよね。そこで聞きたいのだけど、カズマは悪霊と戦っても勝てると思う?」
霊夢からの問いに椛は少し黙って下を向いた。しかし、すぐに顔を上げて答えた。
「正直、やってみないと分かりません。あの銃という武器がどこまで威力を発揮するのか、それと、カズマさんが銃を完璧に扱う事ができるのか。」
「椛、明日ちょっと付き合って貰えるかしら?」
「はい、大丈夫ですよ!」
夜の木々が騒めく妖怪の山....。カズマ、霊夢、椛の長い夜が幕を開けた。