第十四話〜悪霊の影、動き出した殺気(始まりの章)〜
登場人物紹介
八雲紫 幻想郷を管理するスキマ妖怪。
八雲蘭 八雲紫が作り出した式神。
死齶 悪霊の一人。階級は七位だったが、奈落刃が倒された事により、六位となった。
鶴珠狼 悪霊の一人。階級は四位で、黒い軍服を身に纏っている。腕の赤い腕章の模様を見た者を狂わせる程度の能力を持つ。
覇津瀬 悪霊の一人。階級は五位で、服装はビキニの上からパーカーを羽織っている。水を自在に操る程度の能力、水に自我を持たせて敵を襲わせる程度の能力を持つ。
天欺 悪霊の一人。階級は三位で、白い着物にショートカットの髪型をしている。周りの植物を自由に操る程度の能力を持つ。
骸邪 悪霊の一人。階級は二位で、博麗霊子の直属の側近でもある。服装は狩衣を着ていて、腰には太刀を佩用している。能力は一切不明だが、強さは八雲紫に匹敵するとかしないとか....。
「八年越しに現れた悪霊....。目的は何なのかしら。」
今日も青い空が広がる幻想郷、その空に少しずつ覆い被さろうとする影。八雲紫は、ただ一人で悩んでいた。
「人工的に引き裂かれた結界....。悪霊と関係無いとは思えないし、それに霊夢とカズマも二週間前に悪霊の奈落刃と遭遇して戦闘の末に撃破している....。となると残りの悪霊は六体ね....。」
正直なところ、悪霊が何を目的とし、何故今になってまた動き出したのか。それは紫ですら理解できなかった。
「紫様、何か考え事ですか?」
紫が悩んでいると、背後から声を掛けたのは藍だった。
「あら藍。ええ、ちょっとね。」
「悪霊の事でしょうか?一ヶ月程前、幽々子様より妖夢が死齶と遭遇したとの報告がありました。他からも報告が挙がっていますが、いずれも上位三体以下の悪霊でした。でもそのうちの一体、奈落刃は霊夢とカズマという少年によって倒されたと聞きましたが....。」
「ええ、しかし驚いたわ。あのカズマって子、あの銃という武器を持っている時の戦闘力は恐らく霊夢に匹敵するわ。」
それを聞いた藍は一瞬目を大きく見開いた。
「そうですか、そういえば紫様が最近スペルカードを作ったあの居酒屋の店主、あの方も中々の戦闘力かと思いますが、実際はどうなのですか?」
「....正直、高木はあまり血生臭い戦闘は好まないのよ。でも、彼なら恐らく、鶴珠狼あたりとなら一対一で戦えると私は思うわね。」
藍としては何とも信じがたい。いくら強いとは言え、外の世界の、しかも戦闘の経験すら自分達より積んでいない唯の人間にそんな戦闘力があるとは。
「紫様、いくら何でも信じがたいです。私は確かに彼は強いと感じました。しかし唯の人間が少しスペルカードをかじっただけで悪霊の四位と殺り合えるとは、流石に大袈裟では?」
藍の言葉に紫はふっと笑った。
「私は、殺り合ったとしても勝てるとは言った覚えは無いわよ?」
藍は少し黙り込み、目を瞑った。
「.......そうでしたか。それは失礼しました。」
「良いのよ、こんな話が出来るのは今だけかも知れないし、それに....。」
紫は言いかけると、焦らすように黙り、藍から目をそらして片方だけ口角を上げた。
「それに....何でしょうか?」
「いえ、そろそろ動き出すんじゃないかしらね。幻想郷の情報が私の耳に入るように、悪霊が人間に倒されたと言う報告は、当然向こうのトップにも届いてる筈よ。」
紫の感は鋭く、その頃丁度、『ソレ』はある廃神社で行われていた....。
人も妖怪も滅多に寄り付かぬ廃神社。その境内に、悪霊達は集められた。
「奈落刃ちゃんがヤられちゃったぁ。悲しい、悲しいなーぁ。」
「おい覇津瀬!そのでっかい声で独り言言うのやめろや。腹が立つわ。」
「ええ、もーう!死齶くんには人の心が無いのかなぁ。仲間が死んじゃったら私悲しいよぉ〜。」
仲間が死んだら....。元々自分達が死んでる事を分かっているのだろうか。そして死齶のイライラはそろそろ限界に達しそうだった。
「俺たちゃすでに死んでるようるせぇな!!二回目殺してやっても良いんだぞ!!」
「やぁん♡死齶くんったら溜まっちゃってるの?私が発散させて....。」
覇津瀬が言いかけたその時、もう一人の悪霊が水を差した。
「その辺にしといた方がいいですよ覇津瀬さん。折角可愛いのに台無しです。guten Morgen、死齶さん。」
「あら♡相変わらずお上手ね〜。今日も軍服が素敵だわ♡」
「おめぇは男なら何でもアリかこの男たらしが!!いや〜助かったぜ鶴珠狼。」
静かな笑みを浮かべ、軍服を身に纏う悪霊・鶴珠狼は、ポケットに手を突っ込んだままゆっくりと境内に入ってきた。
「いえいえ、もう慣れましたから。それより、骸邪さんから聞いて驚きました。奈落刃さんが博麗の巫女とカズマとか言う人間に倒されたとか。」
鶴珠狼が本題の話を始めると、死齶は腕組みをして話を聞いた。
「ああ、まさか人間に倒されるとはな....。」
「ね〜。奈落刃ちゃん結構強かったのに。」
本題を始めた鶴珠狼だったが、どうも人数が足りない事が気になっているらしい。
「ところで、骸邪さんと天欺さんはまだでしょうか?私もあのお二人に呼ばれたのですが。」
「ここだ。」
三人は声の方向を向いた。そしえ、朽ち果てた本殿の屋根の上に立つ人影を確認した。
「はっ、相変わらず高え所が好きだなぁ。骸邪さんよ。」
「死齶、これでも俺様は霊子様の次に階級が高いんだ。口を謹め。」
骸邪は死齶を睨みつけ、屋根から飛び降りた。そして着地をしたが、着地音は全く聞こえなかった。
「まったく....。鶴珠狼、お前は少し優しすぎる。もう少し厳しく後輩の躾をしなさい。」
「はっ、申し訳ございません。私も言ってはいるのですが、やはり物理的な躾の方がよろしいでしょうか?だとすると目玉を抉り出しましょうか?それとも内臓を抉り出して魚の餌に致しましょうか?」
笑顔で躾の方法を提案していく鶴珠狼。死齶はやれるもんならやってみろと言わんばかりに大きな態度を続けている。
「はっ、馬鹿馬鹿しいぜ。それに火力なら俺は結構上....。」
「確かにその態度は良くないの〜死齶。ボクが躾してあげなきゃ。」
死齶の背後から声が聞こえた次の瞬間、死齶の胸に大きな穴が開き、悪霊特有の真っ黒な血液が吹き出した。
「....は?何っのつもりだ....。あま....ぎ....。」
死齶はその場に倒れ込む。
死齶の胸に穴を開けた犯人の正体は、白い着物を着たショートカットの悪霊・天欺だった。
「何って、躾だよぉ。階級は一番下のクセに生意気だし、それにキミより強い奈落刃がやられちゃったんだから、キミに生きててもらっても使い道のないゴミみたいなもんだしね〜。」
天欺は表情は無表情であるが、声は笑っていた。死齶は口から血を流しながら必死に立ち上がろうともがくが、胸からの出血はどんどん勢いを増していた。
「天....。」
そしてついに、死齶は息を引き取った。するとすぐに赤黒い炎の渦が死齶を包み込み、その場には骨だけが残った。
「あらら、ボクったら殺しちゃった。やっぱドジっ子だなーボクって。」
「いえ、天欺さんの判断は正しかったかと。」
「さっすが天欺センパイ♡瞬殺だなんて素敵!」
天欺は無表情のままドジっ子アピールをするが、鶴珠狼と覇津瀬も、死齶を殺した事に関しては何も感じていないようだった。
「さてと、これで実質私達は霊子様を入れて五人になってしまいましたね。骸邪さん、霊子様からのご命令は一体どのようなものなのでしょうか?」
「ああ、俺様が聞いた命令はこうだ。階級は低いとはいえ、奈落刃を倒す事ができる人間を野放しには出来ない。そいつをしばらく探れ。」
聞いて来た命令のありのままを話す骸邪は、いつに無く険しい表情をしていた。
「ふふっ!なるほど〜。じゃあその人間の偵察は私が行くわぁ〜。」
覇津瀬はわざとらしく笑うと、霊夢、カズマの偵察を買って出た。
「そうか、では覇津瀬に任せるとしようか。それと、八雲紫、あいつが厄介だ。かなりの強敵だと聞いている。」
「そうだねぇ、それじゃあボクが行くよぉ。悪霊の中でも三番目に強いんだから、なんとかなるよねぇ。」
天欺は相変わらず無表情であるが、自信ありげな声で紫の討伐を買って出た。紫が厄介であるということは悪霊全員が考えている事である。しかし、決して弱くはない為、天欺は自分が最適だと踏んだ。
「天欺、油断するなよ。それじゃ、そう言う事だから。後は任せたぞ。解散。」
骸邪の解散の指示で、悪霊達は一斉に姿を消した。そしてその号令が、霊夢やカズマ、否、幻想郷の住人が見上げる青い空を、黒く覆い隠そうとしていた....。




